「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2022年9月26日 更新

#41

仁義と檀家まわり。

脇坂肇

贔屓の店やブランドってのが、
誰しも一つや二つ、あると思います。
私の場合は、
愛車に履かせるタイヤはブリヂストン…
いや、ブリヂストンさんです。
飲み物はサントリーさん。
サントリーさん以外の液体は
吸収されない身体になっています。
ハンバーグはびっくりドンキーさん一択。
あのメニューボードを神棚に祀りたい。
すすきので寿司を食べるなら、
まっさきに菊鮨さんへ連絡します。
回るお寿司が食べたいなら、
自ら回りながら菊鮨さんで食べます。
銭函でランチするなら、
寿司と焼き肉の銭函大山さん。
メインが寿司、デザートは焼き肉。

これは、私が自らに課した鉄のオキテ…。
仁義なき世界における、
仁義ある戦いなのです…。

N G

「脇坂工務店さんは、
パン屋の工事をやらないってホントですか…?」
2022年6月のある日、
新規のお客さまからかかってきた電話で、
いきなりこう言われました。
え?なんのこと?
と一瞬顔が土偶のようになり、
「いや、そんなことはないですが…」
と答えると、
「え、でも、先日のラジオで
『パン屋はできないんですよ!』
って言ってましたよね…?」



…あ〜!と思い出しました。
さかのぼること、数週間前。
AIR-G’のスタジオにいた私。
朝の生番組でこんな話をしていたのでした。

「今日は、星置の物件をご紹介しましょう。
ここはなかなかすごいですよ!
ほしみ駅近くにも関わらず、
国道5号線に面していて、
広大な土地に建つ店舗兼住宅です。
しかも『コンセプト住宅』と私たちが呼んでいる
建売でもなく注文住宅でもない、独自のスタイル。
設計士がこの土地にあわせて設計した
オリジナル住宅なんですよ。
1F部分を店舗スペースとしているので
雑貨店、ヘアサロン、カフェ、レストランなどの
お店をやりたい方にはぴったりじゃないでしょうか。
敷地がこれだけ広いんで、
駐車スペースを十分に確保できますし。
あ、ちなみにパン屋はダメです!
なぜなら、銭函のパン屋さんを
脇坂工務店で建てさせてもらっているんでね!
ははは!」
と立て板に水のように、
当社が扱う物件について話をしておりました。
こちらのエピソード終盤で語っていた物件です)

確かに
「あ、ちなみにパン屋はダメです!」
って言ってますね…。
で、今回電話で問い合わせをくださった方が
なぜそんなことを気にしているかというと、
ご自身がパン屋さんだったから。
小樽のパン屋「ヨルトノ」の店主Aさんでした。
「パン屋ダメ」発言の真相をお伝えすべく
すぐにお会いすることにしたのです。

ヨルトノさん、毎週水曜日にパンの仕込みをしながら
AIR-G’を聴いているそうでして。
私の番組のヘビーリスナーだとか。
パンの仕上がりに影響が出ないか、
我ながら心配になりますね。
何か手元が狂いそうな気がしますが…。

で、事情を詳しく伺えば、
小樽商科大学近くにある現在の店舗から
移転を考えていて、
ずっと土地を探していたところ、
最近ようやく希望に叶う土地を
小樽市張碓に見つけたと。
そこで意を決して、
前から気になっていた脇坂工務店に
打診をしてみた、ということでした。
ありがたや、ありがたや。
当社に頼んでもらえれば、
理想の住まいを形にするのはもちろんのこと、
なんならパンの仕込みの時に
私が工房にお邪魔して、
そばでずっとトークをする、
なんてサービスもご提供可能ですからね。
ほら、モーツアルトを聴かせた
日本酒は旨くなる的な。
脇坂肇の話を聞かせたパンは旨くなる的な。
その見積もり出しましょうか?
あ、それは要らないですか。

