「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2022年12月23日 更新

#44

伊勢デビュー。

脇坂肇

「いい大人」。
その定義には色々あると思いますが、
ひとつ私が言える確かなことは、
服装を注意されないことが
いい大人の条件。
TPOってやつをわきまえて、
節度を持った服を身にまとう人。
その意味で、
私はいい大人ではありませんでした。
学生時代に先生から
「お〜い、脇坂!
お前のズボン、ちょっと太すぎないか?」
と指導されることもなかった私なのに。
まさか服装を注意されるなんて…!
しかも、あろうことか
神様の前で、それは起きたのです。

そうだ伊勢神宮、行こう。
2013年、
どこかで聞いたことのあるようなフレーズを、
私はつぶやいていました。
おりしも式年遷宮の年です。
式年遷宮とは、すごく簡単に言うと
「20年ごとに新殿を建てて、
そちらに神様に移っていただく神宮最大のお祭り」
のことです。
私、もともと神社が好きだったにも関わらず、
まだ伊勢神宮には
足を運んだことがありませんでした。
ちょうど50歳が終わって、ひとつの節目。
訪問するには絶好のタイミング。
そこで、妻と伊勢神宮への旅行を計画したのです。
2013年秋のことでした。

出発の1週間前になって、
伊勢神宮から郵便物が届きました。
開けてみると、そこに入っていたのは1枚のカード。
「特別参宮章」と書かれています。
はて、なんでこんなものが届いたのか…?
と、しばし記憶をさかのぼって、
ようやく思い出しました。
2010年頃に取引先の方に付き合う形で、
伊勢神宮へ寄付したんだった!
その御礼ということで、
式年遷宮のタイミングに送られてきたようです。
「特別参宮」ってことは、
持っていれば正式参拝、
つまり一般の人が立ち入れない奥の方まで行って、
お参りできるということのようです。

カード裏面には、
細々と何か書いてありましたが、
特に読むこともなく、
とりあえず荷物にしまいました。
が、それが大きな過ちだったのです。
ええ、落とし穴に落ちる、いつものパターンです。

初めて訪れることもあって、
普段よりテンションが3割増し。
完全に観光気分で私は妻と伊勢に乗り込みました。
伊勢のお参りには、
一般的に推奨コースみたいなものが設定されています。
まず二見興玉神社に行ってお浄めをしてもらい、
そこから外宮、内宮の順番にめぐるというコース。
距離もあるし、初めての土地ということで、
私たちはタクシーで巡ることにしました。

このあとにも登場しますが、
伊勢のタクシー運転手さんって、
不思議といい人ばかりなんです。
出会う人出会う人、みんな親切。
観光地だから、と言えばそれまでなんですけどね。
この時は、たまたま道で拾った
タクシー運転手さんにすっかりお世話になりました。
乗り込んだ時の第一印象から良くて、
「札幌から初めての参拝でやってきたんですよ」
なんて話も弾みます。

その流れで何気なく、
「なんか、伊勢神宮からカードが届いたんですよ」
なんて話をふってみたところ、
「あんた、お伊勢さんに招かれたんだねぇ。
すごいね〜。
伊勢神宮に来たくても来れない人だっているし。
ラッキーだよ〜」
なんて言葉をかけてもらって、
「やはり神様に選ばれし男なのか…!」
と、ほくほくしていた私。
既に天にも昇る気持ちです。
しかし、
運転手さんの次なる問いかけが、
私を地獄に突き落としました。

「ところで、ネクタイは?」
「ん?」
「や、ネクタイだよ」
「え?」

当日の私は、
カジュアルなジャケットに
カジュアルなシャツという出で立ち。
ふつうの旅行だと思っていますから、
旅行らしく肩の力が抜けたリラックススタイルです。

運転手さんはバックミラー越しに、
後部座席の私をチラっと見て、
「や、正式参拝するんでしょ?
だったら、白いネクタイくらいはしていないと…」。
なんでも、
御垣内参拝(みかきうちさんぱい)といって、
普通の参拝客が入れないエリアに
足を踏み入れる正式参拝であれば、
スーツにネクタイ、革靴を履いて、
正装するのが常識だと運転手さんは言っています。
「またまた〜!
伊勢神宮デビューするウブな男を
からかっているんでしょ!」
と思いながら、
特別参宮章の裏面を見てみると、
「男性は背広・ネクタイ、
女子はスーツ等のフォーマルな服装でご参入下さい。」
という文字。
しっかり書いてあるぅぅぅぅぅ〜!

