「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2023年9月15日 更新

#53

新規事業、進行中。

脇坂肇

「サイドビジネス」
どことなく胡散臭さが漂う言葉だと思っていました。
例えば
「飲食店を始めるんですよ!」
と言われると、
あたたかい目で見守りたくなりますけど、
「飲食店を始めるんですよ、サイドビジネスで!」
と言われると、
生あたたかい目で見つめながら、
「タピオカミルクティー屋でもやるんですか」
と相手に聞きたくなりませんか。

しかし、私が間違っていました。
そんなサイドビジネスをきっかけに、
当社の新規事業が生まれようとしています。
ありがとう、サイドビジネス!

今から1年ほど前の2022年、夏の話です。
私が仲良くさせてもらっているお客さまから、
「ある事業をやっていて、
めちゃめちゃ儲かっている人がいてね…。
儲かりすぎなんじゃないかってくらい
儲かっているようで…。
その人が脇坂さんに
ビジネスのことを相談したいんだって」
と一人の人物を紹介されました。

会ってみると、
40代くらいのこざっぱりとした男性です。
本業が儲かり過ぎているから
(とは本人は言ってなかったけど)、
いわゆるサイドビジネスと言いますか、
別の事業にも興味を持っていて、
レンタルガレージを始めようとされていました。
そのために土地を探しており、
巡り巡って私を紹介されたとのこと。
彼の名前をSさんとしておきましょう。
サイドビジネスのSです。
(ディスってないです)
だから、会ってすぐに
「札幌市内に広くて安い土地ってないですか?」
と尋ねられたんです。

もうね、「札幌市内」の「さ」を口にされた瞬間から
「ないです」
とかぶせ気味に言いたかったところ、
グッと堪えましたよ。
この「わかる話」で何度もお話ししている通り、
札幌市内の土地は高騰しております。
「狭くて高い土地」ならありますよ。
「広くて安い土地」があったら、
私が光の速さで買っているので、
もう何も残っていないですよ!
…と説教しようかと思いましたが、
Sさん、不動産を絡めて事業をやるのは
今回が初めてということだったので、
少し優しい気持ちになった私。
決して
「めちゃめちゃ儲かっている人がいてね…」
という言葉を思い出したせいではありません。

とは言え、ないものはないので、
どうしたもんかなと思った時に閃きました。
脳内に
「儲かりすぎなんじゃないかってくらい
儲かっているようで…」
という情報が蘇ったせいかもしれません。
お金のパワーよ!
そうです、ある土地のことを思い出したのです。

それは、 #29「私が地主です。」で語った、
あの曰く付きの土地です。
おさらいすると、北電の鉄塔が立っている土地で、
「地役権設定」がされている物件。
電波の影響を防ぐため、
家などの建物の建設をNGにするべく、
地役権設定がされているんじゃないか、
というのが私の推測です。
ただ、建物はNGでも駐車場利用はOKで、
実際駐車場として活用していますし、
仮設の倉庫、いわゆるスチールガレージであれば、
許可さえとれれば置けることになっています。
しかも、それなりに札幌の中心部に近い場所。

札幌市内で安くて広い土地といえば、
ここでしょ!とSさんに提案したところ、
「スチールガレージか…」
とSさんは冴えない表情を浮かべています。

「何か問題でも…?ここで私もレンタルガレージの
ビジネスやってもいいかなぁと思っていたので、
ぴったりかと…」

「あ、いや、レンタルガレージといっても、
普通の車をしまう場所ではないんですよね」

「どんな車ですか?」

「ちょっといい車を保管するイメージなんですよね。
フェラーリとか」

「ふぇ、ふぇらーり…?」

「そう、フェラーリ。だからガレージ自体も
高級感ないとダメだなと思っているんですよ」

フェラーリなんて
空想上の乗り物かと思っていましたが、
Sさんによると北海道にもオーナーが結構いるとのこと。
そういった高級車は、
走行距離が上がって価値が落ちないよう、
乗らずに保管されることが多いとか。
そのための場所を提供すれば、
ビジネスになるとSさんは考えたようでした。

