2022年10月26日 更新
#42
Ki-Q完成。
かつて「ヒルズ族」なんていう言葉が流行りました。
六本木ヒルズ森タワーにオフィスを持つ経営者や、
六本木ヒルズのレジデンスに住むセレブを
指した言葉です。
なるほど、いわゆる成功者は、
上を目指すようです。
超高層階の見晴らしのいい部屋から、
眼前に広がる街並みを前に、
「フッ、世界はもう私のものだな…」
みたいなことを、
きっとつぶやくのでしょう。
バスローブを着て、ワインを片手に…。
チッチッチッチッチッ…(指を振りながら)
甘い!
私レベルになると、高層階ではなく、
低層階をオフィスにするのです。
もっと言うと、
今、私の目の前に広がるのは
葉っぱ、葉っぱ、また葉っぱ。
緑で何も見えないですから…。
私の肝いりの賃貸物件プロジェクト
「Ki-Q」。
ついに2022年9月、建物が完成しました。
これは業界がざわつくんじゃないか…
なんて、密かに思っています。
というのも、
普通じゃありえないくらい、
いや、異常と言ってもいいレベルで、
作り込んで完成させた一棟だからです。
まず、Ki-Qとはなんぞや?のおさらいから
始めましょう。
以前のエピソードにこれを建てることになった
顛末を書いておりました。
「一般の人でも持てる賃貸型のセカンドハウス」
ということで私は企画しました。
別荘を買うようなお金持ちじゃなくても、
もう一つの生活をおくることができる。
その可能性を、この物件で示したかったんです。
それも私が愛する銭函という場所で。
まず、重要だったのは、
設計を誰に依頼するか決めること。
私は今回、
一級建築士事務所アーカイブの
杉山さんに依頼しました。
既にこの時点でちょっとおかしいわけです。
なにかっていうと、
賃貸物件の設計にそういう人を
抜擢すること自体が。
あ、いや、杉山さんが
「現地で踊りを踊ることによって、
建築設計のインスピレーションを得る奇才」
とかで、おかしいわけではなく。
(たぶん踊ってはないと思います、たぶん)
彼は、あのナカヤマアーキテクツ出身の
トップクラスの建築家なんです。
賃貸物件って、建てるオーナーからすれば
極力安く仕上げたいもの。
安く仕上げて高く貸せば、儲かるわけなので、
こういう優秀な人材=きちんとした報酬が必要な人に
依頼すること自体がレアなんですよね。
で、これは序の口。
設計してもらうだけならいざしらず、
杉山さんを通して、
完成予想図もCGで制作してもらいました。
なにぶん新しい考え方の建物なので、
少しでも借りる人のイメージを補えればと
思ってのこと。
分譲マンションや戸建て住宅ならよく目にしますが、
賃貸物件でこういうのってほとんどないんですよね。
あっても、全国展開している
大規模なマンションブランドとかです。
さらには建築模型も作りました。
●十万円ほどかかりました。
私たちにとっても建築家にとっても、
1900坪もの広大な敷地に
住居を建てることは稀なこと。
敷地に対して、
建物がどのくらいの規模感になるのか、
どのくらいの余白が生まれるのかを
感覚的につかむためにも重要だったんです。
その「余白」部分で、テントサイトとか、
BBQスペース、家庭菜園場などを設けました。
建物そのものに関しては、これで抜かりないものの、
さらにこの建物の価値を磨いて、
的確に世の中に発信する必要があると考えました。
プロジェクト全体を見渡して、
トータルでイメージや世界観の統一を図ることが
必要ってことです。
それこそ、私の出番…
では全然なくて。
私自身ができないことは自覚しているので、
信頼できるメンバーに依頼しました。
1年先まで予約が埋まっていて、
1文字書くのに一万円(という都市伝説がある)
コピーライター/クリエイティブディレクターの
Tさんと、
全国からも注目を集めていて
売れっ子すぎて一見さんはお断り(であってほしい)
アートディレクター/デザイナーのNさんです。
そうです、
当社のロゴマークやスローガンを手掛けたチームです。
この建物の価値を言語化した、
いわゆるコンセプト
「ちがう生き方が、見えてくる。」
という言葉を作ってもらった上で、
「Ki-Q」というネーミングをはじめ、
ロゴ、建物や敷地内に掲出するサインや
入り口に設置する照明などを
トータルでやってもらいました。
彼らのサイトにも事例として紹介されております。
こちらとこちらです。
「私がオーナーです」って言って、
脇坂肇の顔写真は載っていませんから、
どうぞ安心して御覧ください。
さらにさらに、
外構工事にも手を抜きませんでした。
杉山さんに
札幌でエクステリアデザインを手掛ける会社、
エディアランドスケープデザインさんを
紹介してもらい、デザインを依頼しました。
彼らからの提案は、
石を積み上げてワイヤーで囲う壁、
いわゆる「蛇籠」を
エントランスに設置するというもの。
分譲マンションにだって引けを取らないような