100

マジか…。
白いネクタイがないかわりに、
顔が真っ白、顔面蒼白な私。
しかし、運転手さんは力強く
「大丈夫、100円ショップいこう!」
とルートを急遽変更。
ダ●ソーへ車を走らせます。
運転手さんに導かれるまま、
私たち夫婦は店内へ。
いやいや、
こんなところに白ネクタイないでしょ…
と思ったら、ある!
白ネクタイまで売ってるんですねぇ。
私のような愚かな参拝客がいることを、
伊勢のダ●ソーは、
マーケットリサーチ済ということでしょうか。
恐るべし。

数十分後、
カジュアルなジャケットに、
カジュアルなシャツを着て、
白ネクタイを首から下げている男が、
外宮にたたずんでいました。
そうです、脇坂肇です。

タクシー運転手さんのおかげで
なんとか形になった私。
例の読んでいなかった参宮章を受付で見せて、
無事に外宮の奥へと入ることができました。
一般の人が参拝している隣に
神職の人が待機する場所がありまして、
そこでまずお祓いをしてもらう流れです。
そこから、両脇に白い玉砂利が
敷き詰められている道を歩き、
外宮の正面まで進み、お参りをします。
なんとも言えない厳かな雰囲気は、
今まで感じたことのないもの。
本当に特別な空間でした。

つつがなく参拝が終わった後、
神職さんから
「遠路はるばる、よくぞお越しいただきました…」
と挨拶を受けたのですが、
彼は、私の頭の先から爪先まで
じーっと眺めております。
そして冷静な声で
「次回はダークスーツでお越しくださいませ…」
と一言。

もう、汗が全身から流れ出ましたよね。
他の参拝客から
「あら、伊勢神宮には滝もあるのね。
あの人きっと滝行したんだわ」
と勘違いされそうなくらい、滝のような汗。
脳裏には一瞬
「どこまでカジュアルな服装で、
伊勢神宮の中にいれてもらえるか、
を試したんですよ〜!
やっぱり、ギリギリアウトかぁ〜!」
という切り返しが思い浮かんだのですが、
「参拝以前に、
その性根、叩き直す必要がありますね…」
と本当に山奥の滝に
連れて行かれそうな雰囲気だったので、
黙っていました。

カジュアルコーディネートに、
白ネクタイを首から下げているため、
ダークスーツじゃないことが、
なおさら目立つわけです。
「これからM-1グランプリとか出演されます?」
って聞かれそうな
ベテラン若手芸人みたいになっていました。
よくよく思い返せば、
「今日、総理が伊勢神宮を参拝され…」
みたいなニュースの映像を見ていると、
政治家の皆さん、すごい正装していますよね。
国のトップでさえ、正装するような場所に
カジュアルな感じで入っていた私…。

このデビュー以来、2022年12月までの間に、
計6回伊勢神宮を参拝しています。
もちろん、2回目以降は、
普段仕事でもめったに着ないような
フォーマルなスーツを持参しております。
後日聞くところによると、
式年遷宮の時は20年に一度のお祭りということで、
特例で少しドレスコードがゆるかったらしいです。
でも、今はちゃんとした格好していないと、
正式参拝できないとか。
たぶん、2013年の私の格好を見て、
伊勢神宮の皆さんが
「やっぱりダメだな。ルールを厳しくしよう」
と思ったのではないだろうか…。

ここで話をちょっと戻すと、
伊勢のタクシー運転手さんのこと。
2019年の訪問時にお世話になった
運転手さんも印象的でした。
この時は一人で伊勢を訪れたのですが、
内宮あたりでひろったタクシーの運転手さんから、
「あんた、すごいオーラ出ているね」
と声をかけられたのです。

「なんの仕事やってるの?」
「えーっと、建築と不動産をやってます」
「名前は?」
「え?」
「占ってあげるよ」
「え…?」

聞けば、この運転手さん、元歯医者だったとか。
昔とったキネヅカで、数字が得意らしく、
名前の字画をすぐに暗算して、占ってくれるんです。

脇坂肇の字画から彼が導き出した占いの結果は、
「あんた、アレだね、
不動産で大金持ちになるな!」
え、ホントに?
前澤●作氏とかホリ●モン氏とかのように
なるのでしょうか…。
なんだかよくわからないけれど、
とにかく褒められた気がして気分の良い私。
タクシーから降りる時には、
運転手に向かって最敬礼です。
ただ、冷静になって考えてみると、
観光地のタクシーだから、
リップサービスのひとつだったのかもしれませんし、
そもそも本当に歯医者だったのかも
真偽不明なのですが、
ともかく伊勢のタクシーの中では、
毎回楽しい時間を過ごせています。
これも旅の醍醐味ですよね。

100

ちょうどコロナが落ち着いてきた2021年。
還暦を迎える前に、
再びお伊勢さんへ行こうと思い立ちました。
善は急げということで、
札幌から函館、東京、神奈川、名古屋、伊勢と
順にめぐっていく旅程を早速組みました。
各地に住む友人たちと飲もうという魂胆です。
こんなアーティストの全国ツアーのような
旅程になるのはなぜか。
それは、そうです、飛行機ではなく、
電車で伊勢まで向かうからです。
毎回です。
もちろん飛行機が怖いからではありません。
商売人たるもの、
地に足をつけて生きていたいから、
飛行機には乗らないポリシーなんです…!
断じて、飛行機が怖いからではありません。
え、最後に乗ったのはいつかって?
20年くらい前ですね…。
すごい最近だなー!
昨日のことのように思い出すなー!
目下の悩みは、
地に足をつけて生きているので、
リニアモーターカーには乗れないかもしれない
ということです。
数センチ浮かんでますから、あれ。

