「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2023年2月24日 更新

#46

建築条件付きのウラ。

脇坂肇

「建築条件付き」
家を建てようかと少しでも考えたことのある方には、
おなじみの言葉でしょう。
そして、きっとこう思っているのでは…
と私は推測しています。
「これはきっと、土地は安く見せかけて、
建物を建てる時には、
ものすごーく高い値段をふっかけてくるヤツでは…」
そして、さらにこう考えるのでしょう。
「だったら、ちょっと割高でもいいから、
土地だけをバラ売りしてもらえばいいんだ!」
こんな風に考えていた人、
ちょっとそこに座って、私の話を聞きなさい。
先生、怒っていないから。
ほら、笑顔だろ…?
こめかみがちょっとだけ
ピクピクしているかもしれないけど。

意外に思われるかもしれませんが、
そこそこ長く業界にいる私でも、
誰がいつから
「建築条件付き土地」
という仕組みを導入したのか、
定かじゃないんです。
もともとは大手ハウスメーカーが、
数十区画あるような分譲地をつくった際に
使っていた言葉だとは思います。
ただ、1~2区画くらいの土地を
売りに出す際にも使われるようになったのは、
ここ10年くらい前からではないでしょうか。

で、最近私を悩ましているのが、
「建築条件付きを外して、
土地だけ売ってくれませんか?」
という問い合わせです。
当社WEBサイトに出ている土地情報を見て、
ハウスメーカーや個人の方から
「プラス●●万円払うから、売ってくださいよ〜」
と連絡がくるんです。

ちょっと余分にお金払えばいいんでしょ
という感じで言ってくるのが、
また癪に障るというか…カチンとくるというか…。
あ、言葉がつい荒っぽくなりました。
いけませんね、社長たるものもっと品がある
物言いをしないと。
改めて、経営者らしく上品に言うと、
おカチンとくるんでございます。

や、これがですね、
「建築条件付きを外してくれるなら、
3倍の値段で買います!」
と言ってくる方がいるのならば、
「いや〜、お目が高い!!!
建築条件付きが冗談ってよくわかりましたね!
やっぱりお金を持っていらっしゃる方は、
これが本当は建築条件付きじゃないって
すぐわかっちゃうんですね!
ははははは!
すぐにこんな邪魔な条件は
外してしまいましょうね!
えいっ、えいっ!」
と、前言撤回しまくりで、
なんの躊躇もなく速攻お売りします。
その時の私の身体の動きは
光の速さを超えているはずです。

ただ、世の中そんなうまい話はないわけで。
「建築条件付きを外してなんて、
気安く言うなぁぁぁぁぁああああ!」
と言いたいけれど、
冷静になって、よくよく考えてみると、
「建築条件付き」なんて慣習、
当たり前ですけど、他の業界にはないもの。
よく事情を知らないから、気軽に
「それ、要らないっす」
と言えるのではないだろうか…?
きちんと伝えてこなかった結果であれば、
私たち業界の人間の責任なのでは!

というわけで、
なぜ私がそれほどまでに
建築条件付きを外すことに難色を示しているか、
そのウラをお話ししましょう。

まず基本の確認から。
仲介という形式を取らずに、
当社が土地を直接売り出しているってことは、
既にそこが当社名義になっているってことです。
つまり、
私たちがリスクを背負っていることを意味します。
土地が売れずに在庫になるかもしれない
というリスクです。

また、御存知の通り、
土地って昨今非常に値上がりしています。
それを仕入れるために、アレがいるわけですわ。
わかりまっか。
ゼニですわ。ゼニ。
マニーとも言いますね。
あ、すいません、生々しい話をしていると、
つい大阪の血が。
大阪、住んだことないですけど。
お金を用意するだけでも、
それなりのエネルギーが必要だとは
きっとおわかりいただけるかと思います。

