「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2023年12月25日 更新

#56

1.5棟の建売住宅。

脇坂肇

脇坂工務店といえば脇坂肇…
…ではなく注文住宅です。
「建築家と創る家」を売りにしていますから。
きっと建売住宅のイメージってあまりないと思います。
や、実はですね、
全然やってない、というわけではないんですよ。
これまでの実績をちょっと数えてみると…
(指を折って数える)
うん、1.5棟ですね。
15棟じゃないですよ。
1と5の間をよく見てください。
小さな丸がついているのが見えませんか。
1.5棟です。
なんでこんなことになったんでしょうね…。

そもそも、私は建売住宅が嫌いなんです…。
正確に言うと、これからお話する通り、
「嫌いだった」ってことなんですが。
家を建てる段階で、
お客さまの顔や好み、どんな人で、
どんな暮らしを願っているのか等々、
色んなことを知らないまま建てるってのが、
どうにもこうにも性に合わないんです。
昭和の古い人間なもんで…。
売れるからといって、それはいかがなものかと。
建売住宅は建てる側の都合じゃないか!
と思っていました。

ただ、そういう自分なりの信念がある一方、
世の中の動きもかなり気にするタイプです。
最近、家を求める人のニーズが変わってきていると、
つくづく思うんですよね。

先日、30代の仕事仲間から聞いたんですが、
彼の周りの同世代は、
ほとんどが建売で家を購入しているそうです。
共働きで夫婦揃って時間がないし、
家へのこだわりもそこまでないから、
というのが理由だとか。
1つの場所に固執しないで、
複数拠点で生活や仕事をすることも
一般的になりました。
そうやって、住む場所に対する価値観、
日本の嗜好が変わってきていることを
肌で感じています。

買い手側はそうだとして、
じゃあ売り手側はどうなのか?
ハウスメーカーや工務店の立場から、
建売住宅を見てみましょう。

建売住宅を手掛ける会社の手法としては、
大きめの土地を取得して3区画とか4区画に分け、
そのうち1区画にモデルハウスを建てて販売。
残り2区画の土地を建築条件付きで売る、
みたいなやり口が定番ですね。

しかし、それが脇坂工務店ではできないんですよ…。
理由は人手です。
土地を仕入れてモデルハウスを建てて…
みたいなことまではお茶の子さいさいなのですが、
過去に書いたように営業がいないので、
一般に「オープンハウス」と呼ばれる見学会を
実施するのが難しいんです。
もしやるとしたら、
社長自ら、来場ご家族を楽しませるための、
スーパーボウルすくいのおじさんをやるとか、
風船を配ったりとかしなければなりません…!
だから、当社は
建築条件付きで土地を販売するだけ、なんです。

もし、それが2〜3ヶ月間売れなかったら、
土地をリリースして、
他のハウスメーカーに買ってもらったりしています。
すると、その土地を買ってくれた会社から
「いやー、買わせてもらった土地に
モデルハウス建てたら、すぐに売れましたよ!
ガハハハハハハ!」
とか言われると、
「ああ、良かったですぅ」
と言いながら、
「チッ、なんか損をした気がする…。
うちだって建売住宅をやったら売れたはずなのに…」
と心の中で舌打ちしながら思っています。
いやいや、土地を売却したことで、
わずかながらも利益が出ているんだから、
それで十分なんですよ。
欲深いのはいけません。
チッ。
あ、舌打ちが聞こえましたか。

話を戻しまして、
売る側にとって建売住宅のメリットのひとつが、
時間をカットできるということですね。
最近、注文住宅を建てようとする人のなかには、
インターネットのためか、
ものすごく詳しい人がいるんです。
家のことをものすごく調べている。
だから、どうしてもディープな話になっていきがち。
つまり時間が必要となってきます。
本当にお金儲けだけを考えたら、
建売住宅をバンバンつくって、
バンバン売っていったほうが、
細かな話に要する時間がなくなり、
効率よく売上が立てられます。

