2024年1月29日 更新
#57
M&Aにロマンを。
2023年12月×日、
東京都港区高輪三丁目、品川駅。
師走の慌ただしさを絵に描いたかのような、
人でごったがえすホームをすり抜け、
私は待ち合わせ場所へと足を早めました。
いよいよか…。
これで、あのモヤモヤも晴れるはず…。
今回東京を訪れたのは、
ある重要なミッションを果たすためです。
そうです、私が目の敵にしている
「あの業界」の真相を暴こうとしているのです。
これから会う、あの人物の口から、
一体どんなことが語られるのか…!
仲の良い人にはお馴染みなのですが、
私、伊勢神宮へ毎年お参りに行っております。
目的のひとつが、お守りを買いに行くこと。
それも大量に手に入れてきます。
「お守りって買えば買うだけ、
ご利益があるんでしょ…?
だから買えるだけ買って買って買いまくる〜!」
と思っているわけでは決してありません。
お世話になった人たちに配っているんです。
人呼んで「お守り配りお兄さん」です。
「お守り配りおじさん」
と呼ぶ人には絶対に渡さず、
「今年一年不幸がふりかかりますように!」
と呪うのでご注意ください。
私が調達してくる伊勢神宮のお守り、
評判がいいんですよ。
というのも、手にした人たちから、
「商売が急に順調になった!」
という声が相次いで寄せられているんです。
かつて少年誌に広告が掲載されていた
「このネックレスをつけたら、
突然お金がじゃんじゃん入ってきて、
モテモテに!」
みたいな怪しい通販会社のようですが、
本当なんです!
そんなわけで2023年12月×日、
伊勢に向かうべく、札幌をあとにしました。
ちなみに、地に足をつけて生きている私は、
飛行機ではなく、電車で伊勢を目指します。
や、けっして飛行機が怖いわけではありませんよ。
いや、ほんとに飛行機怖くないですから。
マジで怖くないですから!
朝、家を出て、札幌から電車を乗り継ぎ、
まずは最初の宿泊地となる東京を目指します。
成人した娘や息子も関東在住ですし、
もともと学生時代を埼玉で過ごしたこともあって、
ごはんに付き合ってくれる相手には
事欠かないのですが、
今回は誰にも連絡しませんでした。
ある人物に会いたかったからです。
あ、世界中の脇坂肇ファンの皆さま、
ご安心ください。
会いたかったのは女性ではありません。
当社をかつて担当していた金融マンであるM君です。
30代とまだ若いのですが、なかなか優秀な男でして。
現在は会社から命じられて、
東京のM&A仲介会社に出向中。
そんな彼に会いたかった理由は、
M&A業界の現状について、
話を聞きたかったからに他なりません!
以前も話したのですが、
M&A仲介会社からDMがやたらと送られてくるんです。
その数、月に5~10通ほど。
迷惑だな…と思いつつ、
61歳の経営者として、
M&Aに興味がないわけではありません。
当然、知っておく必要があります。
品川の飲み屋で久しぶりに対面したM君は、
なんだか弊社担当の金融マン時代より
イキイキしています。
動くお金が大きいからでしょうか。
ひょっとして弊社の担当を外れたからでしょうか…。
聞けば、数千万、億千万規模の売却案件を
既に担当しているのだとか。
充実ぶりが伺えます。
彼から業界の内情を色々聞けて、
大変勉強になったのですが、
私が一番気になる、
や、きっと世間の経営者全員が気になる
質問をぶつけてみました。
「仲介手数料ってどのくらいとるの…?」
「あ、じゃあ、見てみます?」
と言ってM君は、
ちょうどカバンに入っていた料金一覧を、
こっそり見せてくれたのです。
そこに書いてあったのは
「手数料:最低●000万円〜」
という文字。
た、高い〜〜〜〜!
