2023年1月20日 更新
#45
言葉の壁より、家の壁。
ものすごくキレイな若い外国人女性が、
私に話しかけてきました。
ある夜、ススキノの道端での出来事です。
どうやら英語で
「札幌駅はどちらですか?」
と聞いているようだったので、
私は札幌駅方面を指をさしつつ、
ビシッと一言、言ってやりましたよ。
「サブウェイィィ!」
女性は
「Thank
you!」と(たぶん)言って、
笑顔で去っていきました。
日本男児たるもの
ベラベラ喋るのはよくないですからね。
やはり一言で決めないと。
サブウェイと咄嗟に口にできた自分を褒めたい。
そんな英語力の社長率いる脇坂工務店が、
なぜ倶知安ニセコで仕事ができているのか。
世界七不思議のひとつに数えられているらしい、
その謎を全公開します。
ここ数年、倶知安ニセコで、
当社の案件がいくつも動いている状況が続いています。
このエリアでの仕事は、
「NEOデザインハウス」
に端を発していると考えています。
このわかる話#22に
その立ち上げの経緯は詳しいのですが、
ものすごくざっくりいうと、
「他社が嫌がるような、設計士と仕事をする」
という戦略を当社はとったのです。
2006年ごろのことです。
「他社が嫌がるような設計士」
って読点、いわゆる「、」をですね、
入れずに読むと
「おやおや、脇坂くんのところは、
このくらいの図面も形にできないのかなぁ。
おかしいなぁ〜」
とネチネチ嫌味を言ってくる感じの悪い設計士を
思い浮かべるかもしれませんが、
そういうことではありません…!
もう少し詳しく説明しましょう。
他のハウスメーカーや工務店のように、
同じような家を大量に建てていくほうがラクです。
ある意味、苦労せずに儲かります。
対して、脇坂工務店は、
世にあふれている画一的な家ではなく、
一軒一軒異なる個性的な家を建てることに
舵を切りました。
それも設計事務所とタッグを組むという
仕事のやり方を選んだんです。
でも、これは同業の人からすると、
「めんどくせ〜!」
って思うような選択です。
なぜなら、設計士と組むということは、
基本的に毎回異なる家を建てることを意味します。
施主の要望にあわせて
オーダーメイドで家をつくっていくためには、
何度となく話を重ねていかなければなりません。
効率の観点だけで言えば、非効率の極み。
さらには、設計士が描いた図面に応じて、
普通ならやらないような工法や作り方に
チャレンジする必要が出てきます。
これも一般的な工務店は嫌がります。
いつもと同じ工法で、
いつも通りやれば失敗はしないし、
エネルギーだって必要としないですから。
ただ、
「他社と同じことはやらない」
というのが私のポリシー。
イバラの道だとわかっていても、こっちの道、
つまり設計士と組む道を選びました。
案の定、まあ大変なこと、大変なこと…。
心が折れそうになることもありましたが、
お客さまに喜んでいただける手応えは、
確かにありました。
この流れを繰り返していると、
徐々に個性的で特殊な家も
難なく建てられるようになってくるものです。
設計士のムチャぶり…じゃなかった、
期待に満ちた依頼に応えるうち、
監督や職人の技量が上がっていきましたからね。
それにつれて当社のWEBサイトには、
バラエティに富んだ施工事例が並ぶようになります。
ここがひとつのターニングポイントでした。
WEBを見た道外の設計事務所から
仕事の相談が入るようになってきたのです。
というのも、当時はちょうど
倶知安ニセコエリアの人気が盛り上がっていた頃。
家を建てたい、別荘を建てたい、みたいなニーズが
たくさん生まれていたんです。
施主は道外の著名設計事務所に声をかけて
「ニセコにセカンドハウスがほしい!」
なんて言って、話を進めていくものの、
最終的には現地で家を建ててくれる
工務店・建築会社が必要になってきます。
それも、北海道という特殊な気候環境の特性を
熟知して、家を建てられる会社を
設計事務所は探していたのです。
当時インターネットで「北海道 工務店」で検索すると、
当社が検索結果の上位に現れる状況だったため、
ぽつぽつと問い合わせが増えていきました。
この「樺山の家」もその1つ。
東京のフロリアン・ブッシュ建築設計事務所が設計し、
