「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2023年6月20日 更新

#50

スベる話。

脇坂肇

今回が通算50回目のわかる話です。
ここまで続けるにあたって意識してきたのは、
ユーモアですね。
社長が発信するものって堅くなりがち。
読んでくださる方を楽しませるためには、
杓子定規な内容ではなく、
やっぱりユーモアで予定調和を壊さないと。
ウケてナンボ。
笑いが人生の諸問題を
解決してくれると思っております。
しかし、「わかる話」を
50回も続けることができたせいか、
「自分はおもしろい」という慢心が、
どこかあったのかもしれません。
なぜなら、
先日、盛大にスベったのです…。

「北海道の家を計画しているんですが、
気候条件など含めて知見がないので、
力を貸してもらえませんか?」
東京の設計事務所からの
そんな問い合わせがきっかけで始まった
倶知安ニセコの仕事。
2014年のことでした。

当時、既に“ニセコバブル”が
盛り上がっていました。
その地で仕事できるのは
非常にありがたかったものの、
いつまでも続かないだろうなぁ…と
意外と冷静な目で捉えていた私。
「これからは倶知安ニセコの時代だ!
祭りだ!祭りだ!」
と脳内で北島サ●ちゃんが歌っている感じでは
決してなかった。
したがって、会社のリソースを
一気に倶知安ニセコに振ることはせず、
いつでも引き上げられる状態で仕事をしてきました。
拠点もしかりです。
会社で倶知安に借りたアパートは1部屋だけ。
現地に送り込んでいた現場監督の
住まい兼ワークスペースにしていました。
非常に慎ましやかです。

そんな私の懐疑的な考えとは裏腹に、
次々と同エリアで仕事が決まり始めます。
一度仕事をやらせていただいた設計事務所から、
「また脇坂さんで」とか、
「評判を聞いて」とか、数珠繋ぎ状態。
「祭りだ!祭りだ!」
と北島●ブちゃんが脳内に現れそうになっていました。

当初、手がけていた物件の
建築面積は50〜60坪程度だったのですが、
年を追うごとに規模が拡大。
それに伴い、
モノを置く場所で頭を悩ませることになります。
というのも、工事の規模が大きくなったら、
現場にプレハブの事務所を建てるんですが、
工事が終わったら当然撤去します。
そこに置いていた備品や
建築資材(まだ使えるやつです)、
各種サンプルなど、大量のモノの行き場を、
次の現場が始まるまで、
なんとか確保しなければなりません。

必要に迫られた私は、
倶知安ニセコに物置きスペースとしての事務所を
求めました。
2020年、ちょうど世の中が
コロナで大混乱に陥ってる頃です。
最終的に、知人の不動産屋に見つけてもらった
中古アパートを購入。
2LDKが4戸入っているアパートなのですが、
そのうちの1戸を当社物置に。
ただ、それだけでは
工具や機械などの大物が置けないので、
近くの北3条東10丁目に土地も購入し、
スチールガレージを設置したんです。

「不動産や土地をホイホイ買って…」
と呆れられそうですが、
実際ホイホイ買っていました。
あ、いや金にモノを言わせて、
とかではなく。
購入を決めたアパートや土地は
立地条件などを鑑みると、
値崩れの可能性が低かったんです。
万が一状況が悪くなれば、すぐに手放せばいい。
だから、ホイホイ買えたんですよね。
(もちろん融資を受けて、です)

このアパートと土地、
両方とも北3条の通りに面しています。
倶知安でいうところの一等地です。
コロナが始まった頃だったので、
仕事が減るかもしれないなぁ…と
夜しか眠れないくらい不安だったんですが、
予想に反して仕事はずっと堅調。
特に海外のお客さまは、
「コロナ明けを見すえて、
今のうちに建ててしまおう!」
という意向が強かった。
やはり、お金持ちって世間の流れとは逆を行きます。

以降、倶知安ニセコでの仕事は、
さらに大型化していきます。
すると工期が長くならざるをえないので、
夏だけでなく冬も工事を進めなければなりません。
ここで難敵が私たちの前に立ちふさがります。
世界がうらやむニセコのパウダースノーです。
やっぱり量がものすごいんですよ…。

よって、アパート、土地の次に買ったのが、
除雪用タイヤショベル。
「どこかに頼んで除雪してもらえば良いのでは?」
と思われるかもしれませんが、
降雪量がすごすぎて、頻繁に除雪しないと追いつかない。
元々中古で除雪機を持っていたんですが、
かなり古くなっていた代物。
レンタルだってお金がバカにならないし、
いっそのこと新車で買ってしまえ!
と2022年に購入しました。

「あらあら、脇坂さん、倶知安ニセコの仕事を
たくさんやっていらっしゃって…!
さぞやウハウハなんじゃ…」
と陰でやっかみを言われているような気もするのですが、
そんなウハウハな私が買ったものを
ここで一度おさらいしましょうか。
従業員が泊まる場所、仕事スペース、物置、除雪用マシン…
どうですか、地味オブ地味でしょう…。
できることなら
プライベートジェットとか欲しかったです。
現実はプライベート除雪マシンですから。
建築の仕事で別の拠点をつくるって、
意外と細かな経費がかかってくるんですよねぇ。
ここまでの設備投資でウン千万円ですよ…。

