「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2025年2月22日 更新

#70

オールドじゃない。

脇坂肇

私、脇坂肇、現在62歳でございます。
同世代の従業員たちが引退するのを見届けるまで、
会社を切り盛りしようと考えると、
70歳が一線を退く目安でしょうか。
となると残すはあと8年。
ぜんぜん時間がない!
この調子だと
光の速さで引退のXデイがやってきます。
引退がピンとこないくらい、
まだまだ自身のことを古びれていない
と思っていたのですが、
最近「オールド」という言葉に
やたら敏感になっておりまして…。

最近聞き慣れない言葉、
言い慣れない言葉が増えました。
オワコン、コンプライアンス、
カオス、コミット、プライオリティー…
…あと、なんだっけ…?
わからない言葉だから、
もはや記憶すらできないようです。
とにかくたくさんの横文字や新語があふれています。

意味がよくわからないからスルーしがちなのですが、
どうしてもひっかかった言葉が、ひとつあります。
それは、「オールドメディア」。
「メディア」はわかります。
ただ、「オールドメディア」って言われると
いまいちピンときません。
や、言わんとしていることはわかるんですよ。
「古い媒体」ってことですから。
テレビ、新聞、ラジオ、雑誌など、
昔からあるメディアを指しているんですよね。

にしても、かつては4マスなんて呼ばれて、
時代の先端にいたのに、今やオールド扱い。
そこに私は疑問が残るのです。
果たして本当なのかと。
本当に古いのかと。

確かにSNSのような
「ニューメディア」の影響力は高まる一方です。
最近だと選挙結果にも大きな影響を及ぼしている、
なんてニュースが飛び交っていました。

かたや、最近何かと槍玉に上がることが多い、
オールドメディアの筆頭格テレビ。
私自身も家に帰ってもテレビは点けず、
YouTubeやNetflixばかり見ています。
最近、テレビで流行っている
昭和と令和の世代間ギャップを比べる番組を見ても、
自分のことを笑われている気分になりますし…。

ただ、ネットやサブスクで面白い!
と思うドラマや映画などを制作しているのは、
だいたいテレビ局だったりするんですよねぇ。
やはり企画制作力には一日の長があるなと。
テレビには底力を感じます。

また、当社にとって新聞という
オールドメディアは超重要だったりします。
というのも、不動産を扱っている当社は、
「土地や建物の査定をします!」
という広告を新聞にずっと出しているんです。
もう10年近くですね。
なぜ新聞かというと、
自宅などの不動産を手放す可能性が高い人たちと、
新聞の読者層がかぶるから。
実際、広告出稿によって効果を感じています。
「新聞見たんですけど」
といって査定依頼が次々と来ますから。

ターゲットに合わせた
メディア選定って大事だなぁと、
新聞広告の反応を見ているとつくづく思います。
TikTokで私が踊りながら
「不動産査定します!」
とやっても、たぶん反応はゼロでしょう。
いや、若者から
「この社長の動き、ヤバい…」
みたいな別の反応はあるかもしれません。

当社に欠かせないオールドメディアといえば
もちろんラジオです。
当社の番組は、
2025年4月で13年目に突入します。
「13年」って、人に例えると、
小学校に入学した子どもが、
大学に入学するくらいの歳月ってこと。
そう考えると、
ずいぶん長いことやっていますねぇ。
実際、AIR-G’においても
1、2を争う長寿番組になったそうです。
まだまだ続けたいとは思っています。
放送事故が起こることを危惧されて、
「もうお願いだからやめませんか…?」
と言われるまでは。

ラジオもまた、効果を実感しているから、
続けているわけです。
ラジオで何かしら告知をすると、
当社のWEBサイトへのアクセス数が
やはりダントツに跳ね上がりますから。

さらに最近は新しい試みとして、
東名阪でのCM出稿に踏み切りました。
当社の規模からしたら、
もう清水の舞台から飛び降りる覚悟でしたよ…。

現場監督のリクルーティングを目的として、
2024年12月から東名阪のラジオ局で
毎週土日1本ずつ20秒CMを流しています。
詳しくは、こちら#67をどうぞ。

通常30日間のアクセス数って
8,000ほどなんですが、
東名阪でCMを流し始めてからは、
10,000を超えて推移しています。
なかなかの上昇率です。

さらに驚いたのはパブの効果。
あ、パブってパブリシティの略です。
「ここで脇坂工務店からのお知らせです。
現在、脇坂工務店では社長が…」
みたいなやつですね。
ラジオリスナーであれば聴き覚えがあるでしょう。
まあ、60秒のアピールタイムみたいなものです。
例えるなら懐かしの熱湯コマーシャルです。
ちがうか。
(蛇足ですが、あれも、
まさに世代ギャップのネタですよね。
今なら完全にアウトだよなぁ…)