で、肝心の
「パン屋ダメ」の理由です。
当社は銭函のカトルフィーユさんの店舗
建てているんです。
円山の人気パン屋が銭函に移転してくる際に
声をかけてもらってお手伝いしました。
その縁があるので、
銭函とかぶる商圏に、
自分のお客さまのライバルを増やすのは申し訳ない
と思って、
あの星置の物件を紹介する際に
「パン屋ダメ」と話した、
っていうのが真相です。
まあ、半分本気、半分冗談だったんですけどね…。
まさか私のラジオを聴いて、
本気に思う人がいると思わなかった。
ラジオではちゃんと話さないと!

ちなみに、
なぜか脇坂工務店はパン屋さんとは
最近縁がありまして。
前述のカトルフィーユだけでなく、
小樽の朝里にある
まる谷製パンさんの新店舗
当社が手掛けたものです。
どちらもたまたま2020年に完成した
店舗兼住宅です。
カトルフィーユさんもまる谷製パンさんも
小樽の人気パン屋ベスト5に入るようなお店。
これでヨルトノさんも当社が建てることになったら、
小樽のパン業界は
脇坂が牛耳っていると思われそうだな…!
こりゃ困ったな…ぐふふ…
と妄想しながら半笑いになっている私に、
ヨルトノのAさんから
改めて当社に依頼したいとお話がありました。

しかし、そこは義理人情を重んじる漢、脇坂肇です。

「大変ありがたい話ですが、
すぐにお受けできるとは即決できないんです…。
カトルフィーユさんに
一言断りを入れさせてください。
そう、仁義を切らせて欲しいんですよ。
仁義を…!」
とAさんには伝えました。

そういえば業界によっては、
やたらと「仁義を切る」っていう言葉を
連発する人いませんか?
そこは別に「確認する」で良くない?
っていう場面でも
「仁義を切る」って使う人。
まあ、私もそうなんですけど。
仁義を切る。
声に出して読みたくなる日本語ですね。

それから、すぐに仁義を切るべく、
カトルフィーユさんに連絡しようと
電話を手に取ります。
しかし、その手が
じっとり汗ばんでいることに気づきました。
や、カトルフィーユさんも大丈夫って
きっと言ってくれるはず…。
最終手段としては、
「脇坂肇はみんなのものだから、
私のために、みんなケンカはやめて!」
と言おうか。
いやいや、逆に火に油を注ぐか…。

意を決して、
カトルフィーユの店主Bさんに連絡します。

「おう、どうしたお前さん」
「へい、実はカトルフィーユ親分に折り入って相談が…」

あ、仁義を切るってなると、
つい脳内で任侠映画のイメージで再現されるんで。
気にしないでください。

「実はですね…カクカクシカジカ、
張碓でパン屋を建てることになりそうでして…」

「え…?
…………………(無言)」

「あ、いやいやいやいやいや!
当然、脇坂工務店は
カトルフィーユ親分あっての脇坂工務店。
銭函の繁栄は、
カトルフィーユ親分のおかげなわけで。
そんな不義理を働くわけにはいかないよって、
何度も話して聞かせてやったんですけどね。
なかなかのきかん坊でして…。
というか、うちが親分の店を
建てているってぇのに、
それでもいいから建ててくれなんて、
どういう了見でモノ言ってんだっつう話ですよね!
や、これはアレですね。
ちょっとヨルトノってぇ店に
押しかけたほうがいいっすね!
おいおいどういうことだい、って
やっちゃってくださいよ!
カトルフィーユ親分!」

「……………」

「お、親分…?」

「…いやー、別に問題ないんじゃないですか。
張碓ですし」

「え…?」

あ、すいません、
皆さまお気付きの通り、
カトルフィーユさんの反応を気にしていたあまり、
会話の大部分は私の妄想で再現されております。
あしからずご了承ください。
ともかく、カトルフィーユ親分、
じゃなかった
カトルフィーユのBさんからは
気持ちよく了承をいただきました。
そう、仁義をきちんと切ったわけです。
あ、ちなみにBさんはまったく親分ぽくないです。
私が本当に怒られるので、
この話は秘密にしておいてください。