ここまで倶知安ニセコでの仕事に
力を入れてはいたものの、
ずっと“対処療法的”にやっていることも
自覚していました。
「こんな好調さが続くはずがないだろう」
っていう考えが頭の片隅にあったんです。
ずっと腰が引けていたとも言えます。
とにかく明るい●村ばりに、
パンツが見えないくらい腰が引けていました。

そんな慎重な考えとは裏腹に、
2024年に動く大型案件が2つ決まっているし、
2025年の仕事についても
既にお話をいただいています。
ここまでこの地に求められていたら、
もう逃げるわけにはいきません。
「そろそろか…」と、
私は腹をくくりました。
いよいよこの場所で本格的にやっていこう!
という決意です。
私には決意したら買うものがあります。
土地です…!

前述のプライベート除雪マシン、
もとい除雪用タイヤショベルを格納するべく、
前述の倶知安町北3条東10丁目の土地を
活用することにしました。
スチールガレージを置いていた土地です。
そのガレージを撤去して、約50坪の倉庫を建て、
建材・資材を含め、あれこれしまえるようにする計画。
この土地の何が特徴的かって、
赤井川から倶知安ニセコに向かう時、
必ず通る交差点の角にあるってことです。
とにかく人目に付く利点を生かさない手はありません。
「倶知安に脇坂あり」
と印象付けるため、
倉庫に看板をつけることにしました。
しかも、主要顧客となる外国人を
ターゲットにした看板です。

ってことで、
毎度当社の言葉まわりなどでお世話になっている
コピーライターのTさんに
「英語でクスッと笑えるコピーを添えた看板作って!」
とオーダーしました。
Tさんは
「また何か変なことを言っている…」
という反応を顔に出しながらも、
書いてくれたコピーが、こちらです。
「日本で建てるなら。脇坂工務店」

日本の建築業界に詳しくない外国人に対して、
ヌケヌケと
「日本を代表する建設会社ですから!」
と言わんばかりの物言いです。
ウチらしくて気に入った!
ちなみに別案では
「I can’t speak English.」
というコピーもありました。
……オイッ!

よし、これをGoogle翻訳で訳せばいいか!
くらいに思っていたのですが、
Tさんからは
「外国人の人にアピールするなら、
ネイティブチェックを受けた方がいいと思う」
という指摘が。
確かにこちらが意図せず、
恥ずかしいことを言っている可能性もありえます。
こちとら英語がわからないですから。
ただ、
「とんでもない英語になっていたら、
逆にそれは面白くなって、おいしいんじゃ…」
と私は一瞬思いましたが、
Tさんに怒られそうなので、黙っていました。

そこで、私はお客さまに相談したんです。
このエピソードで登場した英会話教室の経営者の方です。
適切に翻訳してもらうべく、
コピーやデザインに造詣が深い
フィリピン人ご夫婦を紹介してもらいました。
彼らに翻訳してもらい、無事に英語コピーが完成。
それが
「Make yourself at home in Japan.」
です。
いい!
まったく何を言っているのかわからないけど、いい!

仕事自体はリモートで完結し、
ご夫婦にお会いしていなかったので、
後日、菓子折りを持って挨拶に伺いました。
おや?
「外国人に挨拶なんて、あんたできるのか!」
という声が聞こえてきますね。
甘い!
私にはフィリピン人にバカウケの
鉄板ネタがあるんです。

二人にお会いして早々、
私は早速伝家の宝刀を抜きました。
「マニー・パッキャオ、
セイム、バースデー!イエス!」
と挨拶。
すると、
「Oh, Manny! ha ha ha!」
と想定通り、フィリピン人ご夫婦にはバカウケです!

説明しましょう。
元プロボクサーのマニー・パッキャオという
フィリピンの国民的英雄がいます。
彼と私が偶然同じ誕生日(12/17)。
この事実を伝えるだけで、
不思議とフィリピンの方は大喜びするんですよね。
どこでそんなことを発見したのかは、
まあ聞かないでください…(意味深)。

フィリピン人の爆笑をともなって制作した看板は、
2023年夏ごろ倶知安に登場予定です。
私の馬鹿馬鹿しいやりとりを
まったく感じさせないような
オシャレなものがお目見えしますから。
どうぞご期待ください。

当社は不動産買取の新聞広告を定期的に出しています。
ある日、それを見たという問い合わせがありました。
TELの主は70代男性。
「倶知安にある自宅を手放したいんだけど…」
というご依頼でした。
ただ、私たちは札幌や銭函以外では
原則買い取りを行っておりません。
土地勘が乏しい場所だと、
うまく価値を見極められなかったり、
活かせなかったりするからです。

