「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2022年11月25日 更新

#43

奇跡の土地。

脇坂肇

「1万円の土地」
「水道管がない土地」
「家がはみ出している土地」
今回お話ししようと思っている
土地の数々です。
実際、私が目のあたりにしたものばかり。
まるで超常現象かのように、
想像の斜め上をいっています。
もうトリッキーさを通り越して、
私には奇跡とさえ思えてきました。
一読しただけでは、
きっと頭の中にたくさんの
「?」が浮かぶに違いありません。
人智を超えたエピソード、
覚悟してお読みください。

1

最初の舞台は、
脇坂工務店の心のホーム、銭函です。
懇意にしている不動産会社から、
ある土地の話が持ち込まれました。

「脇坂さん、
タダでもいいから引き取ってほしいって
言われている土地があるんだけど…」

この時点で怪しいと思いませんか。
タダほど怖いものはありませんから。
何か裏があるとかなり警戒して、
話を聞いてみたら、
案の定、裏がありまくりでした。

「ほら、これを見てくださいよ」
と不動産屋さんが広げた土地の図面。
もちろん、そこには
今回売却希望の土地が記載されていて、
一見普通なのですが、
よくよく見ると、どうもおかしい。

「こ、これは…」
「そうなんです、売り主のおばあちゃんの土地、
道路に面してないんですよね…」

解説しましょう。
現代の法律では、道路に面していないと
建物が建てられないことになっています。
しかし、この売主の方の家は、
なぜか道路に面していない土地に建っていました。
自宅に入るため、
人の敷地を通る必要があります。
つまり、家を出入りするたび、
不法侵入になります。
罪深きおばあちゃんです。
不肖脇坂肇、そこそこの年数、
不動産に携わっていますが、
こんなの聞いたことありません。

で、この状況が意味するのは、
私がこの土地を仕入れても、
売れないってことです。
だって、家が建てられないんですから。
一応、私、脇坂工務店という
家を建てる会社やっているって
皆さんご存知ですかね…?

試しに、むちゃくちゃポジティブになって、
買い手となりそうな人を考えてみました。
「おー、ちょうど空き地が欲しかったんです!
通り道がない?
いやいや大丈夫。
自家用ヘリやパラシュートとかで上空から入るんで」
とか
「『家を建てられない土地、持っているんだよね〜』
という話のネタにしたいんで買います!」
という人が思い浮かんだのですが、
地球上にそういう人はたぶんいないと思います。

そんないわくつきの土地なものだから、
タダでもいいから引き取って欲しいというのが
事の真相でした。
普通の人なら、
「いやいや無理でしょ」
と鼻で笑うか、
「バカにしているの?」
と怒りそうものです。
しかし、私は
「仕方ないですねぇ、じゃあ買いましょうか」
と気づいたら答えていました。
特殊な土地に出会うと
そう口走ってしまう体質になったようです。

もちろん、
「家を建てられない土地、
持っているんだよね〜。
ウケるでしょ〜」
って言いたいからではなく。
(ここで話している時点で、そうなんですが)
永久に家が建てらない土地というわけでは
ないんですよね、ここは。
両隣には、それぞれ別の方が所有する
土地と家があります。
このどちらかが売りに出されて
私が取得できれば、先に買った
「家が建てられない土地」と合わせて、
1つの土地にできます。
つまり、道路に面する土地になるので、
法律的に家が建てられるようになる
ってことです。

なので、この土地を紹介してくれた
不動産屋さんには、
もし両隣の土地が売りに出たら、
教えてほしいと伝えてあります。

あ、そうそう。
「タダでもいいから引き取ってくれ」
という土地だったのですが、
本当にタダでもらうのもアレなんで
「1万円でどうでしょう?」
と提案し、めでたく売買成立。
ちなみに土地の広さは99.38坪。
坪単価は約100円ですね…。
小学生でもお小遣いを貯めれば買える!

「何も建ってないけど、
建物が建てられず、売れない土地」
ってものを実際に目の当たりにすると、
不思議というか、シュールな気持ちになりますね。
「家が建てられない土地」
という作品名をつけて、
現代アートにしようかと一瞬思いました。

「売れる土地」になるかどうかは、
神のみぞ知るわけです。
だって、両隣の人たち次第ですから。
はっ…!
私が売りに出されるのを待っていることが
両隣の人たちにバレたら、
「このくらいの金額じゃないと売れないなー。
ほらほらジャンプしてみろよ、
お金持っているんだろ?」
とか交渉材料にされるんじゃ…。

やっぱり、
上空から土地に降り立ちたい人とか、
ネタとして土地が欲しい人を
探すしかないのだろうか…。

2つ目の土地も銭函の話です。
ある日、ご高齢の奥さんが、
当社の銭函オフィスにいらっしゃいました。
「土地を査定してもらえませんか?」
という相談です。
条件は駅から5分ほどの場所で、
50坪ほどの広さ。

