「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2025年1月24日 更新

#69

M&Aが生んだテーブル。

脇坂肇

経営は判断の連続です。
動くのか、動かないのか。
買うのか、売るのか。
やるのか、やらないのか。
これまで数え切れない判断を繰り返してきた
私、脇坂肇。
2025年となった今、
「ああ、あの時の自分は正しかった!」
と思えることが、またひとつ増えました。
新オフィスに鎮座する無垢材のテーブルが、
その証です。
あの土地を買おうとした時、
そして会社を引き取る時、
こんなテーブルが生まれることになるなんて、
1ミリも想像していませんでした。

現在、脇坂工務店において重要な事業のひとつ。
それが不動産事業です。
担うのは、社長の私を含めて3名。
工務店やハウスメーカーなど、
住居建築を本業とする会社が不動産も手掛ける場合、
住宅用地だけを扱うのが普通でしょう。

しかし、当社に関しては、
住宅用地はもちろんのこと、
賃貸アパートやマンション、
分譲マンション、中古住宅も扱いますし、
さらにはホテルなどのビル、工場や倉庫に至るまで、
かなり幅広くやっております。
ストライクゾーン、広めです。
どんなボールも打てるようになろう!
と鍛錬してきたわけではなく、
飛んできたボールを夢中で打ち返していたら、
さらに皆さんが
(容赦なく)色んなボールを投げ込んできたから、
鍛えられた…みたいな感じです。

まあ、誰かと同じことをやるのが何よりも嫌!
という私の性格によるところも大きいです。
他が及び腰になりそうな案件、
たとえば倉庫みたいな話がやってくると、
「どう料理してやろうか…!」
とメラメラ燃えるタイプですから。

ただ、ストライクゾーンが広いとはいえ、
ちゃんと自分のなかでは線引きをしていて、
手を出さないボールは当然あります。
面積が大きすぎるとか、金額が大きすぎるとか、
身の丈にあわないものは見送っています。
また、「土地勘のない不動産は扱わない」
というマイルールもあります。
ただ、これに関しては最近少々揺らいでおり…。
というのも、数年前、
千歳の土地の話が持ちかけられたんですよね。
しかし、土地勘がほぼなかったので、
見送ったんです。
「これは自分にとってボールだ!」
と自信を持って。

結果は皆さん御存知の通り。
半導体メーカー、ラピダス進出の影響を受けて、
千歳の地価は爆上がりしました。
あの時買っていれば
2倍、いや3倍とかに今頃なっているのでは…。
今思えば、ど真ん中の絶好球だった…
と後悔しております。

と言いつつ、これは結果論。
「絶対当たるから、
目をつぶってでもフルスイング!」
と手を出して、
空振りした日には目も当てられません。
マイルールは今後も大事にしなければならない、
肝に銘じております。

その点、#14「工場は語りかける。」
で紹介した土地と工場は、
不動産物件として、
あの頃の当社の身の丈にはあっていなかったはず。
しかも、もともと土地だけが目当てでしたし。
しかし、土地と工場、
さらには「荒木木工品興業」という会社ごと、
当社が引き受けたのは正しい判断だったと、
今ひしひしと感じております。
なぜなら、
「荒木木工事業部」という名前で
脇坂工務店の事業部となった木工製作のスキルは、
現在、強力な武器となっているからです。

彼らに仲間に加わってもらってから、
2025年4月で丸5年たちます。
ちょうど良いタイミングですから、
木工事業部の経営について、
ちょっと話をさせてください。

いきなり経営の結果を言うと、
木工事業部はブレイクを果たしました。
時は2023年のこと。
当社の仲間に加わってから3年後です。
きっかけは、ニセコで手掛けていた大型案件でした。
海外のお客さまの建物だったんですが、
設計を担った香港の設計事務所の意向で、
収納や建具、洗面台からキッチンに至るまで、
すべてオーダーメイドで作ることになったんです。
その時、当社の木工事業部が大活躍。
大きな戦力となってくれました。

これを手掛けたことによって、
評判が業界内でぽつぽつ広まっていき、
他社からの木工仕事を受けるようになっていきます。
相変わらず建築ラッシュが続くニセコには、
現地の木工所が皆無。
当社のスキルが重宝がられるんです。
自社ではなく他社からの受注仕事だけで
年間●●00万円ほどの事業に成長しました。