建てる際の効率も
建売住宅と注文住宅では違います。
建売住宅をやっている会社って、
抱えている大工をフル稼働させるためにやっている、
という事情もあるんですよ。
注文住宅を建てていると、
工程的にどうしても大工が稼働しない日が出てきます。
人材を遊ばせておくぐらいなら、
自社の建売住宅をやってもらったほうが、
無駄な人件費が減るし、稼げるわけです。

この点、当社の大工は大忙し。
おかげさまで仕事が切れ目なくあるので、
無駄はほとんどありません。
そんな状況下で大工たちに
「脇坂工務店も建売住宅をやろう!」
と能天気に言ったら、きっとストライキが起きて、
注文住宅も建たなくなることでしょう…。

というように、売る側からしたら、
建売ビジネスにはメリットが色々あるんです。
しかし…。
実は、現在かなり雲行きが怪しいんですよ…。
まず、ここ3年ほどの間に、資材の高騰の影響で、
建売住宅の販売価格が上がってきています。
さらには物価高が相まって、
家を買うマインドが急速に冷え込んでいるんです。

だから、建売住宅をガンガン売ってきた会社は、
今非常に苦労しているらしいですよ。
噂では、300~500万円くらい値引きして
売り始めているとか。
ある金融機関から聞いたんですが、
札幌エリアでは向こう1年間、
新しく家が建てられなかったとしても、
供給が足りるくらい、
建売住宅の在庫がダブダブに余っているそうです。

そんな話を聞くと、
「自分の選択は間違ってなかったなぁ」
と思うわけです。
今後も建売住宅をメインにやる会社には、
きっとならないでしょうねぇ。

そうそう、ここでひとつお知らせが。
2024年1月、当社の建売住宅が完成します。
当社にとって2.5棟目の建売住宅です。

ん?
私、何かおかしなことでも言いましたか…?

わかっています。
色々ツッコミどころがあるのは。

まず声を大にして言いたいのは、
大工がヒマになったから建てたわけではありません。
今期は売上が過去最高の見通しですから。
過去最高の見通しですから。
自慢したいので二回言いました。
要は仕事がたくさんあって忙しいちゅうことです。
「奢ってもらうなら、今だ!」
と、私に連絡するのはどうぞお控えください。
そこまで儲かっていないです。

じゃあ、なぜ建てることになったのか。
しかも、それがなぜ「2.5」棟目なのか。
その背景を語るためにも、
まず脇坂工務店が手掛けた
1棟目の建売住宅について話をしましょう。

始まりは、2015年、
東区役所前駅の土地を買ったことでした。
駅から徒歩5分、学校が目の前にあって広さは40坪。
かなりの好条件です。
ただ、すごく変わった形の土地で、
数字の1のような形とでも言えばいいのでしょうか。
一筋縄じゃいかない形でした。
建築家とかなら「面白い家が建てられそう!」と
乗ってきそうな土地ではあるものの、
更地の状態だと、
「こんな変な土地に家をどうやって建てるの??」
と一般の方が思うようで、
売り出してもなかなか売れません。

「これは実際に建ててみないと、
イメージがつかないのだろうな…」
と考えた私は、この土地を使って
建売住宅の販売に挑戦することを決めたのです。

しかし、建売住宅は完成したものの、
2ヶ月たっても売れません…。
当時、会社には営業マンが1名いたのですが、
彼は非常に忙しく、
オープンハウスを開催する余裕がゼロ。
そこで最終手段、脇坂肇が登場です。
仕方なく、私がオープンハウスを
毎週末実施することにしました。
すると販売開始から4ヶ月目にして、
ようやく成約を獲得。
ただ、受けたダメージは大きく、
オープンハウスを開催していた2ヶ月間、
私の休みはゼロ…。
集客のためのスーパーボウルすくいとか、
風船プレゼントとか、
脇坂肇ワンマンショーとか、
やっている余裕がなかったくらい、
ボロボロになりました…。