なるほど、そこだけ聞くと魅力的です。
銭函駅周辺の土地なんて、
最近とんと出てこなくなりましたから。
ただ、土地の査定って、
色々な情報を調べるんですよ。
上下水道の状態、隣の土地や建物の状況、
境界石の有無などなどです。
あ、あと今後は、
「道路に面しているか」も調べないといけませんね。
私は学びましたよ、ええ。

調査の結果、衝撃の事実が判明します。
なんと水道管が前の通りに入っていなかったのです!
…と言われても、
ピンとこない方が多いかもしれません。
基本的に水道管って、
その家の前の道路の下を通っているんです。
「家の前」ってのがポイント。
しかし、この女性の家の前の通りには水道管がない…。
でも、当然のことながら、
女性は家で水を使って生活している。
ここまで書きながら、
自分の頭がちょっとおかしくなったんじゃないか…
っていう気がしてきました。
いやいや、
おかしいのは私の頭ではなく、土地です。

じゃあ、水道は
どこから引いていたのかってことですが、
なんと裏の家の敷地内を通って、
水道管が来ていました。
アクロバティックすぎる。
こんなの聞いたことありません(2回目)。

売主さんもそのあたりのことを
ご存知なかったので説明すると、
「あ、裏の家は、私の兄の家です」
という答えが。
それ、早く言ってくださいよ!
不幸中の幸いとはまさにこのこと。
裏の家は古いアパートで、
売主さんのお兄さんがオーナーだったんです。
したがって、
「その物件を売却しませんか?
妹さんの土地と合わせれば、
ちゃんとした綺麗な土地になりますから」
とお兄さんに提案したのですが、
なぜかNG。
なぜ!
これは困った。

この土地もこのままでは売れません。
だって、
水道管がちゃんと引かれていない土地ですから。
現状の家のように、
裏から引っ張ってくる方式をとって
家を建てるのは非常にリスキー。
爆弾を抱えているようなものです。
たとえば、
何かの拍子に引っ張ってきている水道管が
お兄さんの土地の敷地内で
壊れたらどうするのか、とか。
お兄さんの土地が
他のオーナーの手に渡って、
「水道管、もうそっちまで伸ばさないんで」
と突然言われたら、とか。
もっと悪意のあるオーナーの手に渡って
「水が欲しければ、金を払え!グハハハハハハ!」
って嫌がらせされる、とか。
もうね、トラブルの予感しかしません。
こんな土地欲しい人はいないでしょう。
いるとしたら、
戦国武将に憧れて
水責めされたい人くらいでしょうか。
嬉しそうに
「ああ、水が止められている!」
と喜ぶ人、みたいな。
いや、そんな人いないし。

トラブルの可能性が1mmでもある土地は、
そのままでは、やっぱり売れないです。
とはいえ、先方も困っていたので、
買い手の私としては
悪条件の土地だったものの、
頑張って値付けして買い取りました。

賢明な読者の皆さんなら、
もうおわかりでしょう。
この土地を売るためには、
裏の兄アパートが
売りに出されるまで待つしかありません。
あ、もう一つ方法があります。
自分で水道管を引くことです。
これは数百万円くらいかかります。
そこまでして、
「この土地がいい!」
っていう人が現れるのは
現状ちょっと考えにくいかなぁ…。

「1万円の土地」も「水道管がない土地」も、
他社なら絶対手を出さない土地です。
だって、売れないですし、
トラブルの元になるのは
火を見るより明らかだから。
それにも関わらず、
地道にこうやって対応していると
「銭函の土地のことは、脇坂へ」
という評判が自然と出来上がっていくのです。
で、さらに輪をかけて
変な土地が持ち込まれてくるんですわ…。

3つ目の土地はところ変わって、
札幌市中央区の山の上。
話のはじまりは2021年のことです。
私とつながりのある不動産会社に、
ある弁護士から相談が持ち込まれました。
Aさんという高齢者の方の財産処分を
お手伝いしていて、
その一環で土地の売却を考えているのだが、
困っていると。
札幌に不動産会社なんて星の数ほどあるから、
そっちに話がいきそうなものですが、
巡り巡って、私のところにやってきました。
また引き寄せてしまったようです。

「道路に面していない」
「水道管がない」
ときたので、
もうどんな土地でも驚かない!
と思っていました。
しかし、私が甘かった。
ごめんなさい。
もう許してください。

Aさんの家は、
2つの土地にまたがって
建っていたのです。
つまり、家の一部が、
Aさん所有の土地をはみ出して、
赤の他人の隣人、Bさんの土地に建っているんです。
もう何がなんだかわかりません。

ただ、ひとつ言えるのは、
そういう家が実在しているということ。
ほっぺをつねったけど、夢じゃない。
私は戸惑いながらも、
どうすれば適切に処理できるのか、
考えていきました。
まず、解体費用。
見積もってみると
●00万円かかるという結果に。
同サイズの家なら
通常100万円くらいで済むのですが、
ここの土地がですね、
なんというか変な高低差があって、
解体重機が入りづらい場所。
だから費用がかさむんです。
この見積時点で、
Aさんはそこまでお金が出せない
ってことだったので、
私の方で土地を買い取り、
解体費用を負担することにしました。