なるほど、彼の考えるレンタルガレージ事業が
徐々に私もわかってきましたよ…!
ただ、札幌市内だと土地代だけで
かなりの高額になってしまい、
事業として成立しにくいはず。
そのあたりの嗅覚やソロバンをはじくことに
慣れている私です。
そこで、また閃きました!
私、一休さんの生まれ変わりかもしれません。
あ、わからない人はきっとお若いので、
気にしないでください。

そういえば、銭函に2400坪の土地の話があった!
ある企業が手放す予定らしいとの
情報をキャッチしていたんです。
ならば、それを脇坂工務店が取得して、
それを切り売りするといいのでは!
我ながらナイスアイディア。
そこで、Sさんに、
「銭函の1200坪を買いません?」
と提案したのです。

後日、Sさんから連絡が入ります。
彼が今回の事業についてアドバイスを求めている
カーディーラーの人間がいたらしく、
彼に銭函の土地のことを相談したところ、
「銭函…?
マジすか。
いやいやいや、ウケるぅ〜。
銭函なんてハンパなく遠くないっすか〜?
ないないないない。
ないよりのない!」
という反応だったとか。
(実際、そういう言い方していたのかは不明で、
私の脳内イメージです)

「なので、ちょっとやめておこうかと…」
これで、Sさんとの商談はご破産となりました…。

…良かれと思ってせっかく工夫して提案したのに、
よりによって私の愛する銭函をバカにするとは…。
この恨み…どうしてくれよう…。
絶対そのディーラーの人間、
先の尖った靴を履いているに違いない…。
(会ったこともないので、私のイメージです)

が、しかし。
この話が上手く進まなかったことは、
今思えば神のお告げだったと思うのです。
そうです、私は運命に導かれるように、
新しい道へ進み始めたのです…!

Sさんのサイドビジネス話が立ち消えた後も、
私はレンタルガレージのことが気になり、
さらに調べてみたんです。
銭函をバカにされた(と思い込んでいる)から、
というのも大きかったでしょう。
このあたり、転んでもタダでは起きないと
我ながら思います。

WEBでリサーチしてみると、
すぐにいくつかのガレージを発見。
例えば、ある会社が運営している物件は、
車を2台止められる広さで、
セキュリティは防犯カメラ付き。
札幌市のややはずれで、月額6万円。
キャパは数十庫あるのですが、
ほぼほぼ埋まっているんですよ。
似たようなスペックの他物件も、
札幌市の街中から外れた場所にあって、
どれも好調に稼働しているようでした。

そのような市場情報から、
私が思ったのは、それなりに郊外でも
成立するんだなということ。
江別とか石狩とかでニーズがあるなら、
銭函なんてむしろ好立地なのでは。
だって、銭函って手稲の隣にあり、
高速のインターもすぐそばです。
厚別区や清田区のように高速のインターから
近い場所が生活圏の人なら、むしろ近い。

レンタルガレージをやる上で、
銭函というエリアは良さそうです。
あとは、土地の問題。
安価で広さのある土地をどう仕入れるか。
そこについても、
私は一つ勝算のようなものがありました。
遡ること、2021年。
1800坪の土地をまるっと取得して、
それを2区画に分けて販売したことがあるんです。
どちらも無事に販売できたという実績があったので、
ちょっとした自信のようなものがあったんです。
つまり、大きめの土地だとしても、
求める人に応じて、それを大きく区切ったり、
小さく区切ったりして切り売りすれば、
ある程度の勝算があるんじゃないか、と。

そこで、私は決断します。
Sさんに勧めて、
カーディーラーに酷評された(気がする)、
銭函の工業団地、2400坪の土地を取得したんです。
それを1200坪、600坪、300坪、300坪の
4区画に分けました。
2400坪という広さをまるごと買ってくれる会社は
なかなかいないとしても、
600坪とか1200坪とかの広さなら、
きっと探している会社はいるはず!
という肌感覚があったのです。
このあたりは、
数字やデータなどで証明できない領域と言いますか、
野生のカンと言いますか。
なかなか人に教えづらいところですね。

で、土地を売りに出したところ、
狙い通り、すぐに問い合わせが入りました。
まず1200坪ですが、
札幌の老舗企業が買ってくれました。
銭函界隈で、ずっと土地を探していたそうです。
さらに600坪も問い合わせがあり、
じきに売れそうな予感が漂っています。
ここは焦らず待つことしつつ、
残りの300坪×2区画は
自社で保有することにしました。
新規事業を始めようと思ったからです。
何をやるかって?
そうです、おわかりの通り、レンタルガレージです。
銭函がこのビジネスにふさわしいことを証明して、
カーディーラーに見せつけてやるためですよ!
借りたいって言っても絶対貸してやらないから!
…あ、取り乱しました。
失礼。