ただ、電話を受けた当社の不動産担当から
この話の報告を受けた時、
不思議なことに、なんとなく気になったんですよね。
お客さまとやりとりする買取の実務は、
通常担当者に任せるんですが、
たまたま予定が空いていたんで、
商談に同行することにしました。

売却希望の土地は、
倶知安町の南4条東2丁目という一等地です。
2区画合わせて130坪。
半分の区画に売主の建物が建っていました。
駅まで徒歩16分、車で5分。
土地が広い角地で、
10数台の車を停められるスペースもあります。
当然、事前に情報は把握していたのですが、
実物を見た瞬間、ある考えが私の頭に降りてきました。
「ここをうちの事務所にしよう!」

これまで札幌や銭函を含めて、
事務所にお金をかけてきませんでした。
会社の規模の割には、
全然かけていないほうだと思います。
しかし、今回は投資すべきだと感じたんです。
土地勘が薄いとはいえ、
色々な要素を踏まえると、
万が一の時に売れることが見込めたのも
大きかったですね。

さらに、縁を感じた、ということもあります。
聞けば、売主の男性、
高齢者向け施設に入る予定で申し込んでいるものの、
満室ですぐに入れるわけではないらしく。
「この家と土地を脇坂さんにもし売るとしても、
先にまず一時的に住む場所を探さないと…」
って仰っていたんです。
そこで、私は閃きました。
「うちが倶知安に持っているアパートに住みません?」
男性からすると渡りに船だったようで、
「それ、いいなぁ!」
とほぼ即決。
高齢者ってなかなか賃貸物件を借りられないんですよね。
逆に感謝されたくらいです。

もし当社の担当者一人で売主さんを訪ねていたら、
こういう話の転がり方にはならなかったはず。
社長の私が即判断できたのはラッキーでした。
そんなこともあって、
なんていうか神がかり的というか、
「やりなさい、脇坂肇…。
きちんと倶知安ニセコで仕事をするのです…」
と言われている感じがしたんです。

この買い取らせていただいた建物を
リノベーションして事務所にする計画が進行中です。
これで地に足をつけて、
ますます商売に精が出せそうです。
よし、これで脇坂工務店も安泰だな!
と思っていたら、足をすくわれました。
ええ、いつものパターンです。

2023年5月末、
あるご夫婦がマカオから来日しました。
2022年からお手伝いしている物件の依頼主です。
ニセコにセカンドハウスを建てる計画なのですが、
その窓口と通訳を務めてくれているのが、
東京の一級建築士アメリカ人のLさん。
建築業界では有名人で、日本語も英語もペラペラ。
彼のアテンドで、
依頼主が建築予定地の視察に訪れたのです。
せっかくの機会、
ご挨拶がてら私も昼食をご一緒することになりました。

ここで突然のカミングアウトなんですけど、
私、外国人と会うと、竹中●人になるんですよね…。
怒りながら笑う、ってことではなく、
満面の笑みを浮かべて
オーバーリアクションになるというか…。
その時の様子を写真に撮ると、
竹⚫️直人が写っているんじゃないか…
ってくらい自分では自覚があります。

その日も昼食の席には竹中直⚫️、
いやオーバーリアクションな脇坂肇がいました。
そこで悲劇が起こります。

「縁があって、脇坂工務店は、
倶知安に事務所を作ることになったんです。
年内には完成するんで、次回来日された際には、
そこで打ち合わせできますよ!」
と私こと●中直人が満面の笑みで伝えたところ、
「ソレハ、イイデスネ!」
とLさんも喜んでくれて、
マカオのご夫婦に通訳してくれます。
調子に乗った私は畳み掛けるように、
「事務所が完成した暁には、
そりゃもう目一杯おもてなししますよ!
そう…O・MO・TE・NA・SHI…!」
と滝川●リステルが務めた、
オリンピック招致のプレゼンよろしく、
ジェスチャー付きで話したのです。

「フィリピンに続いて、
またひとつ、国境や言葉の壁を超える
鉄板ネタができてしまったか…
日本での思い出がニセコの風景ではなく、
このネタになってしまうとは…。
笑いのセンスがあるって罪深いな…」
と最後のSHIのポーズを決めた私。
しかし、Lさんもマカオ人もポカンとしています。
無言。
訪れた静寂。

いやー、
近年稀に見るくらいウケなかったですね。
冷静に考えたら、
東京オリンピック招致のプレゼンなんて、
外国人は誰も知らないわけで。
何より一番、私にダメージを与えたのは、
同席していた当社現場監督が、
会食後にぼそっと放った一言です。
「あんまりウケなかったっすね」
彼の今年のボーナスが出ないことは、
この時点で決まりました。

笑いで言葉の問題を解決しようとしましたが、
玉砕しました。
マカオの人が真顔でしたからね…。
マカオがマガオ。
あ、こういうところですね。

脇坂工務店の社運をかけた倶知安ニセコ事業、
早くもどんより暗雲が立ち込めております。

脇坂肇