で、当社のパブを各局のアナウンサーが
番組内で読んでくれたんです。
すると、その直後に
当社WEBサイトへのアクセスが跳ね上がりました。

よくよく考えてみれば、
いつものラジオの放送は
北海道の人たち500万人が対象なわけで。
(もちろんradikoで聴いてる道外リスナーもいますが)
かたや、関東圏は3,000万人、
関西圏は四国も含めて数千万人が、
リスナーとなる可能性があります。
母数が違うから、反応が大きくなるのは当然ですね。

ノリでやっていると見られがちな私ですが、
アクセス解析などで検証をしているので、
メディア効果の実態を、
把握しているほうではないでしょうか。
そんな実体験があるので、
「ラジオや新聞は、オールドメディアでオワコン」
なんて意見には真っ向から異を唱えたい。
ラジオや新聞がオワコン、
尾張のコンニャクなわけ、ないじゃないですか!

……。

あれ、ひょっとしてオヤジギャグも、
オワコンのひとつですか…?
こういうことを放送中にやると、
スタジオの空気が凍りついて無音となり、
私のラジオ降板が決まりそうです。

とにかく、たとえ古いものでも、
いいものはいい!というのが私のスタンス。
世間一般で言われる
「オールドメディア」の味方なんです。

じゃあ、何が「いいもの」なのか?
それを象徴するお話をしましょうか。

「北海道洞爺湖サミット」を覚えているでしょうか?
2008年7月7日から3日間にわたって
北海道の洞爺湖畔で開催された先進国首脳会議です。

では突然ですが、ここでクイズです。
当時、サミットに日本の首相として出席した
人は誰でしょうか…?

答えは福田さんです。
「小泉さん」とか答えてないですよね?
と言いつつ、私もネットで調べて知りました。
福田さん、申し訳ございません。

というくらいに、記憶も怪しくなってきた
北海道洞爺湖サミットの昔話をするのは、
ある写真家にまつわる
エピソードを伝えたいからなんです。

写真家の名は佐藤雅英さん。
私は敬意を払って「佐藤先生」と呼んでいます。
北海道の写真界における重鎮です。
数々の素晴らしい作品を
世の中に送り出してきました。
写真を目にしたら、
きっと「あ、見たことある!」となるはず。

世界のトップが集まるということは、
世界中の視線が北海道に注がれるわけです。
「北海道が世界にアピールする絶好機だ」
と考えた佐藤先生。
写真家の有志から
北海道の魅了を切り取った写真を集めて、
一冊の写真集を制作しました。
サミットがきっかけで、北海道を訪れる人たち、
政財界の人やマスコミなどに渡すことで、
北海道の魅力を広めようと考えたんですね。

確か1万冊ほど印刷したと記憶しています。
そのうちの2,000冊が北海道庁に寄贈されました。
髙橋はるみさんが知事の時代です。
モエレ沼公園のガラスのピラミッドで
パーティと写真展が開催され、
写真集の授与式が執り行われたのです。

なぜ私がそんな詳細まで知っているのかというと、
その1万冊のうち、100冊を
私が引き取って売り歩いたからです。
佐藤先生の心意気に惚れて、
男、脇坂肇、ひと肌脱ぐことにしたんです。
あ、ヌード撮影はしてません。
比喩です。

2008年といえば、
SNSが今ほど盛んじゃなかった時代。
そんな時に、
わざわざ膨大なエネルギーを注ぎ込んで、
(恐らく私財も投入して)
地元、北海道をアピールしようなんて、
カッコいいじゃないですか。

シビれた私は、少しでも力になれればと思って、
100冊を買い上げて各所で売り歩きました。
商人のはしくれとして、それくらいは朝飯前です。
取引先とかに、
「えーと、御社は10冊か20冊かどっち?
あ、ごめんごめん、もちろん30冊だよね…?」
みたいな押し売りはしておりません。
いいと思った写真集だったので、
営業トークにも熱がこもり、
無理なく売れていったのです。
(異論反論ある購入者の方、あとで話しましょう)