手始めに300坪の区画1つを使って、
トライする計画を立てています。
まず決めたのが、
「レンタルガレージ」
というカテゴリーにはしないでおこう、ということ。
ガレージって直訳すると「車庫」ですよね。
すると、文字面からどうしても
「家の車庫の代わり」
みたいなイメージが出てきます。
それの何が悪いかって、利用客を狭めてしまうこと。
特に、法人にも借りてもらうことを考えれば、
活用のイメージは広くしておいたほうがいい。
なので、カテゴリーとしては
「賃貸倉庫」ってことで事業計画を進めていきました。

肝心の倉庫そのものにもこだわっています。
ここで言うこだわりとは、
私の自己満足のディティールではなく、
競合とは異なるポイントってことです。
あくまで、市場や想定ターゲットから
どう見られるか、どう感じてもらえるかが大事。

例えばサイズについて。
地味なところですが、
ここは非常に大きいと思っていますよ。
間口は2間(3640mm)、奥行きが6間(10920mm)、
シャッターの高さは3800mm、内部高さ4150mm。
除雪用の大きなタイヤショベルも置けるサイズとします。
他社よりも、
間口も奥行きもちょっと大きめにするのがミソ。
そうです、
利用者の活用イメージを広げるためです。
「置き場所に困っていた重機が置ける!」
とか
「自社倉庫からあふれんばかりの在庫を
そっちに移せるな…!」
とかのイメージを膨らませたいんです。
広さは正義!

私にとって空想上の乗り物、
もとい、フェラーリみたいな高級車や、
ヴィンテージバイクとか、
貴重なコレクションを置きたい人だっているでしょう。
だから、セキュリティには力を入れます。
よく防犯カメラを設置している倉庫がありますが、
実はあれってあまり抑止力にならないと思ってます。
カメラに映っていることもお構いなしに、
犯行が強行されることも珍しくなくなってきました。
昨今のニュースで目にしますよね。
昼間堂々やったりとか。

だから、もっと抑止力になるようにと考えて、
当社はALSOKと契約しました。
ここのメリットは、
実際に人が駆けつけてくれる点にあります。
倉庫での異常を探知したら、警報が鳴ると同時に、
ALSOKかケーサツがやってくるんです。
これは心強い。
高価なものを保管しておいても不安はないでしょう。
もし不安があるとしたら、
倉庫のセキュリティ解除せずに
私がうっかり警報を鳴らしそうなことでしょうか。
「怪しい!ちょっと署まで来てもらおうか」
とか嫌だなぁ。
カツ丼とか食べたくないなぁ。

他にも、住居レベルの耐震性や積雪荷重対策を施したり、
建築家を起用して意匠性の高いデザインにしたり、
細かなこだわり・工夫を積み重ねています。
事業をスタートさせたら、
どんな反応が生まれるのか楽しみですねぇ…。

…ん?
なんか冷たいものを感じる。
なんか、みんながこっちを見ている。
あ、この冷たさは視線の冷たさ!
なぜ、そんなにみんな冷たい目で私を見るのか…。
ん、瞳が何かを物語っている…。
えー、なになに、
「でも、それ、Sさんのアイディアを
パクったんでしょ…」

いやいやいやいやいやいやいやいやいや、
違いますから!
確かにSさんのサイドビジネスの話が、
きっかけにはなりましたが、
パクってないですから!