建設工事を脇坂工務店が担当しました。
最初に問い合わせをもらった時は、
何かのドッキリ?と思いましたよね…。
東京のなんだかすごいオシャレな
建築事務所からオファーだったので。
フロリアンさんとは、
その後もお仕事をご一緒する機会が何度かあり、
うまくいったケースです。
しかし、倶知安ニセコでの仕事を増やし始めた当時、
他社とは色々あったんですよ…。
血の涙を流しそうになるくらい。
ラジオへの出演を決めたのは、
WEBサイトへのアクセス数を伸ばすため、
とわかる話#7でお伝えしていました。
北海道で工務店を探している企業や
設計事務所に見つけてもらいやすくする、
というのが狙い。
かつ、倶知安ニセコエリアって、
私の肌感覚としてはラジオユーザーが多いんです。
同エリアでの建築実績ができ始めた頃と
タイミングを同じくして、
ちょこちょこ引き合いが増え始めていきました。
ほとんどが外国人の施主から依頼を受けた
エージェント(代理人)のようなところからです。
ただ、建築のことを
よくわかっていない人も多くてですね…。
これが苦労の一因となりました。
何が困るって、
仕事が決まるのか決まらないのかわからないものが、
一番困るんですよね。
さんざん苦労して見積もりを出すところまで
作業を進めたのに、やっぱりやめた!って
結局ご破産になるなんてことが、
何度もありました。
しかし、転んでもタダでは起きない脇坂肇。
傷を負うごとに、
特殊能力を磨いていったのです…。
それは、危険な案件に対して、
「なんか臭うな…」と危険を察知する能力です。
まるで炭鉱でガス漏れを教えてくれる
カナリアのごとく。
打ち合わせ中に危険を察知したら、
突然立ち上がって、
チュンチュンチュンチュン!!!
と鳴き始めて仲間たちに知らせますから。
カナリアは、もっとちがう鳴き方な気がしますし、
本当に立ち上がったことはないかもしれません。
あくまでイメージです。
そうこうしているうちに、
2015年ごろのことでしょうか。
不動産や建築のエージェントをやっている、
オーストラリア出身のOさんと出会うことになります。
きっかけは彼の自邸の建築を依頼されたことでした。
相談を受けて、何度も打ち合わせを重ねて、
家を建てていく過程で、
Oさんはうちの現場監督や職人たちの技術や対応を
評価してくれるようになったんです。
以来、家を建てたいという外国人の施主と、
当社との間に入って調整してくれる
優秀なエージェントとして、
Oさんは欠かせない存在となっていきます。
大体の場合、外国人の施主は、
自国で設計士を決めています。
ただ、そうなると
日本の耐震基準や建築基準法を把握しないまま、
設計しているパターンが多いんですよね。
渡された図面を目にすると、
「全面ガラス張りであたかも外の自然と
一体になったようなデザインですね。
でも、室温も外と同じくらいになりますけど…」
みたいな家とか、
「これだと震度3とかで、
コントのセットみたいに倒れますが…。
あ、施主はひょっとしてドリフ?」
みたいな家とか。
ここで脇坂工務店の出番です。
北海道の自然環境に家をどう適応させるか、
地震に対しての対策をどうするのか、
といったノウハウを提供していきます。
当社を経由して、
構造設計を得意とする事務所に依頼し、
日本の建築基準法的に問題ないよう
図面を調整することも日常茶飯事。
こういったことが外国の設計事務所や
施主からものすごく重宝がられるんです。
またエージェントのOさんは陽気な外国人。
日本語ペラペラで現場監督たちとの
コミュニケーションも円滑。
エージェントというポジションって、
日本の建築業界だと馴染みが薄いですが、
海外相手だと欠かせないことを痛感しています。
言葉や文化の違いの問題があって、
施主や設計士にこちらの意図やニュアンスが
うまく伝わらない時に、
間に入ってうまく翻訳してくれます。
何度か仕事を共にしている海外の設計事務所も含めて、
良いチームワークが
発揮できるようになってきました。
倶知安ニセコの現場では、
うちの現場監督や職人たちが
非常に頑張ってくれています。
現地に社宅を用意しており、現在3名が常駐。
さらに2名が必要に応じて通ってくれています。
では、社長である脇坂肇は何をしているのか?