では、なんとかかんとか、
お金を工面できたとしましょう。
次なる問題は、
お客さまから土地を譲っていただく場面です。
お客様や仲介業者から話をもらってから、
当社が土地を買い取るまで、
そりゃもう悲喜こもごものドラマがあるわけです。

高齢のお客さまの家族から
「母が土地を持っているんだけど、
もうかなりの高齢で、
認知症になる可能性だって十分にある。
本人も周りに迷惑をかけたくないから
意識がしっかりしているうちに
手放してしまいたいと言っていて。
それで脇坂さんのところに
連絡してみたんですが…」
とか。

「長年住んでいた銭函を離れて、
東京に住む息子家族たちと、
一緒に暮らすことにしたんです。
そうなると土地を処分しなきゃいけないんですが、
仲介だといつ売れるかわからないでしょ?
すぐに処分してしまいたいので、
ちょっと安くてもいいから、
すぐに買い取ってくれる人を探していて。
それで脇坂さんのところに来たわけなんです」
とか。

「土地の売買」って言葉だけを切り取ると、
書類上のドライでビジネスライクなやり取りを
イメージされるかもしれません。
でも、個人のお客さまからの買取は、
もっとウェットというか、人間味があるというか。
だって、ずっとそこで暮らしていた人がいて、
たくさんの思い出がある場所なわけです。
私にはその思い出のすべてはわからないけれど、
それが売り主さんにとって、
とてもとても大事なものだとはわかる。
膝つき合わせて、色々お話を聞いていると、
やっぱり単なる地面には、
見えなくなってくるんですよねぇ。
そう、ゼニに見えてくるんですよねぇ…。
ゼニ函の土地だけに…。
いや、嘘です。
オヤジギャグ含めて、なかったことにしてください。

また、土地の買取でよくあるのが、
現在建っている古い家ごと買い取るというパターン。
その解体作業や、家具や家電やらの処分までを
一手に引き受けることは珍しくありません。
売り主さんからしたらラクだと思いますよ。
実際、すごく喜ばれますし。
逆にこちらからしたら手間が増えるのですが、
土地を譲っていただくためには、
そのあたりもすべて引き受けて、
清濁あわせ飲んで、
物事を進めていかなければならないのです。

そうやって、私たちが悪戦苦闘しながら取得した土地。
売り主さんの思い出なんかも残っている土地。
それを、それを…
「建築条件付き、そういうのダルいんで、
パパっと外してくれないっすかぁ〜?」
とよくも…よくも軽々しく言えるな…!!!!!
(私の耳についているフィルタを通すと、
そう聞こえています)

あ、いけない。
冷静になれ、脇坂肇。
そうか、
そもそも、なんで建築条件付きにしているのか?
って話ですよね。

「不動産王にオレはなる!」
と思っているから、
当社が土地を扱っているわけでは決してなく。
あくまで、
お客さまにとって理想の家を建ててもらうための手段が、
土地ってことなんです。
工務店としての商売は、
土地がないことには話が始まりませんから。

ここで今までオープンにしていなかった
重大な秘密を発表をします。
銭函の土地に限っていうと、
土地の値段を引き上げないために、
安めに値段設定して販売しているんですよ。
だから、売りに出している土地って、
当社にとっては、ほとんど儲けが出ないような価格。
諸経費とスズメの涙くらいの利益を含んだ程度です。

最近の銭函の人気を鑑みれば、
高く値付けする事自体はいくらでもできます。
でも、私たちが住んでほしい人たちが
住めなくなるくらいの地価に
なってしまうのは何としても避けたい。
それって結果的に、私の好きな銭函という街が、
やせ細っていってしまいますから。
そこを危惧して、私は土地の価格を抑えて
お客さまに販売しているのです。
ああ、言ってしまった…。
またこれで好感度が上がってしまったか…。

