「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2024年10月25日 更新

#66

COMPANY HOUSING

脇坂肇

働いてくれる人の力を引き出すために、
社員の「住む」ことを整えるのは、
会社の使命だと思っています。
ましてや、
私たちは家を建てている会社ですから、
当然のこと。

今、自社の社宅を建てています。
業界的には、
ちょっと常軌を逸しているようなのですが、
もっと常軌を逸したことになりそうだったのが、
その名前。
危うく「社宅」という名の
社宅になりそうだったのです…。

現在、倶知安町に2棟のアパートを建てる
プロジェクトが進行中です。
#55で詳しく語っているのですが、
1棟は融資の“返済用”で、
もう1棟は社員の宿舎として使うというもの。
11月初旬完成予定で着々と進行中です。

基礎工事が終わり、
大工さんが骨組み工事をスタートさせた
2024年6月中旬、
入居者募集を早速始めました。
入居開始は11月中旬。
全14戸のうち、当社社員が使う7戸を除いた、
残り7戸の募集です。

「そのくらいの数なら、
建物が完成する11月には決まるかなぁ」
と思っていたのですが、
募集開始2週間も経たないうちに
満室となったのです。
まだ大工さんが骨組みを組んでいて、
間取りや内装も
一切見ることができない状態で、ですよ。
借りた皆さん、見なくても大丈夫ですか…?
全室に私の肖像画が飾っていたら、
どうするんだろう?
と思ったりします。
あ、もうキャンセルはムリです、ムリ。

ほとんどが法人のお申し込み。
倶知安ニセコで何らかの仕事をしている会社の
法人契約です。
やはり当社と同じく、社員の宿舎がないと
仕事が成り立たない状況なのでしょう。
それにしても、この申し込みスピードは異常。
賃貸物件の需要と供給のバランスが
釣り合っていないんでしょうね。
全然空室がないようです。

この状況を融資してくれた金融機関に報告すると、
「え?」と驚きつつ、一安心の様子。
彼らとしては、
賃貸の入居が決まる=家賃が入ってくる、
すなわち返済財源が確保されるわけですから。

今回建設にあたって自己資金を投入しているので、
14戸のうち半分が埋まって家賃が入ってくれば、
融資ぶんは返済できるスキームになっています。
スキーム。
知っていると、つい言ってみたくなる言葉ですが、
まあ、計画ってことですね。

クリティカルなストラテジーをプランニングして、
そこにコミットするべくプランニングしたスキーム。
私も何を書いているか、よくわかりません。

ところで、
「田舎のほうが建物を建てやすそう」
そんなイメージってありませんか?
実は、融資という観点では、
田舎って難易度が高いんですよ。
というのも、地価が高い都会と比べて、
田舎の土地は担保の評価が低くなりがち。
すると、「担保割れ」を起こすため、
金融機関からすると融資がしづらいんですよね。
よほど信用がある、
地元の名士や資産家とかじゃないと難しいんです。

残念ながら、
名士でも資産家でもない脇坂肇はどうしたか?
「私は名士です」と名士(自称)になったのか?
資産家をイメージして、
金のセカンドバッグを持ち歩くようにしたのか?
否。
私がとった作戦は、
「これまで宿泊費として、こんなに払っていて、
もう大変でしたよ!アピール大作戦」
でした。

当社が、倶知安ニセコの仕事を
本格的に手掛けて始めてから、9年が経ちました。
その間、どれだけ社員の現地宿泊費として
支出があったのかを一覧にまとめたんです。
いやー、もう作業が大変でしたよ。
うちの事務スタッフさんが。
あ、私はそういうのできないんです(キッパリ)。

その事実をもとに、
「自社で宿舎をつくると、
こんなにメリットがあるんです!」
というプレゼンを金融機関に行いました。
従業員たちに自社の宿舎に泊まってもらえれば、
これまでかかっていた宿泊費がこんなに浮く!
っていう趣旨のプレゼンですね。

結果、見事融資を受けることに成功。
アパート建設に至ったわけです。
名士や資産家でなくとも、なんとかなるもんですねぇ。
これがダメだったら、
「名士(自称)のフリして、なんとかしよう大作戦」
が発動されるところだったんで、良かったです。

さて、そのアパートの名前ですが、
今回は住んでもらう予定の社員たちに
考えてもらうことにしました。
いわゆる社内公募です。
普段はコピーライターさんに頼んだりするのですが、
使う当人たちに考えてもらったほうが、
みんなの気持ちが入って、
愛着がわく場所になるのでは、と考えてのこと。

締め切りを2024年8月末に設定。
倶知安ニセコで活躍する社員たちに、
各自案を考えてもらい、
プレゼンしてもらったのです。
結論としては、
「マチネA棟/B棟」
という名称に決定しました。
これはニセコのシンボルである羊蹄山を
アイヌ語で「マチネシリ」と呼ぶことから
着想したとのこと。
また、「街に根をおろす」という意味も
込められています。
考えたのはK君です。
意図も含めて、素晴らしいじゃないですか。
ただ、この案を目にした時、
「コマネチに似てる!」
と私が思ったのは、ここだけの話。
世代だから許してください。