昨今の北海道人気、
特にインバウンドからの人気って、
佐藤先生のような先人たちの
こういった地道な功績があったから、
今花開いているんじゃないかって思うんです。
何の証明もできないんですけどね。
でも、北海道のことを思いながら、
あれだけの行動を起こしたことが
何かしら大きなものにつながっている
って信じたいです。

その写真集のために
佐藤先生が自身でセレクトした写真のなかに、
洞爺湖、羊蹄山、昭和新山が
一枚の中に映り込んでいる写真がありました。
自然の造形物が圧倒的な存在感を放つ
スケールの大きな作品で、私大好きなんです。

今回、本社を移転するにあたって、
その佐藤先生の写真を
応接室に飾ることにしました。
縦900mm・横1600mmのサイズに
うんと引き伸ばして、
応接室の壁にかけたのです。

今なら、空から撮影しようと思ったら、
4Kカメラがついたドローンで簡単です。
でも、当時はドローンなんてありません。
チャーターしたセスナに
大判のフィルムカメラを持ち込み、
カメラマンが上空でファインダーを覗き、
撮影に臨むスタイル。
ただ、大きなレンズを使用しての空撮なんて、
私の知る限り、北海道では佐藤先生か、
空撮の大家だった清水武男さんくらいです。

しかも、当然フィルムカメラって、
現像してみないと出来栄えがわからない。
フィルムの数にも限りがあるし、お金もかかる。
パシャパシャ撮れない。
そこが良いところであるし、
難しいところでもあります。

ドローンを用いた空撮の映像だって、
目を見張るくらい綺麗なものはあります。
でも、レンズサイズが
一眼レフのカメラと比べると雲泥の差。
フィルムで撮った写真のほうが、
絵の奥行きのようなものは、
格段にあると感じますね。
深みというか、空気感が違うんです。

そんな細かいことまで、
なぜ私が気になるのかというと、
何を隠そう、高校時代に写真部に
在籍しておりまして…。
世界のアラーキーならぬ、
埼玉のワッキーだったのです(自称)。
多少は写真を見る目があると思っています。

写真を飾った応接室には
オンラインミーティングが行える、
デジタルホワイトボードっていう
最新システムを導入しています。
巨大なスクリーンに
打ち合わせ相手を映しつつ、
さらには図面を投影しながら
画面共有できたりするスグレモノ。
このボードのカメラに収まる位置に
写真を飾っているのです。
つまり、オンラインミーティングをすると、
背景にちょうど
佐藤先生の写真がくるようにしたわけです。

私たちに仕事を依頼してくださる多くは、
海外や道外の方。
背景にTHE北海道な美しい風景が見えると、
ちょっとテンションがあがると言いますか、
北海道の工務店に頼んでいる感じが出て、
いいんじゃないかな〜と思ったんです。
皆さん、北海道が好きで
建物を建てようとしていますからね。
これでお客さまのハートを鷲掴みです…!

昨今、古いものを
小馬鹿にする風潮を感じますが、
古くてもいいものはいいし、
新しいものだって、いいものはいい。
オンライン会議もそうですよね。
そりゃ、面と向かって話せればいいですけど、
物理的に難しい場合は、
こういうテクノロジーを存分に活用すればいいよね
っていうタイプです、私。

一瞬に賭けて、セスナをわざわざ飛ばし、
フィルムカメラで撮影した昔の写真を、
最新のオンライン会議に活かす。
このあたりのバランスが、
脇坂工務店らしいと思っていますよ。

ここまで、オールドとニューの話をしてきましたが、
それこそ私なんてオールドヒューマンです。
でも、知っていますか。
本当にいいものって、月日を重ねることで
魅力が増し、価値が高まるものなんです。
そう、ウイスキーやワインのように…。
ヴィンテージってことですね。
こちとら62年もののヴィンテージです。

ただ、ヴィンテージだからといって私のことを
「おじいちゃん」と呼んでいいのは、
二人の孫だけですよ。
「おじいちゃん」と呼ぶ人がいたら、
たとえ3歳の子どもでも
「おじいちゃんじゃなくて、お兄さんだよね?」
と真顔で問い詰める所存です。

脇坂肇