「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2024年3月22日 更新

#59

逃したくない人。

脇坂肇

今、私は異を唱えたいのです。
それは「ニセコバブル」について。
倶知安ニセコで起こっていることは、
本当にバブルなのでしょうか?
だって、ジュリアナニセコとか
マハラジャ倶知安とかありますか?
「ジュリセン」を片手に、
ボディコンスーツで闊歩する女性や、
肩パッド入りのウェアを着た人、いますか?
スキー場に行ったら、
広瀬●美の「ロマンス●神様」が流れていますか?
その現象がないというなら、
私はバブルと認めるわけにはいかないのです…!

最近の報道やネット記事を見て、
「ニセコ=バブル」
というイメージを持っている人は
多いんじゃないでしょうか。
一杯3000円のラーメン、
ドンペリが並んでいるドラッグストア、
高級肉の塊が数万円で売られているスーパー。
一般的な日本人の金銭感覚から
かけ離れた情報がメディアで
面白おかしく取り上げられています。

そんなウェイウェイしてそうな場所で、
当社、脇坂工務店は9年ほど前から
建物を何棟も建ててきました。
そのあたりのことは、
過去何度か、この「わかる話」でしております。
これとかこれとか御覧ください。

そんなお金が飛び交っている
倶知安ニセコで仕事をやっていると、
あたかも脇坂工務店がバブルにのっかって、
ウェイウェイしているように
見えていないか不安になります…。
「脇坂社長は、
現地の視察や商談に行くときに、
フェラーリで行っているらしい」
「フェラーリで行ったらスタックしたらしい」
「全身ARMANIのスーツで固めているらしい」
「でも、よく見たらARNANIになっていて、
知らずに偽物を着ているらしい」
とか噂になっていないだろうか…。

いやいやいや、
ここは完全否定させてください!
当社の真の姿を象徴する言葉があるので
ご紹介しましょう。
当社の創業25周年記念イベントで、
書家の若山象風先生に書いてもらった言葉です。
それは「脇役」。
まさにこれは工務店の本分だと思っています。
華やかな主役ではなく、
影で汗をかく脇役でいいんですよ、私たちは。
だからARMANIを着るとしたら影で着ます。
(いや持ってないです)

ありがたいことに、
当社はエージェントや設計事務所から
仕事の依頼を定期的にいただいております。
自分で言うのもなんですが、
頼まれた仕事については、
適正価格でやらせてもらっていると思っています。
いくら倶知安ニセコが“バブル”だからだといって、
謎の値上げをしていない、ってことですね。

や、需要と供給のバランスでいうと、
今は需要が非常に高まっている状況なので、
建てる側がカンタンに値段を釣り上げられます。
そりゃ、商売をやっている身としては、
利益が増えれば嬉しい。
ただ、一時的に利益が上がっても、
持続性がないのは間違いありません。
「脇坂工務店は調子に乗って、
暴利をむさぼっているらしい…」
なんて噂がすぐたつことでしょう…。
そして悪評が広まり、
仕事は先細っていくことでしょう。
お天道様は見ています。
私、仕事には真面目なんです。
(仕事には…?)

ただ…。
無闇やたらと儲けようとしてないとはいえ、
倶知安ニセコで依頼される物件のスケールは、
他地域とぜんぜん違うんですよね…。
同エリアの仕事を数多く担当してくれている
当社の現場監督Fさん。
彼は1億円以下の仕事を、
「小さい仕事」
って言いましたからね…。
こらこらこらダメだぞ!Fさん!
そんな言い方すると
「脇坂工務店は調子に乗って、
暴利をむさぼっているらしい」
と噂が立つじゃないか!

と思いつつも、
倶知安ニセコなら、
工事費が4億、5億円は当たり前。
数十億円のものも珍しくありません。
このエリアにおいて1億円の物件を
「小さい仕事」
と呼ぶ気持ちもわからなくはない。

だからと言って、
じゃあ当社の倶知安ニセコ在住の社員たちが、
1杯3000円のラーメンを食べているかと言えば、
そんなことはまったくなく。
「そんなラーメン食べたら、口が曲がっちゃうよな〜」
なんて笑い話をみんなでしています。
私たちは庶民なんです。
まあ、1杯3000円のラーメンの領収書を
しれっと経費精算で出してきたら、
「君は出汁となって、
ラーメンに生まれ変わりたいのかな…?」
と微笑みながら社員を問い詰めると思います。

そもそもですね、
「バブル」という言葉を、
「景気がいい」
という意味合いで使っていることに、
私は違和感を覚えているんです。

30年前のバブルは、
リゾート開発やら、不動産やら、株やらをめぐる
“狂乱”だと思っております。
バブルというその名の通り、実体がなかったわけで。
問題のひとつは、金融機関が土地を担保に
ジャブジャブ貸付していた点にありました。
あるタイミングで、
その貸付を金融機関がストップしたものだから、
バブルが弾けた、夢が覚めた、
という結果になったのだと私は認識しています。