ちなみ、この公募、
「採用者には金一封プレゼント!」
と伝えたためか、
倶知安ニセコに関わる社員6名全員が
応募してきたんです。
40代50代の社員は紙にちゃんと案を書いて、
その意図も添えて提案してくれました。
普段の仕事が忙しいでしょうし、
慣れない作業だったかと思います。
そうやって提出してくれたこと、
社長としては嬉しかったですねぇ。

それに引き換え…
60代のベテラン社員2名は、
まさかの「口プレ」。
あ、紙などの資料なしで、
口頭だけでプレゼンテーションするってことです。
しかも内容は、
「脇坂荘でいいんじゃないですか」
「コーポ脇坂がわかりやすいでしょ」
といった調子。
あまりのストレートぷりに、
昭和感が強すぎて、逆に新しい…?
と思いそうになりましたが、
まあ、新しくはないですね…。

60代のベテランたち、
40代50代社員と比べて圧倒的にラクしながらも、
参加賞であるお米5kgと梅干しだけは、
しっかりもらっていきました。
ベテランの成せる技だな…と変に感心しつつも、
ベテラン二人のお米は87粒くらい減らして、
梅干しはタネだけにしようかなと
本気で思いましたよね。

実は、社員の宿舎である2棟のアパートとは別に、
もう1棟のプロジェクトも動いています。
大工さん用の宿舎を建てる計画なんです。
場所は、2023年に開設した倶知安オフィスの隣。
6戸のワンルームが2025年3月に完成予定です。

なぜ建てることにしたのか?
きっかけは、
「市場調査」と私が呼んでいる、
毎月定例の現地訪問でした。
倶知安ニセコで頑張る大工さんたちを
居酒屋で労いながら、話に耳を傾けると、
宿舎への不満が溜まっていることに
気づいたんです。

大工さんが泊まるような宿は、
つくりがあまりよろしくなく、
物音や食べ物のニオイとかに
気をつけなければならない環境。
また、食事が毎回変わり映えしないことにも、
辟易している様子でした。
うーん、それでは、
しっかり体を休められないでしょう。
建築に関わる職種の中で、
現場監督の次に長期滞在するのが大工さんです。
良い住環境で体を休めて、
良いパフォーマンスを発揮してもらわなければ、
脇坂工務店の仕事が
よろしくないものになってしまいます。
そこで私は決意しました。
彼らのためにも、さらに宿舎を作ろう!と。

ただ、倶知安で建物を建てる時、
ちょっとしたハードルがあるんですよ。
そのひとつが、
「住居1戸につき駐車場1台を確保すること」。
町の条例で定められているんです。
ただ、前述の通り、
敷地隣には当社オフィスがあって、
駐車場がちゃんと確保されています。
オフィスに出入りする人がいるのは昼間で、
逆に大工さんが帰宅する頃には、
駐車場が空きますから、ちょうどいい具合です。

もう一つ倶知安独自のルールがあって、
「堆雪場を設けなければならない」
というものがあります。
これに関しては、
敷地裏手に公園のような広場があり、
排雪できるのでOK。

地味にこういったハードルを
きちんとクリアすることって、
難しかったり手間取ったりしがちなんですが、
今回はラッキーでした。

いやー、これで今後の宿舎問題はバッチリです。
私の読みでは、
倶知安ニセコの建設業界の盛り上がりは、
この先10年、
さらにものすごいことになりそうです。
新幹線延伸工事、高速道路延伸工事、
リゾートホテルや別荘などの建築工事などなど、
ものすごい量の仕事が動くことは
火を見るより明らか。

そうなった場合、
工事を行う会社にとって一番の懸念事項は、
「働く人たちが泊まる場所をどう確保するか」
ということになると睨んでいます。
冒頭に申し上げた7戸の賃貸アパートが
すぐに満室になったのは、
その兆しではないでしょうか。

そう遠くない未来、
他社さんで困るところが出てきそうだな…
と思いつつ、
当社は自社で宿舎を確保する手筈を整えたので、
ひとまず安心です。

札幌くらいの場所からなら、
倶知安ニセコへ通って
仕事することも、不可能ではないのですが、
毎日片道2時間かけての通勤は、
辛いですよねぇ…。
しかも、冬は雪が行く手を阻みます。
社員に酷なことをさせたくないじゃないですか。
だから、困っている会社さんには、
この宿舎を使ってもらいたいですね。
困った時はお互い様ですから。

あ、金額はご相談かと…(悪い顔)。

さて、思い出してください。
最初にお話した2棟のアパートは、
「マチネA棟/B棟」
と命名されました。
では、もうひとつの大工さん用宿舎の名前は、
どうしたのか?