と思ったのは私だけでしょうか。
売却する会社の規模や売上によるのですが、
最低料金が●000万円ですからね。
「私が死ぬ気で守ってきた会社を、
売却する手数料だけで、そんなにふんだくるのか…!」
とボルテージが上がってきました。
別にまだ何も頼んでもいないですが、
頼んだことを妄想しただけで、
ボルテージが上がってくるくらいの金額です。
高い!
って思った理由を冷静になって考えてみると、
言っちゃなんですが、
M&Aの仲介業務って、
そこまで専門性が高くないのでは…
と私が思っているからなんでしょうね。
(M君には悪いけど)
実際に、世の中には
無数のM&A仲介会社が存在しており、
参入障壁が低そうに思えます。
「3日3晩、寝ないで働く!」
みたいなハードワークでもなさそうですし。
ただ、この金額だったとしても、ですよ。
売却金額から手数料を差し引かれて入金されれば、
会社を売却する経営者にとっては、
あまり払った実感がないんでしょうねぇ…。
なるほど。
あんなに頻繁にDMが送られてくる理由が
わかってきました。
バンバンDM送りつけて、
1000社に1社でもビジネスにつながれば
仲介会社からすれば万々歳でしょう。
こういうビジネスの世界があるのかぁ…。
生き馬の目を抜く苛烈な争いが繰り広げられる、
東京砂漠だなぁ…。
(「東京」と言ったあとは、
とりあえず続けて「砂漠」と言いたくなる年頃です)
大変勉強になった品川の夜でした。
私のお客さまで、
飲食店の経営者Aさんという方がいます。
複数の人気店を経営している、
いわゆる敏腕経営者。
ある時、そんなAさんから、
こんなお願いをされました。
「実は、M&A仲介会社を通して、
同業の飲食店Bチェーンを買わないか
というオファーがあったんです。
そこで、Bチェーンが
店舗を構えている場所の不動産価値を
脇坂さんに査定してもらえないでしょうか?
色んな角度から検討したくて…」
Bチェーンの店舗はすべて路面店で、
自社で土地と建物を所有しているとのこと。
作業としては、
たいした手間もかからないことだったので、
お安い御用とばかりにお手伝いしたのです。
情報を提供してからしばらくして、
AさんがBチェーンを買収したという
報告を受けました。
私が算出した不動産価格を
ひとつの参考材料にしたようです。
肝心なのは、ここからです。
Aさんが買収後もBチェーンは、
店のブランドを一切変えずに
そのまま営業を続けています。
Aさんの飲食店ブランドに置き換えたりせずに、です。
Bチェーンの元経営者は、ご自身が高齢になり、
引退を考え始めたのがきっかけで、
会社の売却を決意したのだとか。
M&A仲介会社に相談したものの、
買います!と手を上げてきたのは、
Bチェーンの不動産目当ての会社ばかり。
確かに買収したAさんは、
私に不動産査定を依頼しましたが、
あくまで店の存続を前提に考えていました。
しかも、彼には飲食店経営者としてのノウハウもある。
そこが契約成立の決め手だったんじゃないかなぁと
推測しています。
いやー、このエピソードを聞いた時、
売る側であるBチェーンの経営者の気持ちが
すごくわかりましたよ…。
自分が0から作り上げて、
手塩にかけて育て上げた店を他人に譲るわけです。
経営者にしかわからない、
なんとも言えないものがあるでしょう。
残される従業員のことだって気になります。
経営者の自分だけが良ければいい、
なんて発想には絶対ならないはず。
もし、不動産目当ての人間が群がってきたら、
私なら塩をまきますね…!