では、「バブル」と呼ばれる倶知安ニセコはどうなのか?
金融の観点でいうと、当社の施主も含めて、
海外の方はみんな融資を受けずに
現金で支払いされるんですよ。
日本人の固定観念から逸脱したような、
異次元のお金持ちが世界にはいるんです…。
ちょっと詳しくは書けないですが、
ボディガードや、
メイドさんを数名連れて来日される人もいます。
高額な建物を建てること自体、
お金を持っている人からすると普通のこと。
それも、投資目的ではなく、
ステータスとして別荘を手に入れたいという
意向を感じます。

つまり、倶知安ニセコの好況には実体がある、
ってことです。
だからバブルって表現するのは、
ちょっと違うんじゃないかなと。
なにより、バブルの象徴である、
ジュリアナとかマハラジャとかないですし、
ワンレンボディコンで闊歩する女性もいないですし、
ましてやジュリセンも売ってないわけで。
銀座をザギンと呼ぶように、
ニセコをコニセと呼ぶ人もいないし、
現地在住の社員に電話をかけても、
「あ、シモシモ〜シモシモ〜、
社長〜、今度シースー連れってくださいよ〜」
とも言われないですし。
あ、もうこれくらいでいいですか。

以前、従業員用のアパートを建てる話をしました。
金融機関から融資を受けて建てているのですが、
かつてのようなバブルだったら、
「ジャンジャンバリバリ貸しますから!」
とパチンコ屋のようなフレーズを口にしつつ、
融資担当者は目を¥マークにして、
私に迫ってきたことでしょう。
今回、そんなことはまったくなく。
淡々と必要な事務手続きは進んでいきました。
浮かれてないです、金融機関。

このアパートも投資が主目的じゃないですから。
あくまで倶知安ニセコの現場で働いてくれる
スタッフたちの宿舎にすることが主目的。
まあ、賃貸物件としても貸出もするので、
「投資目的ではまったくありません。
儲けたくはまったくありません」
と言ったら、
閻魔様に舌を引っこ抜かれるでしょうが、
あくまで賃料で入ってくるお金は、
おまけみたいなものだと思っていますよ。
閻魔様、本当です。

私がやっていることは、
倶知安ニセコで良い仕事をするための体制づくり。
子どもでもわかることを改めて言いますが、
「人がいないと建物は建てられない」ですから!

そんな「人」といえば、
最近、建設業界の潮目が変わったと
感じることがありました。

ここ数年、年に4~5件ほど、
会ったことがないエージェント、
設計事務所、開発業者などから
「相見積に参加してくれませんか?」
「入札案件があるんですが、興味ないですか?」
と問い合わせが入ってくるんです。
が、原則すべてお断りしています。

理由はいくつかあるんですが、
まず何より見積もりをつくるだけでも、
結構な労力がいるんですよ…。
倶知安ニセコの案件だと
建築規模が大きいことがほとんどで、
かつ、初めて見るような凝ったデザインや
構造のものが多いんです。
となると、見積もり作るのも
一筋縄じゃいかないんですよね。

こちらとしては、
今までお付き合いのある会社から
継続的にお仕事のご依頼やご相談を受けていますから、
そちらに全力を注ぎたい、というのが正直なところ。
よって、相見積や入札を断っているんです。
少し前の業界なら、
ちょっと考えられない状況です。

これは、当社に限った話じゃなくて、
本州などでも同じようです。
ある設計事務所から聞いた噂をご紹介しましょう。

場所は本州のとある有名リゾート地。
そこそこお金をかけて建物を建てる、
あるプロジェクトが動いていたそうです。
施主はいわゆるひとつのお金持ち。
依頼された著名設計事務所は図面を完成させたので、
それを実際に建ててくれる会社を探すため、
相見積もりを10社に依頼したのだとか。
しかし…。

見積もりが出てきたのはたった1社のみ…。
しかもその1社も、
ベラボウに高い見積もりだったとか。
それくらい、施工する側が
仕事を精査して受けたいという状況なのでしょう。

かつては設計事務所が上、施工会社が下、
みたいな構図でみられることが正直多かったんです。
そのパワーバランスが今や変わってきました。
いくら素晴らしい設計図を書いても、
建ててくれる人がいないと、
ただの絵に描いた餅ですからね…。

話の根底にあるのは人手不足。
仕事を受けようにも、
人がいなくて受けられない会社が散見されます。
業界の全体の課題として、
職人の人手不足や高齢化は
ずっと叫ばれ続けているものの、
決定的な打開策がなく、
徐々に建物が建てられなくなりつつあるんです。
倶知安ニセコにおいても、
施工会社が足りていないことは、
私も肌で感じておりまして、
「10年後、札幌もこうなるんだろうか…」
と思わずにはいられません。
家を建てられるプロを確保することが、
工務店としての使命になってしまっているのです。

そこで、脇坂工務店では
世紀の大作戦を実行に移しております。
その名も
「大工さんを逃さないぞ♡作戦」です。
別名、
「脇坂工務店で働きたくなっちゃうぞ♡作戦」
です。
どうですか、破壊力のありそうな作戦でしょう。
その詳細を世界初公開します。