ズバリ言うと、
月一回、倶知安の街なかで飲んでいます!
…いやいや、遊びじゃないですよ…。
月一回、大体水曜日のことが多いのですが、
札幌でのラジオ出演を終えて、
ちょっとした用事を済ませたら、車を走らせます。
目指すは定宿にしているひらふのホテル。
そこにチェックインして一息ついたら、
現地の社員たちと連れ立って、夜、食事に行くんです。
平日は家族を札幌に残して
頑張ってくれている人たちばかり。
普段は社宅と現場の往復の生活ですから、
月1回くらい労ってあげたいという気持ちから、
この慰労訪問が最近のルーティンになっています。
会場は倶知安の町中にある焼肉屋や居酒屋など。
「好きなものを食べて!」
というと、本当に容赦なく彼らは食べるので、
事前にATMに寄るのもルーティンです…。
この宴会の光景だけを目撃されると、
「あそこの会社の社長、
月一回遊びに来ているだけだな…」
と思われているかもしれませんが、
れっきとしたマネジメントの一環です。
しかも、ただ飲み食いしているわけではなく、
この訪問が、現地の最新情報を
手に入れるのに非常に役立っているんです。
来年の現場の状況はどんな感じなのか、とか、
周りではどんな仕事が発生しているのか、とか。
ネットでなんでもわかる時代だけど、
実際に足を運ぶことで、手に入る、
耳に入ってくる情報って確実にありますから。
ささやかな例をあげると、2022年12月のこと。
スキー場に通じるひらふ坂を歩いたら、
ここはどこの外国だろう?と思うくらい、
もう外国人ばかりで、めちゃくちゃ混雑してました。
コロナの騒動を抜けて、
もう日常が戻っていることを肌身で感じましたね。
こういう体験って大したことないようにも思えますが、
世の中の動きに敏感であるべき商売人として、
かなり大事なことだと思っています。
そんな社長としての仕事が功を奏してなのかは
わかりませんが、
2023年に予定されている倶知安ニセコでの仕事は、
お伝えできるものだけでも、
●億の新築の家、●億の新築の家、
●億のアパートと目白押しです。
果たして●に入るのは100なのか!
0.0001なのか!
当社がニセコでいくつも家を建てていることが
多少知られてきたのか、
道外や海外の設計事務所から
新規の相談が年1、2件は問い合わせがきます。
現在まとまりそうな案件が1つありまして、
それはアメリカの施主と設計事務所から
声をかけてもらったもの。
問い合わせ段階では、
「北海道のいくつかの工務店に声をかけて検討中」
と聞かされていました。
建物という高額な商品の特性上、
業界的にはよくあることです。
そのオーディション段階で、
当社は倶知安ニセコでの実績を提出しつつ、
先方との面談に臨みました。
ほどなくして
「脇坂さんにお願いしたいと思っている」
という一報が。
見積もりを出す前から、
こういう言葉をかけてもらえるのって
かなりのレアケースなんです。
うちがやってきたことが認められた気がして、
これは嬉しかったですねぇ。
「なかなか、見る目あるじゃないか、
ヘイ
メーン!」
とアメリカンの代表とハイタッチしていました。
心の中で。
で、後日テレビを観ていたところ、
「オリンピックで建てられた
隈研吾設計の国立競技場を、
外国人設計士はどう評価するのか?」
みたいな番組をやっていたんです。
すると、外国人設計士の一人として、
そのアメリカ人の代表が
コメントしているではありませんか。
そんなに有名だったんだ!