雰囲気の良い空間になりました。
蛇籠は、最近でこそ
札幌の街中で見かけるようになったものの
銭函ではまだ見かけません。
積み上げた石の様子が海沿いの風景に馴染むのでは、
と前々から思っており、
いつかは作ってみたかったので、
エディアさんからの提案は
まさに渡りに船だったんです。
トドメにラジオCMも作りました。
AIR-G‘でOAするためのものですが、
6室しかない賃貸物件のラジオCMなんて、
全国的にもレアな気がします。
しかも、「入居者絶賛募集中!」
みたいなこと一切言ってません。
Ki-Qの敷地内で聞こえる
波の音や風の音、木々の音、
鉄道の音などをわざわざ現地で録って、
作り上げたCMです。
ちなみに、
女性がナレーションを務める内容なのですが、
肝心の読み手を誰にするかでは、
CMを企画した前述のTさんと私とで
押し問答になりました。
「イメージは石田ゆり子さんですね!」
とTさんは言い、
「ここは絶対、宮沢りえさんでしょ!」
と私は主張する。
もちろん実際に頼めるだけの予算があるはずもなく、
あくまでイメージの話をしているわけで。
あの瞬間、世界で起こっていた小競り合いのなかでも、
一番みみっちいものだったと思います。
結果は、実際の音源を聴いてみてください。
私が、宮沢りえさんになりきって
読んでいるかもしれません。
うふ。
Ki-Qの立地って、一歩間違うと
ぜんぜん使えない“キワモノ”のような場所。
でも、建築家、クリエイティブディレクター、
デザイナーがチームを組んで、
何回も何回もミーティングを重ねて、
あの特殊な場所が特別な空間になりました。
自分にできないことを頼める人が周りにいるのって、
本当に有り難いことです。
やっぱり私、建築が好きなんですよね。
いくら素敵な建物ができても、
そこに紐づくサインや室内の家具、
アートのような装飾品など、
建物を引き立てるものまで
神経が行き届いていないと、
もったいない!って思っちゃうんです。
やるなら徹底的に、です。
だから、ここまでやり切りました。
ちょっと余談なんですが、
このKi-Qは脇坂工務店の関連会社が所有するという
スキームでやっている事業です。
その代表を務めるのは私の妻。
が、実際問題、Ki-Qの実務は
私がゴリゴリと進めておりました。
お話してきたコピーやデザインなどの
いわゆるクリエイティブにかかる費用は、
当然見積もりを都度もらっていたものの、
代表(妻)に見せられなかったんですよね…。
だって、
「えー、賃貸物件にこんなにかけるの?」
と言われそうだったので…。
そこで必殺「出来上がってから見せて、
もう後戻りできない作戦」
を実行に移しました。
「ギリギリまで言い出す勇気が出ないぞ作戦」
とも言うのですが。
完成後のある日のこと、妻を連れてKi-Qへ。
緊張の一瞬です。
妻がロゴやサインを見るなり一言。
「あら〜、かわいいじゃない〜!」
い、今だ…!
と請求書を見せると、
「いいと思うわ〜」
と一発OK。
危うく、コピーライターたちに、
Ki-Qの敷地内に埋められて、
文字通り人柱になるところでした。
不動産情報とかでも
「オーナーが自ら人柱として
頑張っている建物です」
と記載されるところを回避しました。
ここで皆さんの頭の中には
こんな疑問が浮かんでいないでしょうか。
「なぜ、たかが賃貸物件を、
ここまで力を注いで作り上げたのか…?」と。
ここでひとつ大事な発表があります。
ドラムロール、カモンッ!
ドゥロロロ…
ドゥロロロ…
ドゥロロロ…
ドゥロロロ…
ドゥロロロ…
ドゥロロロ…
ドゥロロロ…
ドゥロロロ…
ドゥロロロ…
ドゥロロロ…
ドゥロロロ…
ドゥロロロ…
ドゥロロロ…
ドゥロロロ…
ドゥロロロ…
ドゥロロロ…
ドゥロロロ…
ドゥロロロ…
ドゥロロロ…
ドゥロロロ…
あ、ドゥロロロ…って口で言うの
大変なんで、そろそろいいですかね?
ダダン!
実は、銭函駅前にあった
私のオフィスをKi-QのE室に移すのです!
こんな大事なこと、
今まで黙っててごめんなさい!!!
あれ、なんか静かだな…。
ひょっとして誰も気にしていない…?
さかのぼること2016年。
現在の銭函駅前の物件にオフィスを移転した時点では、
スペースは十分あったんです。
ただ、移転以降、
おかげさまで仕事が好調に推移して、
それに比例して人も増えていき、徐々に手狭に。
当初は社長室を設けようとしたんです。
でも、書類を収納するスペースが足りないってことで
社長室の代わりに書庫をつくりました。
だから、私はずっと社員と机を並べて、
仕事をしていました。
すると、集中できないんですよね…。
周りで商談とか打ち合わせとかが
ひっきりなしに行われているので。
ラジオの原稿なんかを書いていても、
まったく集中できない!
逆に、周りの社員から言わせると、
私がずっとブツブツ言いながら
何かを書いているから、
まったく集中できない!