唐辛子を混ぜた塩を。
もうひとつ、M&A絡みのエピソードがあります。
以前、金融機関の人から聞いた話です。
経営者の引退に伴い、売却先を探した
東北地方のハウスメーカーがあったそうです。
買い手として名乗り出たのが、小さなゼネコン。
住宅事業に進出するため、
そのハウスメーカーを従業員ごと買収したのだとか。
当初はうまくいっていたものの、
ほどなくして事件が起こります。
買収されたハウスメーカー出身の社員たちが
ごそっと離反。
その辞めた人たちで、
別のハウスメーカーを立ち上げたそうです。
いわゆる謀反的なやつですよね…。
当然、ゼネコンの住宅事業は頓挫。
原因は詳しくはわからないものの、
会社のカルチャーがあわなかったんでしょうねぇ…。
買い手のゼネコンからすれば大損失ですね…。
数千万円、数億円かけて買ったものが、
まったく利益を生まずに消えてしまった、
みたいなことですから…。
恐ろしや恐ろしや…。
そんな話を耳にすると、
M&A業界って、
まだまだ課題が多い業界だなぁと思うのです。
例えば、特許技術を持っている会社を、
その技術が欲しい会社が買う、
っていうケースであれば、まだ話はわかります。
しかし、私たちの建設業界に限って言えば、
会社の価値=そこに所属している人(とその技術)、
ということになります。
属人性が高い事業、
つまり人の問題がついてまわる業態なので、
M&Aの難易度が高いと思っています。
数字だけの話で考えれば、
企業買収ってシンプルなものです。
やろうと思えば、
ビジネスとしてドライに実施できるので、
M&Aが欧米社会で盛んなのも納得できます。
ただ、私は、
「会社ってそういうもんじゃないよなぁ…」
って思っちゃいます。
だって、
働く人の汗やら涙やら染み込んだものですよ、
会社ってやつは…!
それを、
数字だけで判断して売買するのはいかがなものか!
と昭和の日本男子、脇坂肇は憂いております。
ただ、憂いながらも、
光明を見出さなければなりません。
そこで得意の妄想力、発動です。
かつて、わかる話で、
将来会社を売りたい経営者と、
事業拡大を狙う若手経営者を引き合わせる
「ねるとんパーティー」をやればいい!
と提言したことがありました。
じゃあ、誰が主催すればいいのか?
ってことなんですが、
やっぱり金融機関、商社、問屋といった
会社が適任じゃないかと思うんです。
なぜなら、それらの会社であれば、
買収が成立した後の会社が顧客になるから。
例えば、金融機関なら融資先になるとか、
問屋なら資材の卸し先になるとか、ですね。
お互いにとって、中長期的に
メリットが生まれる関係になりますから、
契約手数料だけを目的にした、
その場限りのM&Aとはならないはず。
どうでしょう、健全だと思いませんか。
私がM&A仲介会社の何が気に食わないかって、
高い契約手数料を取ること、
とかではなく、
売買成立後のことまで、
ちゃんと面倒をみようとしていないからなんですよね。
(や、そういう会社もあるのかもしれませんが)
当たり前の話ですけど、買収成立後のほうが、
それぞれの会社にとって大事ですよね。
私は経営者として、
あと10年は頑張ろうと思っています。
M&A仲介会社の影がチラつく中、
最近ひとつの構想を頭の中で描き始めました。
それは「ソフトランディング」です。
日本語に直訳すると「軟着陸」ってやつです。
大きなお金でバコーンと
会社を売却するのとは真反対で、
ゆるやかにスムーズに会社を誰かに譲り、
引退するということです。
解説しましょう。
まず、M&Aを会社の結婚だと捉えてみました。
そもそも結婚って難しいものじゃないですか。
色々ありますよね、結婚生活…(意味深)。
同じように会社の結婚も難しいわけですよ…。
だから、私が思い描いている
理想の「企業結婚(合併)」はこうです。
まずは経営者同士が飲み友だちからはじめて、
距離を縮めていく。
頃合いを見計らって、
次は従業員同士の交流をはかりつつ、
会社の弱いところを
互いにどう補い合えるかを確かめながら、
「相性がいい!」
とわかったら結婚を決意する、みたいなイメージ。
わかりやすく言うと、
波を見て、星を見て、愛を育むみたいなことですよ…!