あと問題がもうひとつ。
通常、当社は注文住宅をやっているものですから、
建売住宅を建てる際にも、
ついついやりすぎちゃうんですよ…。
一般的な建売住宅ならコストを下げるために、
庭とかの外構になんて力を入れないのですが、
うちの場合は、
「玄関前にアスファルトをひいて、
植栽もちゃんと整えて、
街の風景に家がとけこむように…」
とか、ついやっちゃうわけです。
その分お金がかかるので、
売値に反映すると販売価格が上がってしまうのです。

いやー、
この東区役所前の1棟目でたくさん学びましたねぇ…。

それから月日は5年ほど流れ、2020年。
ある注文住宅の依頼が入りました。
依頼主は、
地方から札幌へ転勤になるタイミングで、
銭函に移住したいというご家族です。

契約を済ませて、工事が始まり、
家が8割くらい出来上がった頃のこと、
前代未聞の事件が起こります。
お客さまからこんな電話が入ったのです。

「すいません、
やっぱり家を建てるの、やめたいんですけど…」

一瞬、何を言っているかわからなかったですね。
業界歴がそこそこある私でも、こんなこと初めて。
「わからない!
話のわかる工務店だけど、わからない!」
と叫びたかった。

落ち着いて話を聞けば、
様々なご事情があって、
やはり銭函に住むのをやめたい、と。
なるほど…。
とはいえ、もう家は8割出来ています。
そこで私はこんな提案をしました。
ひとまず家を完成させて、
お金はローンを使って払っていただき、
すぐに、その家を売りに出す、という提案です。
車の新古車みたいなイメージですね。

ただ、その家はご家族のライフスタイルにあわせて、
かなり奇抜な間取りにしていたので、
私は正直かなり不安でしたねぇ…。
アウトドア好きとかならいいんですが、
住み手をかなり選ぶ家だったんです。

しかし、何事もやってみないとわからないもの。
春に売りに出したところ、
すぐに問い合わせが入り始め、
夏には無事に買い手がつきました。
こういうクセのある家を欲しがる人が現れるってことは、
やっぱり銭函って個性的な人を惹きつけるんだなぁと
思った次第です。

というわけで、
この家を建売住宅として0.5棟換算しております。
「注文住宅として8割まで出来た段階で
キャンセルされたのなら、
ある意味、建売住宅としては0.2棟なのでは?」
とか細かいツッコミはしないように。
これで脇坂工務店は、
見事、建売住宅1.5棟の実績が出来たのです…。

ちなみに、この時の売却は、
不動産仲介業の知り合いに任せたんですよね。
ここでようやく、
「なんだ、自分でやらなくてもいいのか!」
と気づいたんです。
かなり今さらですが。

先に申し上げておきますと、
この先、読むことは危険が伴います。
私、言いましたからね。
知らないですよ!
覚悟のある方だけ、どうぞ読み進めてください…。

冒頭、「建売住宅は嫌いだった」と言いましたが、
今は毛嫌いしているわけじゃないですし。
時代の変化があって、
求められていることは理解しました。
様々な経験を経て、建売住宅だとしても、
ちゃんと売れることはわかったし、
販売などで人の力を借りればなんとかなるな、と。

でも、いまだに事業としてはやっていないんです。
というのも、売れずに在庫となるのが嫌なんですよね。
それって大きなお金を寝かせている状態と一緒。
いわゆる不良在庫です。
経営上それが何より怖いので、
手を出さないようにしているんです。
経営者ってビビるくらいがちょうどいい、
って思っています。
いまだに私、夜一人でトイレに行けないですし。