さらに、当社が建物を手掛ける際、
木工の仕事を外注する必要がなく、
社内完結できるのも話が早くてとってもイイ!
お客さまからの要望に
スピーディーに応えられますからね。

そんな木工事業部ですが、
私が前身の「荒木木工品興業」さんを
引き継いだ時点で、
会社の歴史はゆうに50年を超えておりました。
よって、工場にあった機械は年季ものばかり。
例えばパネルソー。
大きな合板を切る機械なんですが、
素人の私が見ても明らかに古い。
だましだまし使っていたのですが、
2023年についに御臨終。
天に召されて動かなくなりました…。

他社に借りに行ったりして急場をしのいだものの、
「社長、もう限界です!」
と職人たちの悲鳴が聞こえてきます。
これはもう仕方ありません。
パネルソーとあわせて、
コンプレッサーという機械の新調を
検討することにしました。
機械屋さんに見積もってもらうと
出てきた数字が合計●00万円ほど…。
高い…。
高いな…。

あ、いいことを思いつきました。
職人たちが、
機械並の手の速さと強さを身につければ、
機械がなくても事足りるのでは…!
人間に不可能なことはありません。
筋肉をムキムキに鍛え上げればいい!
…と思ったのですが、
目の前にいるのは60代や70代の職人。
さすがに不可能か…。
(というか、そもそも私の考えが違うか)

発想を変えることにしました。
●00万円って、高級外車が買える金額です。
となれば、もう高級外車を買ったと思えば、
安い気がしてきた!
しかも、車は木材を加工できないけれど、
この2台は木材まで加工できる!
高級外車よりいい!

もはや自分でも何を言っているのか
わかりませんが、購入を決断しました。
2024年春に機械を発注し、
同年秋に無事納品となったのです。

もうね、最新鋭のマシンはすごいですよ。
なんかピピピと操作すれば、
ガガガっと動いて、ババーン!と切ってくれる、
みたいな。
語彙力なくてすいません。
ただ、見ていると、本当そういう感じで、
素人目に見ても、あきらかにスゴイ。
職人たちは
「作業スピードが全然違う!速い!」
と喜んでおります。

さらには精度の高さ。
ずっと使っていた機械は、
精度がいまいちだったらしく、
発生するズレを見越して、
長年の勘と経験をもとに、
職人が微調整しながら使っていたとのこと。
でも、もう機械に任せれば安心。
職人が本来の仕事に集中できますし、
品質も高められる。
当社の木工事業部は、
バージョンアップを果たしたわけです。
やはり適切な投資は威力を発揮しますね。
優れた経営者は投資を惜しまないのです。
筋肉をつければいいとか、高級外車と思えとか、
そんなことをいう経営者が
この世にいるなんて信じられない。

ところで、故障した古いパネルソーって、
いつからあったんだろう…?
そんな素朴な疑問を、創業時から在籍している
70代の職人Kさんにぶつけてみたところ、
「んー、会社ができたころから、
あったんじゃないかなぁ〜」

つまり、50年以上も使っていたようです。
機械の新調を手伝ってくれた機械屋さんが
当社の機械を見て、
「奇跡ですよ、これは…」
と驚愕した反応から、その古さが、
いかに常軌を逸していたのか、わかりますね。
私は奇跡の木工所を引き受けたようです…。

…と、ここまで読むと順調そうに
思えますよね?
安心してください。
実際はちょいちょい問題が勃発しておりました。

特にピンチだったのは人材面です。
荒木木工の2代目で、
そのまま仲間として
当社に加わっていたAさん。
彼が急遽辞めることになったのです。
職人ではなかったものの、
営業系のことを一手に引き受けていたため、
彼がいなくなると仕事がまわらなくなる事態に。
このままでは工場を閉鎖しないといけない…
というところまで追い込まれました。

それを救ってくれたのがYさんです。
大手木工製作所から3年ほど前に独立した職人。
質の高い仕事で有名だった会社出身で、
職人でありながら見積もりを作ったり、
営業的な動きもできます。
ひとづてに紹介してもらった彼に
入社してもらって、危機を脱しました。
さらには、そのYさんつながりで
職人2名が入社してくれるというオマケ付き。
それぞれの知識が豊富なこともあって、
木工事業部の仕事のクオリティは
ますます上がっているように感じます。
これぞ、結果オーライというやつです。