逆にわかりづらいか。
そうです、
これまでのM&Aにはロマンがなかったんです!
年収や顔といった上っ面だけを見て、
結婚相手を選んでいるようなものじゃないですか!
そこに幸せはあるんですか!!!
あ、すいません、取り乱しました。
これはいいアイディアだ!
と思ったので、冒頭に出てきたM君に、
アイディアを披露して感想を求めたところ、
「そんなまどろっこしいこと、
ビジネスになんないっすよ!
ははは!」
……。
彼はもう東京で汚れてしまったようです。
金がすべてなのでしょう。
ロマンよりも億千万のようです。
彼はヒ●ミゴーになったのでしょう。
肌艶も良かったし。
その時の飲み代を
「1円単位で割り勘にする刑」
に処そうかと思いましたよね。
M君のことは置いておいて、
この「ソフトランディング」、
実践した経営者を聞いたことがありません。
少なくとも同業界では私は知りません。
だから、自らやろうと思っています。
仕組みをつくって実践してみるつもりなんです。
予言、いや、予告しましょう。
10年後、私は見事、
意中の相手(会社)と一緒になっていることを…。
相手に脇坂工務店の経営を任せ、
私は講演会の旅に出かけるのです。
M&Aの新たな手法を発明した先駆者として…。
講演料は最低●000万円〜に設定だな。
そうだ、集客のために
中小企業の経営者へDMを送りまくろう!
あれ、どこかで聞いた手法だな…。
講演会の話は半分冗談だとして。
これ、近々プロジェクト化して、
お披露目しようかと思っています。
「私とお付き合いしたい経営者募集!」
みたいなことを、WEBサイトで掲げようかと。
「そんな一緒になりたい経営者なんているの…?」
と思った、そこのあなた!
確かに!鋭い!
でも、私にはひとつ勝算めいたものがあるんです。
建設業界あるあるなんですが、
例えば建設会社が不動産の免許を取得する、
もしくは反対に、
不動産業の会社が建設業の免許を取得する
っていうケースはよくあるんです。
いずれ、自分たちがやってこなかった方面にも
進出しようと考えて、免許を取るみたいなことです。
意外と免許取るだけなら簡単ですからね。
しかし!
その免許を活かして、
実際に業務拡大できている会社って、
本当に少ない。
いくら資格を持っているからといっても、
実務にまつわるノウハウがないから、
実行に移せないんですよね。
かたや、当社は新築もやればリフォームもやる。
不動産もやるし、金融機関にも顔がきく。
「銭函といえば脇坂工務店」という
ブランドイメージがあるし、
倶知安ニセコの仕事も拡大中。
手前味噌ながら、
色々な売りのポイントがあって、
具体的な業務ノウハウを蓄積してますから。
会社の足りない部分を補う結婚相手としては
魅力的だと思うんですよね…!(自画自賛)
いわゆるシナジー効果ってやつが
バンバン発揮できるんじゃないかと目論んでいます。
今って、引退を考える経営者にとって、
「M&A仲介会社を使う」or「廃業」
という極端な二択しかない状況です。
お金にそんな困っていない経営者だったら、
廃業という選択肢もあるのかもしれませんが、
会社のために頑張ってきた従業員たちの
雇用を守ることができなくなります。
そこは、仲間に引き込んだ身として、
経営者がきちっと責任を取らなければ
いけないことでしょう。
てなことを踏まえて、
新たな選択肢としての「ソフトランディング」。
若手経営者の方、ご連絡お待ちしています。
最初は飲み友だちから始めてみませんか。
まずは一杯おごりますよ。
私よりお金持ちだったら、
二杯目以降はおごってもらいますけど。
あ、脇坂工務店の社員からの立候補も
お待ちしています。
「ちょっと待った!次の社長はオレ(私)だ!」
と名乗り出てください。
かといって、
みんなで社長を追い出す
謀反を起こすようなマネはやめてね♡
脇坂肇