「『マチネ』が社員の案ならば、
ここはやはりトップの威厳を示さないと!
どれどれ、お手本を見せてやるか!仕方ないな!」
と自ら筆を取ったのです。
正確には、まずインターネットを
ポチポチして調べたわけです。
「社宅 英語」
と検索ワードを打ち込みました。
するとモニタに表示されたのは、
「COMPANY HOUSING」。
この瞬間、私の脳内には稲妻が走り、閃きました。
「WAKISAKA COMPANY HOUSING!!!!!」

さすが脇坂肇…。
高度なネーミングを最短距離で見つけてしまった…。
私の言葉の才能が世の中に見つかってしまったら、
世界中のコピーライターの仕事を
奪うことになってしまう…。
罪な男だ…。
と悦に入りながらも、
一応英語のチェックをしてもらおうと、
当社のお客様であり友人でもある
英会話教室の女性経営者Hさんにメールを送って、
事情を伝えました。

するとHさんから、
「脇坂さん、
これはちょっとストレートすぎるのでは…」
と戸惑ったような反応。
え?
あ〜、そのパターンか!
私の才能に嫉妬しているのか…!
はいはいはいはい。
わかる。わかりますよ。
この圧倒的な才能に嫉妬するな、
といっても土台無理な話です。

そんな私と話しても埒が明かないと思ったのか、
Hさんは
「ちょっと時間ください!」
と言って、
1時間後に彼女からメールが送られてきました。
そこに書いてあったのは、
「Wakisaka Builder's Nest」
という名前。
Nestとは巣の意味ですね。
大工さんが疲れを癒しに帰ってくる、
脇坂工務店の巣、というわけです。

「倶知安ニセコなら外国人の方も多くて、
宿舎の名前を目にされる機会もきっと多いでしょう。
これなら、外国人が見ても、
意味がちゃんと通じますよ」
とはHさんの弁。
「Wakisaka Builder's Nest」
いい!
私の考えた
「WAKISAKA COMPANY HOUSING」
よりギリ上!

そういえば、どう変だったのかを、
あまり詳しくは語ってくれませんでしたが、
よくよく考えると、
飼い犬に「犬」、飼い猫に「猫」と
命名するような感じだったのかなと…。
もしくは外国にある日本居酒屋の名前が
「食料」みたいな感じでしょうか。
これは違うか。

この名前があれば、
社内公募でイマイチな名前を出してきた社員たちに、
さも私が考えたかのように
「どうだ!」と自慢できます。
プロセスは忘れましょう。
持つべきものは友ですね。
英語が苦手な私をカバーしてくれる!

で、手伝ってくれたお礼にHさんには
「朝里クラッセホテルのコンドミニアムの
一室に宿泊してください!」
と伝えました。
ただ、彼女は
「いやいや、そんな大したことをしてないから、
大丈夫ですよ」
と固辞されたのですが、
この部屋は当社が今年フルリベーションして、
高級リゾートホテルのように仕立て上げた一室。
自社物件なのです。
そんな事情を説明したら、
「それなら…」
と宿泊してもらえることになりました。

ここで、私はふと気づいたのです。
「この部屋、接待に使えるのでは!」
もともと道外の設計事務所の方々に、
こちらでの仕事の際に使ってもらうことを
想定して整えていた部屋でした。
だけど、感謝の気持ちを伝えたりするのに、
宿泊をプレゼントするなんて、
なかなか気の利いた接待なのでは!
「この手があったか!」
と肇、気づいちゃった。

常人であれば、
「WAKISAKA COMPANY HOUSING」
という迷作・珍作を生み出したら、
己の英語力とネーミングセンスに
寝込むくらい絶望しそうなものですが、
私は違います。私は元気です。
毎度タダでは転びません。

さて、今回の結論です。
これを読んでいる大工さん、現場監督さん。
うちの会社はこうやって社宅も準備しているし、
例のコンドミニアムだって
(たまに)使ってもらうことだって可能。
社宅がある会社で働くのか、
社宅がない会社で働くのか。
コンドミニアムがある会社で働くのか、
コンドミニアムがない会社で働くのか。
答えは明らかでしょう(乱暴)。

真面目な話、脇坂工務店、
働く環境としては、
なかなかのもんだと思っていますよ。

もちろん、仕事のご相談もお待ちしています。
社員の働く環境を整えて、
万全の体制で仕事を受けられますので。

お金を持っている大手とかならいざ知らず、
この業界の中小企業で、
働く人の住環境をここまで整えるのって
レアだと思うんですよね。
まあ、仮にお金があるからといって、
博打のようにエイヤッて!建てても、
ダメなんですよね。
速攻で火の車になります。
コツは建てる時に売ることを考える、
ってことですかね。
私は全方位的にシミュレーションして、
プロジェクトにGOを出していますから。

では、なぜ、
そこまで緻密な仕事ぶりを発揮する私が、
「社宅」の直訳を名前にしようと思ったのか?
謎でしょう。
ええ、私にもわかりません。
人間には得手不得手ってもんがあるんです。

脇坂肇