そんなことはともかく、
各地で友人たちと久々の再会を楽しみました。
神奈川では、とあるスポーツの先生
(その業界では超有名な方)と飲んだのですが、
この後、私が伊勢に行くことを伝えたら
「じゃあ、
伊勢にいる知り合いの先生を紹介しましょう。
世話になるといいですよ」
とわざわざ連絡をとってくれたのです。

神奈川で先生に別れを告げ、一路名古屋へ。
名古屋駅のホテルに泊まって、
翌朝、伊勢へ向かいます。
そういえば、その日は
ちょうどレギュラー出演しているラジオの日。
伊勢神宮の最寄り駅である宇治山田駅から、
電話出演を果たしたのも良い思い出です。
駅前の喫煙所の横から、
スマホ片手に、いつものラジオの調子で
身振り手振り話をしていたので、
はたから見ると完全に不審者だったと思います。

で、そうこうしているうちに、
神奈川の先生がつないでくださった
伊勢の先生とご対面。
贅沢なことに、
丸1日割いて案内してもらいました。
「まずは外宮に行きましょうか」
と先生から提案が。
外宮でお祀りされているのは豊受大御神です。
内宮の天照大御神のお食事を司る御饌都神で、
衣食住、産業の守り神なんですって。
商売人の私にはぴったりの参拝。
さらには、その先生のすすめで
祈祷もしてもらいました。
伊勢神宮で祈祷もしてもらえるなんて、
なんかちょっと意外です。
いい経験をさせてもらいました。

そのあとは、式年遷宮について学べる施設
「せんぐう館」へ行ったり、
内宮に行って、伊勢神宮にまつわる
色々なしきたりの話を聞いたり。
はたまた、お菓子で有名なあの赤福本店の2階の
特別な茶室で休憩したり、と大満喫。

先生からは、式年遷宮の素晴らしさや、
その準備のために木を切り出したりする話なんかを、
あれこれ伺いました。
歴史の浅い札幌に住んでいる
私からすると目新しく、興味深いことばかり。
次回の式年遷宮の時には、
私もぜひ関われたらなぁと思った次第です。

そして、伊勢旅行の目的のひとつと言っていいのが、
お守りです。
伊勢神宮へ足を運んだら、
お守りを大量に買って帰ってくるんです。
この2021年の訪問の際には100個購入。
案内してくださった先生は、
「え、そんなに買うの?」
と驚いていたのですが、
売店の巫女さんに聞くと、
やはりこういう人、けっこういるんですって。
もちろん、
「100個買ったら100倍のご利益がある!」
と信じているわけではありません。
社員や、取引先、友人たちに配るためのものです。
伊勢神宮のお守りなんて、
なかなか手にできないから、みんな喜んでくれますね。
商売をやっている人には御札も買ってきて、
プレゼントしたりもしています。
これも喜ばれます。

直近でいうと、
2022年12月上旬にも伊勢神宮を参拝しました。
今回購入してきたお守りの数は120個。
参拝の旅を終えて札幌に戻ってきて以来、
常にいくつか持ち歩いています。
あめちゃんを持ち歩く大阪のおばちゃんのごとく、
カバンに忍ばせています。
知り合いの方には差し上げていますので、
声かけてください。
合言葉は「白いネクタイ」です。
もしくは私の胸元を指差して、
「あれ、ネクタイは?」
でもいいです。
思わず滝のような汗を流すかもしれませんが。

さすがに初対面の人には、
ちょっとあげられないなー。
え、脇坂工務店で家を建てることを検討している…?
1,000個くらい余裕で差し上げます。
伊勢行って、追加で買ってきます。
え、あわせて土地も買いたい?
2,000個ご用意しましょう。
(あ、冗談ですよ…)

年末のタイミングに、
お世話になっている人に
伊勢神宮のお守りを渡して、
お互い気持ちよく新年を迎える。
なんだか、いいやり取り、いい習慣だと思っています。
「お互い頑張ろうよ!」
みたいな気持ちになれるというか。
私が伊勢に行って得てきたご利益を
分かち合う気分に近いのかもしれません。
大工という、
体をはった危険な仕事をしてもらっている
当社の従業員に対しては、
安全を願って、という気持ちももちろんあります。

伊勢は、私にとって特別な場所になりました。
日本人なら誰もが耳にしたことがある
場所だとは思うのですが、
意外と行ったことがない人も多いはず。
ぜひ一度足を運ばれることをおすすめします。
私からひとつ言えるのは、
正式参拝をされる際には、
格好に気をつけろ!ってことですね。
「お前が言うな!」
って声が聞こえてくるのは、
空耳でしょうか。

そうだ、伊勢にいく人たちのために、
当社のロゴをいれた
オリジナルの白いネクタイでも作るか…。
ダ●ソーさん、コラボしませんか。

脇坂肇