Bさん曰く、
ヨルトノさんとは
まずパンの種類がちがうと。
あとエリアも張碓と銭函と
それなりに距離も空いているので、
そんなに競合にはならないのでは、という見解でした。

パン好きの人たちって、
1日で数店舗をめぐることも珍しくないそうです。
しかも街中ではなく、銭函エリアのような、
週末にちょっと遠出していく所にある
パン屋ならなおさらのこと。
1店舗を訪れると、
その流れで他の店にも足を運ぶ確率が高いと。
確かに、それはありそうな話です。
であれば、ヨルトノさんとカトルフィーユさん、
互いの相乗効果になりそうじゃないですか。
ん、待てよ…。
だったら、この銭函エリアに
もっとパン屋を誘致すれば、
さらに盛り上がるのでは…。
と思ったのですが、
そんなことをやると、
本当にカトルフィーユ親分と、
ヨルトノ親分の逆鱗にふれて、
私はパンにされることでしょう。
もしくは、ジャムおじさんの格好で
お店を手伝う羽目になりそうなので、
そんな邪な考えを頭から即座に消し去ったのは、
言うまでもありません。

で、ヨルトノさんには
無事に仁義が切れた(しつこい)ことを報告。
商談はトントン拍子に進んでいきました。
私が営業としてケアしたことといえば、
指名する設計士の選定です。
まる谷製パンさんは戸島健二郎建築設計の戸島さん、 
カトルフィーユは堀尾浩建築設計事務所の堀尾さんが
設計を担当。
なので、今回のヨルトノさんは
アーカイヴの杉山さんに白羽の矢を立てました。
パン屋ごとに設計士を変える、ということです。
工務店が同じでも設計士が変われば、
建物の醸し出す雰囲気は
当然のように変わりますからね。

結果的には6月に問い合わせがあってから、
9月に契約締結という
異例の超スピードで物事が進みました。
ラジオリスナーだったヨルトノのAさんが
私の魔球のようなトークに慣れていたのも
大きかったのかもしれません。
私が変なことを口走っても、
彼には耐性がありましたから。

建物は来年3月完成予定です。
張碓という新天地で、
ヨルトノさんがどんなパンを生み出すのか、
今から楽しみですね。

カトルフィーユさんしかり、
ヨルトノさんしかり、
最近は店舗付き住宅の依頼が増えてきています。
施工実績としてもWEBに出していますし、
飲食業界や小売業界の中でも
「あの工務店は、なかなかいいらしい」
なんて、
話題にちょっとのぼったりもしているようで。
嬉しいですね。
やはり、ただの住宅とは違って、
店舗の建設にはある程度の慣れや経験が必要。
そのあたりが評価されているとは思います。
あ、あと思い当たるのは、
脇坂工務店が建てると繁盛店になるからじゃ…!
え、もともと繁盛店なんじゃないのかって?
まあ、確かに…。
それと店がオープンすると、
私が3ヶ月間、すべての商品買い占めて
繁盛させますからね(嘘)。

店舗付住宅の最新の事例でいうと、
「おお田ラーメン店」さんでしょうか。
朝ラーメンの先駆者として
ラーメン愛好家の間では有名な店なんですが、
東区から南幌町への移転を計画されていました。
当社は、土地の選択に関わるアドバイスから
やらせてもらっています。