しかし…しかし!
各方面から聞こえてくるのは、
「銭函は脇坂工務店が牛耳っている」
という評判です。
先日も当社に相談に来る前に、
某ハウスメーカーを訪ねたお客さんから聞きました。
「銭函で家を建てたいんですか?
だったら、脇坂工務店さんに問い合わせてみると
いいんじゃないですか〜」
と営業マンから言われたそうで。
確かに銭函で長年商売をしてきたおかげで、
かなりの数の土地情報が
私のところに持ち込まれてきます。
それも一因となって、
牛耳っている感が醸し出されているのだろうか…。
そもそも「牛耳る」って意味を辞書で調べみると、
「団体や組織を支配し、思いのままに動かす。
(出典:デジタル大辞泉(小学館))」
……。
いやいやいやいや、
これ完全に銭函のフィクサーじゃないですか…。
ならば、オフィスのBGMを
ゴッドフ●ーザーのサントラにしないと。

他に一般の方から見て、わかりづらい点で言うと、
売りに出された土地って、
ある意味私たちのほうで
「下処理」を済ませているんです。
土地を仕入れた段階では、
販売するには広すぎたり、
形がイビツだったりすることがけっこうあるんですよ。
それを2区画に分ける作業をしたり、
隣の土地を取得して、家を建てやすい形に整えたり。
目に見えない手間ひまをかけているんです。

それなのに
「建築条件付きを外してくれないなんて、
ケチだなぁ…」
と言われる時の私の気持ちを
5文字以内で答えなさい。
正解は「怒っている」、
別解は「プンプン」です。

建築条件付きの土地を売り出している、
もうひとつの理由を最後にお話しましょう。
当社とハウスメーカーの大きな違いって、
わかりますか?
営業の数です。
あちらはヘタしたら何十人も営業担当がいます。
どの会社で建てるかわからないような
お客さまを相手にして、
なんとか自社で建ててもらえるように
頑張って営業する、みたいな感じかと。

かたや脇坂工務店は、営業は社長の私一人。
一人しかいないから、
「いやー
A社、B社、C社、D社、E社と迷っていて」
みたいなお客さまを相手している
時間もエネルギーもないわけです。

や、家という大きな買い物で
迷われる気持ちは重々わかりますが、
本当に私の身体がいくつあっても足りません。
私が5つ子で、同じように営業できたら、
脇坂の波状営業アタックとか全然しますよ。
契約書にハンコを押してもらえるまで、
脇坂A、脇坂B、脇坂C、脇坂D、脇坂Eと
順にお客さまのもとへ通いつめる、みたいな。
ええ、これは完全に犯罪ですね。

そこで、私の代わりに営業をしてくれるのが、
当社の場合は「土地」となるわけです。
土地をきっかけに当社を知ってもらい、
当社で家を建てていただきたい、ということ。
だから建築条件付きで土地を売りに出すのです。

ちなみに、
たくさんの人(営業)を雇用していたら、
当然その人たちの人件費ってものが
会社としては必要になるわけです。
じゃあ、そのお金はどこから出るのか?
少し考えればわかりますよね。
そうです、家の価格に含まれるんです。
たとえば通常3000万円の家だけど、
人件費が上乗せされて
3100万円になっていたりするわけです。
そのぶん手厚い営業サービスが受けられる
とも言えるので、これを良しとするかどうかは、
本当にお客さま次第です。
参考までにお伝えしておくと、
私、いっぱしの社長ですが、
来週の日曜日は打ち合わせです。
あ、先週の日曜日もお客さまと打ち合わせでした。
当然のことながら、毎週土曜日は仕事。
なんてったって、営業が私一人だからなぁ…。
家の販売価格を上げるわけにはいかないからなぁ…。
あ、つい独り言が大声になりました。

話のついでに、この場を借りて言いますと、
相見積もりで価格を叩かれることを避けるため、
私は最大限のパワーを使っています。
例えば、先日のこと。
取引のない初めての設計事務所から
問い合わせがありました。
相見積もり依頼だったんです。
つまり、施主が彼らに設計を依頼した家があって、
その施工をできる会社を決めるにあたっての相見積もり。
当社は丁重にお断りしました。
なぜかと言うと、
結局、価格が判断基準になってしまうからです。
技術力・実績で判断するなら、
見積を比べて決めることはしないと思いますから。