で、次の関門は隣の土地問題。
解体したい家の一部が
Bさんの土地に建っているのをどうするか、です。
一番の解決策は、
Bさんに土地を譲ってもらうこと。
そもそも、人の家が建っているくらいだから、
その土地が必要ってわけでもないでしょうし。

そこで、Aさんの弁護士が、
Bさんに向けて手紙を書いてくれました。
Aさんの事情を踏まえて、
Bさん所有の土地を取得したいということ、
さらには、その手続きを
脇坂工務店が担当する旨を伝えてくれました。
しかし、
Bさんからは音沙汰が一切ありません。

私の名前がアダになったのか…
と思いきや、
一年近く時が過ぎたある日のこと。
一通の手紙が届きました。
差出人はBさんです。
土地を売りたいという内容でした。
じっくりと考えていらっしゃったようです。
早速連絡をとって、話を進めることに。
ただ、兎にも角にも、
「なぜ、2人の所有者の土地にまたがって
一軒の家が建っているのか?」
という謎が気になって仕方ない私。
まずその疑問をBさんにぶつけてみたところ、
「いやぁ、わからないんですよねぇ…」
という衝撃的な答え。
現時点で未だ真相は藪の中です。
探偵ナイトス●ープとかに応募するべきでしょうか。

わからないものは仕方ありません。
とにかく土地の処理を進めます。
話し合いの結果、
Bさんの土地は私が仲介することに。
Aさんの土地は私が買い取る形だったので、
見た目は1つの土地なのに、
取引上は、契約書を二通作ることになります。
売買契約書と仲介契約書の2通です。
こんなの聞いたことありません(3回目)。

準備が整い次第、
この土地は販売を開始しようと思っています。
もの好きな方は脇坂工務店のWEBサイトを
チェックしてみてください。
なかなかの土地ですから…。

てな具合に、
奇妙キテレツな土地と対峙する日々を
おくって参りました。
すると、ある日、
保険会社の営業の人から連絡があったのです。
なんでも、お客さんの一人が
銭函の土地を相続されたのだけど、
処分に困っていると。
それも今や激レアになりつつある
銭函海岸沿いの土地!
海が見える土地!!!

いや、待て待て。
落ち着け、脇坂肇。
どうせ、
「満潮時には島になって、
干潮時にしか辿り着けない土地」
とかでしょう…。

しかし、詳細情報をもらうと、
本当にちゃんとした銭函の海岸線沿いの土地でした。
なんと、道路に面しているし、
水道管は通っているし、
2つの土地にまたがった家が建ってない!
すごい!
(どうも判断基準が狂ってきたようです)

あぁ、きっと神様は見ていたんですね…。
「脇坂肇よ…、よくぞ試練に満ちた
土地の売買を手がけてくれた。
褒美にこんな土地と巡り合わせてやろう…」
みたいなお言葉が聴こえた気がします。
私はありがたく買取させていただきました。
ははー。

ちなみ、この土地をどうするのか、
気になりますよね?
一般公開前に先駆けて、
とあるお客さまにまずはご案内するつもりです。
ある事業をやっている方でして、
銭函の海岸沿いに事務所兼住居を建てたいと、
2年ほど前から足繁く当社に通ってくれていました。
やっぱり、それだけの熱意を持って
アプローチしてくれる人にこそ、
銭函に住んでもらいたいじゃないですか。

たまにいるんですよ、
ぺろっとメールを送ってきて
自己紹介とかもなく、
いきなり
「ちーっす!
ネットに出してない、
激ヤバな土地情報ないっすか〜」
と聞いてくる人がいるんですよねぇ…。
(文面はイメージです)

ま、それはさておき。
色んな巡り合わせがあるので、
舞い込んだ土地の相談は、
自社の手持ち資金でやれる範囲で、
なんとかしようとは思っています。
どう考えても、その土地は
誰も買わないでしょ、
みたいな案件だとしても、
困っている人とか、
ご高齢の人とかが相手だと、
つい「仕方ないな…」と思って、
お手伝いしてしまうんですよねぇ。
特に銭函界隈の土地に関しては、
なんとかするのが、
ここで商売をしている人間として
もはや使命・宿命だと思っています。

ただ、私も商売人のはしくれ。
人情にほだされて、
100%ボランティアでやっているわけでは
決してありません。
あくまで、将来ビジネスになるだろうという
算段があれば買うのです。
ただ問題は、いつ売れる状態になって、
いつ利益が出るのかがわからないってことですね。
ここらへんは、
他社と違うスタンスかもしれません。

おっと、また電話ですね。
ちょっと失礼。
あー、● ● ●不動産の山田さん、どうもどうも。
え、私にぜひ見てもらいたい土地がある?
ここを買えるのは脇坂しかいないって?
なになに、
道路まで100mくらい離れていて、
電気が通っていなくて、
3人の所有者がいるから、
とうてい家は建てられなそうな土地…?
わかりました、わかりました。
買います、買います…(白目)。

脇坂肇