って思われていた気もします…。
で、途中から同じ建物の4Fの一室を
私のオフィスとして使うことにしました。
そこで原稿書いたり、接客や打ち合わせしたり。
2年間くらいですね。
一人だからものすごく集中できるし、
なにより昼寝にいいんですよ、ここだけの話…!
執務スペースとしては、
4Fの部屋に不満はなかったものの、
お客さまに見てもらえる整った場所が
欲しいとも思っていました。
私たちはモデルハウスをつくらない方針。
「パターン化した家」を持っていないんですね。
となると、
いかにお客さまの想像力を掻き立てられるかが
カギになります。
4Fの部屋に打ち合わせに来ていただいても、
さっきまで私が昼寝していたせいで、
ホカホカしているソファがあるわけで。
ホカホカのソファから、
私の生活を想像してもらっても仕方ないわけで。
だから、Ki-Qの構想段階から、
私のオフィスをそこに移す計画だったんです。
脇坂工務店が建てる家の
クオリティの一端を感じてもらおうってことです。
建てる段階から、その前提だったので、
私のオフィスが入るE室の建具は
特別仕様になっています。
(あ、Ki-Qの部屋番号は
AからFのアルファベットなんです)
内装もクロスじゃなくて塗装にしたり、
家具もカンディハウスのものをセレクトしたりと、
他の部屋とは異なる空間。
一見の価値ありです。
また、Ki-QのE室には音楽室も作りました。
グランドピアノが入る6畳の広さ。
防音ドアも二重仕様です。
「音楽室のある木造住宅」っていうのは
当社のウリのひとつだったのですが、
いかんせん、
すぐに見てもらえる家といったら
私の自宅くらいしかなかったのがネック。
当社の音楽室のクオリティを
実際に確かめてもらえる場所が
ずっと欲しかったんです。
Ki-Qで、その念願が叶いました。
そう、夢の空間です。
私にとってのデ●ズニーランド。
脇坂ミ●キーがお出迎えします。
既に2、3組お客さまに来てもらっていますが、
こんな住まいにしたい!という声も頂いており、
好評です。
お客さまの頭の中に想像が広がっているのが
手にとるようにわかります。
そうなると、
じゃあ、脇坂工務店として
このE室をなんと呼んでいいのか?
離れ?
ブランチ?
ショールーム?
と色々考えたのですが、
「プレゼンテーションルーム」
って呼ぼうかなと。
脇坂工務店の考える、
ひとつの理想の暮らしを
プレゼンテーションするわけですから。
まあ、時間が経ったら、
誰もが「肇の部屋」
と呼んでいる確率98%です。
先日、ちょっと驚きだったのが、
関東からの移住を考えている方が
Ki-Qの内覧にいらっしゃいました。
ずっと私たちは、
札幌や銭函という地元に根ざして、
地元のお客さまを相手にやっている感じが
強かったですが、時代は変わりましたねぇ。
そんな移住を検討している人たちにとっても、
「賃貸でとりあえず銭函に住んでみる」
という選択肢にKi-Qがなれればいいな、
とも思っています。
毎回お話していることですが、
こういう作り込みって、
数字的な根拠ってないんですよね。
これだけ建物やそれにまつわるものに
●●円投資したら●●円儲かる、
みたいなことは、ないわけで。
やっぱり、それは自分の感性や
直感に従っているんです。
いま、KI-Qでこれを書いている2022年10月。
まだ契約者の方は誰も入居していないので、
すこぶる静かですが、寂しくはないです。
銭函で最初に構えたオフィスは海沿いにあったので、
リゾート感たっぷりだったんですが、
現オフィスは海が目と鼻の先にあるとはいえ、
そこまでリゾート感がないんですよね。
だからカヤックを買ったり、
サザンを流しながらオープンカーを運転したり、
無理やりリゾート気分を盛り上げていました。
でも、Ki-Qで仕事をするようになった今、
再びリゾート感というか
非日常を感じていて、とっても心地いいですよ。
これで私は、
本社、札幌オフィス、銭函オフィス、Ki-Qと
計4箇所の働く場所を持つことになりました。
ちょっとずつ移動して、そこで仕事して、
また移動して、みたいな働き方です。
Ki-Qの私のデスクの真ん前にあるのは、
大きなガラスです。
ヒルズ族が目にするような
きらびやかな街並みなんてものは当然ないですし、
なんなら夏場は木が生い茂っていて、
濃い緑色の葉っぱしか見えません。
(逆に秋冬は海が見えます!)
でも、脇坂工務店としては、
これが何よりも贅沢だし、豊かだなぁと思うのです。
あと、KI-Qの部屋で過ごす良さをあげるとしたら…
そうだな…、
あっ、目が良くなるはずです、きっと。
こうやって緑を眺めながら仕事をしていると、
本当に視力が回復している気がします!
いや、ホントに。
と言っても、
私、この歳にして裸眼で視力1.2ありますからね。
ここからさらに、視力を上げて、
サン●ンさんと同じ視力5も夢じゃない。
サバンナでも生活できるようになるはず。
まさに「ちがう生き方が、見えてくる。」ですね。
ちがうか。
脇坂肇