そういう競争に巻き込まれるくらいだったら、
信頼できる設計事務所やお客さまとの仕事に
全力を注ぎたい。
そういう考えでやっております。
前回ご紹介した倶知安で進行中の●億円の仕事。
こちらの実績を伝えて面談を実施しただけで、
当社に決めてもらいました。
すごく嬉しいし、こうやって信頼してもらえると
全力を尽くそうってなりますよね。
脇坂肇も人の子ですから。

ここで豆情報をひとつ。
もし、あなたが設計事務所に設計を依頼したとして。
図面がある程度固まってきた段階で
設計事務所が施工会社の相見積もりをとったとしましょう。
もし仮に工事費用がすごい安い施工業者が
そこに混ざっていたら、
ウラがあることを疑ったほうが安全です。
実は施工って、どの会社がやっても
そんなに価格の違いって出ないんですよ。
使う資材が決まっていると、その仕入れ値だって
どの会社でも似たりよったりですし。

で、ごくたまに、
すんごい安い工事見積もりを出す会社が
あるから要注意ってことです。
そういう会社って経営が上手くいっていなくて、
とにかく運転資金としてのキャッシュが
ノドから手が出るほど欲しい。
結果、採算度外視の捨て身の戦法で、
安い見積を出してくるというのがカラクリです。
つまり会社としては風前の灯火だから、
最悪、家を建てている最中に
つぶれたりするところもあるんですよ…。
(脅しじゃなくて、実話です)
私の経験値だと、工事費の見積の差は、
あっても数十万円か、せいぜい100万円くらい。
もちろん大金なんですが、
上記のようなリスクを念頭において、
見積を見ることをおすすめします。
どの会社も施工費だけで
ガッポガッポ儲けようとしていない、
いや、儲けられない構造なんですよね。

と、「建築条件付き」にまつわる
あれこれをお伝えしましたが、
とはいえ、一般のお客さまに対して、
ファーストコンタクトで建てる会社を選んでください!
ってのも酷な話ですよね。
もちろん、そこはわかってます。
だから、もし複数社で迷っている方には、
まずは当社のアピールポイントだけをお伝えして、
それで打ち合わせを終了させるようにしています。
説得とか、営業トークとか一切しません。
「ハンコを押すまで、
そこのドアは開かない仕組みになっています!」
とかもやりません。
ハンコを押したくなるような
催眠術をかけたりもしません。
一度冷却期間をおきます。
どうぞ他の会社の話も
色々聞いてみるといいんじゃないですか、って。

すると、しばらくたってから、
再び当社に問い合わせをしてくれる方が多いんです。
「他でも話を聞いたけど、
やっぱり脇坂さんのところの話が一番信頼できる」
って。
逆に再び当社に問い合わせをされないお客さまは、
別のふさわしい会社が見つかったんだ、
と思うようにしています。

さて、最後にひとつ、当社のウラ技を。
建築条件は死んでも外さない!
って感じに思われているかもしれませんが、
(実際そういうことをここまで書いていたのですが)
ひとつ例外はあります。

お客さまが依頼したい設計事務所があって、
そこが当社と取引がない場合には、
建築条件付きを外すことはあります。
(もちろん、施工は当社という条件にはなります)
たとえば、
「アンドウ先生に頼みたいんだけど」
とか
「クマ先生に頼みたいんだけど」
っていう方いたら、ご相談ください。
「ああ、クマ君ね、
最近彼も頑張っているから、いいかなぁ〜」
という感じで承ります。
もちろん、打ち合わせにはサイン色紙と
ツーショットを撮ってもらうためのチェキは、
持っていきます。

脇坂肇