やっぱり、私には見る目がある!
ヘイ
メーン!
そんな大御所に本当にハイタッチしなくて良かった。
NEOデザインハウスという、
イバラの道に自ら飛び込んで行き、
ちょっとスリ傷を負いましたが、
そのおかげでここまで来ました。
でも、まさか海外の人たちと
こんなに仕事をすることになるとは
夢にも思っていなかった。
世界に羽ばたきそうな脇坂工務店です。
私は飛行機に乗らないけど。
(わかる話#44参照)
外国人たちから無理難題言われる度に、
笑顔で「いや無理っすね」と日本語で言いながらも、
なんとか食らいついて、形にしていったんです。
日本人の人たちから見れば、
竹●直人の笑いながら怒る人、
みたいな感じだったかもしれません。
(若い人は知らないかな…)
でも、ただただ無理難題に耐えるのではなく、
言うべき時には、ちゃんと言ってきたのも大きかった。
もともとリフォーム業から出発した当社なんで、
「あ、それをやると雨漏りをするな…」
とか危険センサーが働くんですよ。
施主さんの不利益になるようなことは、
きちんと設計事務所に伝えて反対します。
たまに設計士さんから愚痴を聞くこともあるんです。
「いやー、別の現場で、
とある工務店に図面見せたら、
『これはできない』って言われてさ…」
みたいな愚痴です。
皆さんが思う以上に、現場監督や大工の力量って、
会社によって異なりますから。
ただ、街の中華料理屋の大将に、
いきなり「フレンチつくって」って言っても
なかなか難しいのと同じで、
どっちがいい悪いとかではない、
っていうのが正確なのかもしれません。
と、ここまでお話してきましたが、
恐らく
「倶知安ニセコで家を建てる予定ないから、
こんな話関係ないし!」
って思っている人がいますよね。
いえいえ、世界基準のレベルを求められて、
鍛えられた技術やノウハウは、
他地域で家を建てる際にも必ず活きてきます。
よりご満足いただける家を
私たちは建てられるようになっていると
確信しています。
さて、ニセコで仕事をする上で、
肝心の言葉の問題について、です。
ニセコの仕事をし始めたころは、
ちょいちょい英語が必要でした。
外国人からの電話が会社に直接かかってきたからです。
片言の日本語と英語を織り交ぜながら。
これは対応に本当に四苦八苦しました。
「ドラ●もん、
ほんやくコ●ニャク、ちょうだい〜」
と思わず口走りそうになりました。
ついつい「イエス、イエス〜!」と連発していたら、
こちらに不利な条件を飲みそうになっていて、
「話のわかる」を通り越して、
「話のわかりすぎる」工務店になりそうなことも。
で、そういうお客さんって
どうしてもトラブルになりがちなんです。
悪意がなくとも、
やっぱり言葉や文化の違いがありますから。
今はOさんのようなエージェントが
間に入ってくれるので、
実は英語でやりとりする機会ってゼロ。
だから、私のようなサブウェイ!おじさんの会社でも、
倶知安ニセコで仕事が成り立つんですねぇ。
そもそも工務店たるもの、
言葉の壁を気にするよりも、
家の壁の仕上がりを気にしたほうがいいですから…
…あ、すいません、つい呼吸をするように
自然と名言が出てきてしまいました。
こんな私たちの状況を見て、
「今からうちも、倶知安ニセコに進出すっか」
と思う同業者の皆さま。
正直言ってどうやっていいか、
わからないのではないでしょうか。
私が同じ立場だったら、そう思うはず。
悪いことは言いません。
やめておいた方が身のためです。
いやいやいや、
ライバルを増やしたくないってことではなく。
心の底から御社のことを思っているからこそ…。
こっちの縄張りに来ないで!
と思わず口に出そうになるのをこらえて、
アドバイスしておきます。
どうしてもって、ことならば、
脇坂肇がエージェントをやりましょうか。
大丈夫です。
英語がわからなくても、
野生の勘でなんとかしますから。
オーケー?
脇坂肇