作戦の中身を話すにあたって、
まず当社の大工についてご紹介しましょう。
厳密にいうと、彼らは当社社員ではなく、
脇坂工務店の関連会社Kai(カイ)建築
社員たちです。
代表は同じく私、脇坂肇でございます。

現在、所属している大工は総勢8名。
基本的には、
その8名で現場をまわしていくわけですが、
当然色んな案件が並行して動くことになるので、
人手の足りない状況が出てきます。

そんな時にはパートナーである外部の大工に
応援を依頼しています。
個人事業主や小さな会社がほとんどです。
繁忙期には、そういった助っ人含めて最大30名が、
当社の現場に携わっているという状況になります。
やはり自社の8名だけじゃ、
人手が足りないことが多いんです。

その危機的状況を受けて発動した、
「大工さんを逃さないぞ♡作戦」。
ここだけの話ですが、詳細を教えましょう…!
なんと、
Kai建築は1人に1台、車を貸与しているんですッ!
車種は人気のハイエースやキャラバンなど!
ガソリン代やメンテナンス費用なども会社負担!
自宅と現場間の移動について、
会社が費用を負担しているってことなんです!

「なんだ、そんなことか…」
と思ったあなたは甘い!
これが大工のハートを鷲掴みにするんですよ。
もちろん金銭的なメリットを感じてくれるわけですが、
それだけではありません。
大工って使い慣れたお気に入りのマイ道具を
大量に所有しているので、
それらを車に積みっぱなしにできることを、
非常に喜ぶんですよね。
いちいち会社に車を返していたら、
積み替えの手間がかかりますから。
彼らにとって、
車は「自分の城」に近い存在なのかもしれません。

これ、同業界の人が聞いたら、
おったまげるレベルの高待遇なんですよね。
1人に1台ですから。
先日は会社に車をリースしたりしている
カーディーラーの人からも、
「そんな会社、見たことないですよ…」
と驚かれました。

もちろん車はプライベートで使ってもらっても結構。
でも、うちの職人たちは真面目だから、
「か、母ちゃんと旅行行った時は、
ちゃんと自腹でガソリンいれてっから!」
と聞いてもないのに、私に教えてくれます。

そして、作戦のもうひとつの目玉が給与体系。
当社は固定給で払っています。
これも業界では珍しいんです。
稼働した日数に応じて支払われる
日給・月給システムが一般的。
しかし、うちの大工は
雨がふって現場が休みになろうが、
工期の都合上、現場と現場の間が数日空こうが、
一律で毎月給料が出るというシステムです。
これなら家族持ちで収入を安定させたい職人も
安心して働けるし、人生設計がしやすいですよね。

2024年春には、新たに2名の大工を迎え入れます。
2人とも元々は当社の外注先で、
個人事業主だった大工です。
当社の社員大工の厚遇ぶり、
特に車が1人に1台与えられるってのが
転職の決め手になったようです。
ふふふ…。
完全に脇坂肇の術中にハマっている…!

かなりの効果があると睨んで、
4,5年前から車の作戦は始めていました。
大工などの職人って噂好きなんですよね(脇坂調べ)。
どこどこの現場は大変だったとか、
どこどこの元請けの会社は良いとか、
休憩中、缶コーヒー片手に噂話に興じております。
だから、
「Kai建築の大工は、
1人1台、車を与えてもらっているらしい」
というネタは、
噂になりやすいだろうと読んでいたんです。
結果、大工のハートを鷲掴み♡。
どうですか、脇坂肇の策士ぶり、
恐ろしいでしょう!

こんな作戦を実行しているのは、
10年後、現在の60代の職人たちが
引退する時を見据えてなんです。
何も手を打っていなかったら、
まさしく、
「仕事はあるし、設計図もあるけど、
建ててくれる人が誰もいない!」
という事態になりかねません。
先手先手で大工たちを仲間に迎え入れるべく、
生み出したアイディアなのです。

ここに追い打ちをかけるように、
今新たな策を仕込んでいます。
それは宿舎。
2023年に立ち上げた
倶知安ニセコオフィスの隣に、
大工の宿舎を建設中です。
日々の仕事を全力で頑張ってもらうためには、
快適な寝床は必要不可欠ですからね。

さあ、これを読んでいる大工の方、
転職はいかがでしょうか。
脇坂工務店に入れば、
車も快適な家も付いてきます。
あ、脇坂肇も付いてきます。
何より大工として力のふるい甲斐のある、
とんでもない図面も待っていますよ。
倶知安ニセコの建物、
まずお目にかかれない物件ばかりですから、
図面みたら、
「うわー、なんじゃこりゃ!」
って燃えるはずです。

あ、言い忘れていました。
「大工さんを逃さないぞ♡作戦」
の一番のキモは、
逃げる大工を脇坂肇が追いかけることでした。
想像してみてください。
「待て待て〜♡」
と言いながら、
高速で迫ってくる脇坂肇を。
倶知安ニセコの場合は、
ジュリセン片手にボディコンで追いかけます。
どうですか。
脇坂工務店に転職しますか?
それとも私から逃げ続けますか…?(微笑み)

脇坂肇