幾多の困難を乗り越え、勢いに乗る木工事業部。
そんな彼らの最新作にして最高傑作が
2卓のテーブルなんです。
12月に完成した新オフィスの応接室のために
オリジナルで製作されました。

従来の札幌オフィスは手狭で、
お客さまや取引先の皆さんに
足を運んで頂きづらい環境でした。
そこで、新オフィスには
ゆったりとした応接室を2つ設置。
大勢の人に来てもらうことを想定して
設計されております。

となると、オフィス自体が、
ある意味、当社のプレゼンテーションの場。
私たちがどんなものを作るのか、
お披露目する場となります。
特に応接室なんて
一番見られる空間ですから重要。
そこで、木工事業部に
オリジナルテーブルの製作を
お願いしたのです。
いっちょ気合を入れて作ってくれ、と。

逆にお客様の目につかない、
社員たちの執務スペースについては、
これまで使っていた愛着のある家具を
使ったりしています。
ええ、決してケチっているわけではなく、
あくまで愛着があるから使っているわけです。
ケチっているわけではないですが、
結果的にコストが抑えられました。
結果的に。

オリジナルテーブルに使ったのは無垢の板です。
近年、質の良い無垢材って、
ほとんど市場に出てこないんですよね。
出てきたとしても非常に高価。
しかし、前述のYさんの独自ルートを駆使して、
質の良い無垢材を仕入れることに成功。
なんでも、製材所に眠っていたものを、
掘り起こしてきたとのこと。
業界を熟知したベテランのなせる技ですね。
目にしてもらえれば、
明らかに良い木ってことは伝わると思います。

2つある応接室にあわせて、
サイズちがいでテーブルを2卓作ったのですが、
1Fの応接室に置いたものは、
大きさが3200mm×1200mmで厚み80mmの代物。
天板はナラ材とウォールナット材で構成しています。
重さはなんと約300kg。
12人がかかりでオフィスに搬入しました。
なお2Fの応接室には
大きさ2400mm×900mmで厚み80mm
のテーブルを入れています。
これもものすごい存在感です。

私は普段、
あまり木工の制作現場に行けていないのですが、
このテーブルの製作時に限っては、
気になって何度か足を運んでいます。
作っている段階から、
「すごいものになるぞ!」
とフガフガ興奮しておりました。
ただ…。
ひとつ気になることがあるんです。

「これ、何人で作ってるの?」
と私が職人たちに聞いたところ、
「Kさんが一人でやってますね」
って言うんです。
Kさんって70代の職人ですよ。
え?
この大きさのテーブルを
70代の人間が一人で作る…???

60代のFさんという職人は、
「いやー、Kさんの仕事のスピードには、
まったくかなわないんですよねぇ…」
と言っています。
まあ、作業スピードが早いとか正確とかは
理解できます。
技術に年齢なんて関係ないですから。
だからといって、一人で作れるのか…?
300kg近くあるテーブルを
どうやって持ち上げたり、
ひっくり返したりしたのか…。

ものすごい謎なんですが、
未だに真相を聞けていないんです。
なんか聞くに聞けなくて…。
鶴の恩返しみたいに
「決して見てはなりませんよ…」
と言われている気がしており。

はっ!
ひょっとして、Kさん、
ああ見えてムキムキなのでは…。
ベンチプレスを余裕で150kgあげられるとか。
それならば300kgくらいのものなら、
ひっくり返したりするのは余裕なはず…。
となると、
「職人たちを鍛えあげれば、
機械を買い替えなくてもいいんじゃ…」
と私が考えたことも、
あながち間違えじゃなかったのでは…。

今度、木工事業部の工場に行ったときには、
Kさんの腕とかをさりげなくボディタッチして、
確認してみようと思います。
これが2025年の目標です。

というわけで、自慢のテーブルが鎮座する
大企業の応接室みたいな空間で、
新規お仕事のご相談、お待ちしております。
超重量級のテーブルは安定しているので、
見積もりや契約書に
ハンコがものすごく押しやすいはず!
本当かどうか確かめるべく、
バンバン押してみてください!
(新オフィスで編み出した新商法です)

問題は、
「このテーブル、欲しい!」
という方が現れたらどうしよう、ということです。
もうこの木材は手に入らないんですよねぇ…。

あ、新調した機械と同じ
●00万円ならお譲りできますね。
高級外車と思って、おひとついかがでしょうか?

脇坂肇