ここで一つ、これを読んでいる方におくる豆知識を。
皆さん、店舗や家のことは
ものすごく考えているんですけど、
駐車場のことがすっぽり抜けているケースが多いんです。
北海道で商売をする上で駐車場は超重要。
繁盛店であるがゆえに、
近隣と迷惑駐車でもめてしまい、
移転をせざるを得なくなった店を
いくつも知っています。
なので、土地の計画などを伺った時には
駐車場がどれだけ確保できるのかは
私はかなりチェックさせてもらいます。
おお田さんのケースでも、
最初の候補だった土地は、
2~3台くらいしか駐車スペースがなかったですから、
おいおいおいおいおい〜!って
突っ込んで止めて、事なきを得ました。

さて、ここで賢明な読者の方ならお気づきでしょう。
脇坂工務店でラーメン店といえば、
麺や虎鉄さんです。
近年は新店舗の建設を
ほぼほぼ100%やらせてもらっています。
なので、ここでも虎鉄の社長に

「親分、ちょっとお耳にいれておきてぇことが…
や、たいそうな話ではないんですがね、
あるラーメン店の店舗兼住宅を
どうしても脇坂工務店で建てたいっていう
奴さんがいやして。
そこまで頼ってくれるのは嬉しい反面、
あっしには虎鉄さんがいるじゃないですか。
どうしたもんかと考えて、
三日三晩眠れず…」

という気分で、
あくまでそういうイメージで、
虎鉄の社長Tさんに話したら、
「別にぜんぜん問題ないんじゃないですかね」
とあっさり。
「エリアが違いますし。
仮に同じでも、
うちはそんなに気にしないですから。
個人店さんなら、是非脇坂工務店さんの力で
応援してあげてください!」
と気持ちのいい回答をいただき、
「お、親分…一生ついていきます!」
と口にしそうになりました。

ここまでいわゆる「仁義」を
気にする建築会社は少ないかもしれません。
マクド●ルドとかサイ●リヤとか
全国展開の大手チェーンの店舗をやっていると、
ライバル店の仕事はできない、
といった契約はありそうですが(脇坂の推測です)。
ここまで私が仁義を貫く理由は、
任侠映画が好きだから…
ではありません。
単純に私が黙って競合店の仕事をしていたら、
もとからお付き合いあるお客さまが
きっと面白くないんじゃないかなぁ、
と思うからです。
これは私の商売上の哲学ですね。
別に人に同じ考え方を押し付けたいわけでもなく、
あくまで私の美学の話ですから…。
(カッコいい…カッコいいぞ、脇坂肇…!
あ、サインと記念撮影は事務所を通してください)

なので、タイヤ館の店舗のリフォームを
やらせてもらったので、
うちは車のタイヤはブリヂストンさん。
とある不動産の売買でお世話になったので、
飲み物はサントリーさん。
ハンバーグはびっくりドンキーさん。
すすきので寿司なら菊鮨さん。
銭函でのランチは寿司と焼き肉の銭函大山さん。
クルマなら●●●、
パスタなら▲▲▲▲▲▲▲
居酒屋なら…
といった具合に決めております。
これが私の「檀家まわり」です。
うちのお客さまとお店を極力使いましょう、
ってことですね。

でも、こんなこと書くと、
飲み屋で
サッポロクラシ●クとか注文していたら、
すぐサントリーさんにタレコミをされそうだな…。
先日もスターバックスのコーヒーを飲みながら
打ち合わせをしていて、一瞬ハッとしましたが、
スターバックスのコンビニ商品を
サントリーさんが手掛けているのでセーフ!
完全にセーフ!

ただ、ひとつ悩みがあります。
AIR-G’のラジオに出演している関係もあって、
AIR-G’の社員の方のご自宅を
何軒か建てさせてもらっているものの、
実は、NORTHW●VEや
H●C、T●Hなどなど、
いろんな放送局の方の家を建てていて、
仁義を切れていない状況なんです…。
矛盾しているじゃないか!
と言われればぐうの音も出ません。
かくなる上は、
自宅に10台くらいテレビとラジオを置いて、
同時に視聴するしか、
仁義を切る方法がない気がしてきました。

脇坂肇