と言いながらも、
2024年1月、銭函に完成する、
当社にとって2.5棟目の建売住宅とは何なのか?
経緯はこうです。

数年前に縁あって120坪の土地を取得しました。
もともと有名企業の社長の自宅だった土地です。
建物が残っている状態で購入したのですが、
家の2階に上がってみると、
景色がね、もうとんでもないんですよ!
銭函の海が一望できるすばらしいロケーション。
ただ、家は古すぎたので取り壊して更地にし、
建築条件付きで土地を売り出したんです。
ちょっと大きめだったので2区画に分けて、です。

1区画は早々に売れて、現在新築の話が進行中。
問題はもう1区画です。
これがなかなか販売に苦戦をしていまして…。
家を壊して更地にしてしまうと、
もとからある木々が視界を遮って、
海が見えないんですよね…。
土地に興味を持ってくれる人はたくさんいたのですが、
「ここから見える海が絶景中の絶景でして!」
と私が熱弁をふるっても、
皆さんあまりピンとこないわけです。
眼の前が林ですから。
え、海どこ?みたいな。

ちなみに銭函って、
「どこでも海が見えるんでしょ」
と思われている節がありますが、
そういう土地には既に家が建っていて、
意外とないんです。
そういう意味でも、
「この土地は超貴重!
こんな物件、しばらく出てこないですよ!!!」
と熱烈に主張しても、
「この社長がやたらと勧めるなんて、
何か裏があるのでは…」
と思われているのか、なかなか商談がまとまりません。
話の最中、焦りすぎた私の瞳に
「¥」マークが出ていたからなのかもしれません。

そんな悪戦苦闘している最中にも、
「建築条件付きを外して、
土地だけで売ってくれないか」
という問い合わせが、
同業他社から何件か入ってきました。
しかし、私は意地でも売りません。
「私の目が黒いうちは、
銭函の土地は建築条件付きを外して売らない!」
って決めているんです。
心のホーム、銭函なんで。
ただ、ドバイの王族が
「ゼニバコ、スバラシイ。1000オクエン、ダスヨ」
って言ってきたら、
光の速さで
「オーイエス!アイキャン!ウェルカム!」
って回答するくらいの心のホームです。
(や、売らないですよ!たぶん)

というわけで、これは建売住宅の出番だ!
と思い至ったんです。
イメージしづらい土地ならば
実際に建ててみればいいんだ精神です。

2024年1月に完成する、その家は、
リビングが2Fにある設計です。
そうです、2Fの高さになれば、
海がばっちり見えますから。
さらに、家とガレージを隣接させることで、
ガレージの屋上にあたる部分を
バルコニーとしているのもミソ。
バルコニーがいわば第2のリビングとなるんです。
これはオシャレ!ヒューヒュー!

こんなつくりの家って、
建売ではまずやらないですから。
理由は簡単。
高くなるからです。
じゃあ、なぜ私はやったのか?
「それは利益を度外視して、
この土地の良さを100%伝え切るために、
赤字覚悟でこうしたんですよ…」
とカッコよく言いたいところですが、
種明かしをすると、実はこの家、
もともと、とあるお客さまから依頼を受けて
設計した家だったんです。

打ち合わせを重ねて設計を進めていったのですが、
予算の面で最終的に折り合いがつかず、
キャンセルになったんですよ。
「この図面、どうしてくれようか…!」
と思っていたところ、
あ、建売にすればいいんだ、と思いついたのです。
てへ。

で、言っておきます。
この家は危険です…!
海好きな人、海のそばで暮らしたい人が
中途半端な気持ちで気軽に見てしまったら最後、
気づけば契約書にハンコを押していることでしょう…。
それくらい自信があります。

駅まで徒歩9分。
海までも徒歩10分以内なので、
サーファーにとってヨダレものの立地でもあります。
だって、家から波の状況が一目瞭然なんですから。

いやー、危険。
最近家を建てた人で海好きな人がいたら、本当に危険です。
家を2軒持つことになりますよ!

以上、脇坂肇から
建売住宅の脅迫のような、セールスでした。

さて、次は3.5棟目か…。

脇坂肇