実は数年前から賃貸倉庫のことを、
ある程度調べていたんです。
というか、
当社の関連会社で
一軒貸し倉庫を所有していて、
事業としての実績もあるんですよ。
場所は銭函の隣駅、ほしみ駅のそば。
150坪の賃貸倉庫を、
既にある企業に貸し出しています。
賃貸倉庫を得意とする仲介業者さんとも
長年親しくお付き合いしていました。
そんなこともあって、
以来、貸し倉庫ビジネスについては
次のチャンスを狙っていたんです。

だから、私は倉庫ビジネスにおける、
重要なポイントに気づいておりました。
長年建築業をやっているおかげとも言えます。
先ほどの細かなこだわり以上に、
ここが本事業の生命線とすら思っています。
それは、建築確認申請や完了検査のこと。

ものすごくざっくり言うと、
法的に建物が問題ないものか
公的なチェックを受けることです。
ただ、これらが済んでいる賃貸倉庫って
実はほとんど存在しないってご存知ですか?
札幌市のちょっと町外れに行くと、
農地が広がっているようなエリアに
倉庫が建っていたりするじゃないですか。
それらの多くが違法建築なはずです。

現実的には違法だったとしても、
グレーゾーンと言いますか、
オーナーは不利益を被らないのが現状です。
しかし、法人を相手に商売しようと思った時に
大きな障壁になるんですよね。
法令遵守、いわゆるコンプライアンスの問題です。
特に上場している大きな法人は、
法令を守る社会的責任が求められていて、
違法建築物なんて借りられないんですよ。

よって、ビジネスで賃貸倉庫を利用したいけど、
使えない状況にある会社が多いことには
勘づいていました。
意外と法人って、
「収納場所」に困っているんですよねぇ。
繁忙期だけ異常に在庫が多くなるとか、
捨てられないものがたくさんあるとか。
つまり、需要と供給のバランスが崩れている。
すなわち私たちのチャンスです。

ここまで読んで、
「確かに賃貸倉庫業ってビジネスチャンスかも。
私もやってみようかな…」
と思う方が出てくるかもしれませんが、甘い!
金融機関の融資のハードルが、
あなたの行手を阻むでしょう…!

融資のハードルが高くなる一因に、
倉庫の法定耐用年数の短さがあります。
その期間内でしか融資してくれないんです。
つまり、
お金を借りて返し終わるまでの猶予が短いということ。
体力、つまり資金繰りに余裕がないと、
なかなかきついですよ、これは。
早くお金を返せってことですから。
金融的な視点でみると、
倉庫ってのは投資しづらい事業なんですね。

じゃあ、脇坂工務店はどうなんだってことですが、
当社は長年の付き合いから
金融機関とのパイプがあるので、
融資を受けやすい状況なんです。
金融機関からすればまったくの初対面の新規顧客より、
ある程度の実績、すなわち
「お金を借りて、ちゃんと返している実績」がある人を
相手にしたいですから。
人柄とかはあまり関係なのです。
私のような人間でも借りれていることが
何よりの証拠です。
…ん?

今回の物件は、
融資のハードルをクリアしさえすれば、
「利回り約11%」という、
普通の不動産投資ではありえないくらいの
超優良な数字になります。
土地の値段が抑えられているからこそ、
成り立つスキームなんですよねぇ。

とはいえ、
一般の人からすると、
工業用団地の2400坪とかあっても
手を出しづらいじゃないですか。
それをどう料理できるかがポイント。
これまでたくさんの不動産を扱ってきて、
甘い汁ではなく、
苦い汁ばかりを吸ってきたからこそ、
どうすれば良いのか判断がつく、
当社だからできるビジネスだと思っています。
順調にいけば、2棟目、3棟目も展開する可能性は
大いにあります。

ここまでの書きっぷりから、
自信満々で「オレ、わかってるから!」的な感じで
新規事業を進めているように見えることでしょう。
でも、その実、意外とわかっていない、
っていう側面もあるんですよ。
だって、市場は“生き物”です。
「100%わかる」なんてありえない。
でもだからこそ、
やってみよう!とチャレンジするんです。
自信はあるけど、確信はない、みたいなことですかね。
例えるなら、
石橋を叩きながらスキップして渡る、
みたいな感じでしょうか。
慎重なのか、大胆なのか、どっちだよ!みたいな。

そうそう、ビジネスとしてやるからには、
名前や見た目もしっかりしないといけません。
ってことで、
またいつものコピーライターTさんと
デザイナーのNさんを招聘しました。
現在ブランド名とロゴデザインを鋭意製作中。
表現コンセプトは
「静かな強さ」
だそうです。
彼らが何を言っているのか
さっぱりわかりませんが、
きっと完成した暁には、
「表現コンセプトはですね、
静かな強さでして…」
と、さも自分で考えたかのように
説明していると思いますので、
許してください。
2023年内にお披露目できる予定です。

脇坂肇