「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2024年8月23日 更新

#64

当社社員に告ぐ。

脇坂肇

この「話のわかる工務店」がわかる話を、
いつもご愛読頂いている皆様に、
や、正確に言うと、
脇坂工務店の社員たちに、
この場を借りて発表したい、大切なことがあります。

私、知っているんです。
このわかる話を当社社員が
社内報代わりに読んでいることを…。
社員一同を集めて話をする機会なんて
普段めったにないものですから、
社長のトリッキーな動きに備えるため、
みんな必要に迫られて読んでいるのでしょう…。

というわけで、発表します。
脇坂工務店の本店は…

2024年3月期の決算で、
売上高20億円を突破しました。
おかげさまで業績好調です。
上場企業と比べれば、
会社の規模は小さいものの、
いっぱしの企業になったなぁ…と
感慨深いものがあります。

ただ、ひとつ懸念事項がありました。
それは本店のこと。
当社の本店って、登記上
ずっと私の自宅のままなんです。
「起業あるある」かもしれませんが、
起業時には「とりあえずいいか」
と思って自宅を本店登記したものの、
あとあと変えるタイミングを失う
っていうパターンでした。
「ここに行けば脇坂がいるのか」
と思い込んで、初めてのお客さまや取引先が、
本店の住所を電撃訪問されたら、
パジャマ姿の私に遭遇する危険性があるのです。
ビジネスに差し障りがあり過ぎます。

会社の業績が順調に推移しつつも、
ずっと頭の片隅では、
「本店をはじめ、
会社のオフィス環境をちゃんと整えなければ…」
とモヤモヤしていました。
ただですね、
オフィスって別にそれ自体が、
お金を生んでくれるわけではないんですよね。
当たり前ですけど。

ものすごい振り切ったオフィスをつくって、
見学料でも取ればいいのかもしれません。
例えば、ディズ●ーランドのように、
「行けばミ●キーに会える!
だったら、1万円払う!」
と価値を感じてもらうのと同様、
「行けば、ワッキーに会える!」
とオフィスをワッキーランドに仕立て上げれば、
お金を生み出すのかもしれません。
ワッキーグッズを作って、
物販すればさらにガッポリです!

…や、大丈夫です。
私の頭はまだ大丈夫なはずです。

とはいえ、お金を生まずとも、
カッコいいオフィスにしたい!
と思うのは人の性なわけで。
札幌の街並みが一望できる超高層ビルの最上階に、
オフィスを構えることだって、
選択肢としてはありえます。
エントランスに「WAKISAKA」と書かれた
ネオンサインを掲げて、
フロアに並ぶのはデザイナーズ家具ばかり。
社長室には巨大な革張りのチェアがあって、
シャンパンを手に夜景を眺めながら、
「この街は私のものだな…フッフッフッ…」
とつぶやく脇坂肇の姿…

…まったく想像できないですね。
立派すぎるオフィスを借りるのは
逆にカッコ悪いと言いますか…
見栄っ張りに見えると言いますか…。
とにかく性に合わないし、
脇坂工務店らしくないです。

といった葛藤があって、
自社オフィスのことは、
二の次、三の次となっておりました。
とはいえ、
自宅がどうとか、利益を生むとか、
見た目がどうとかではなく、
現在の環境はオフィスとしての機能に
課題があるんです。
要は狭い…!

例えば、銭函オフィス。
8年前、銭函の海沿いの場所から、
駅前に移転した際には、
1人1台のデスクがあてがわれるくらい、
スペースに余裕がありました。
しかし、人が増えた今、
たまにオフィスに出てくる現場監督たちには、
デスクを用意できておりません。
「代わりに、このみかん箱を…」
と差し出そうとしましたが、
監督たちが、
そのまま会社に来なくなりそうだったので、
口をつぐみました。

また、札幌オフィスも同じような状況です。
9年前、本店(自宅)から車で5分ほどの場所に、
札幌オフィスを設けました。
住所でいうと、北21条東1丁目。
当社関係者が所有する賃貸マンションに
2部屋を借りて、オフィスに改装したのです。
1部屋は打ち合わせ用、
もう1部屋は経理のスタッフの
ワーキングスペースです。

この札幌オフィスの一番の問題は、
駐車場が足りないこと。
車移動が基本の私たちにとっては大問題です。
現場監督や職人たちは
ハイエースなどで移動しますし、
車で来社されるお客さまも多いですから。

また、お客さまとの打ち合わせが
2件重なってしまうと、
打ち合わせスペースが足りず、
経理のスペースを使わざるを得ません。
さらに、会社を30年もやっていると
書類がどんどん溜まってきて、狭い…。

こんな場所で、お客さまに
「えー、今回ご提案する家は、
ゆとりのある空間で、
快適な暮らしを実現するものでして…」
なんて居心地について語っても、
どうにも説得力が出ない気がしております。

ずっと、なんとかしなきゃ…
とは思っていました。
思いつつも、自社のことよりお客さまのこと。
優先順位が低いため、
ずるずると現状のまま業務を続けていたのです。

これを打破するきっかけが訪れたのは、
ちょうど2年前のこと。
馴染の不動産屋さんから、
ある物件情報がはいったのです。

「脇坂さん、札幌オフィスの隣の物件が、
売りに出ているよ」

教えてもらった情報を見ると、
まさに弊社オフィスの隣。
これを隣と言わずして何を隣というのか!
というくらい
隣の建物が売りに出ていたのです。

一気にボルテージが上がりますが、
ここは冷静になる必要があります。
不動産の衝動買いは危険…!

私は冷静に担保査定を行いました。
不動産担保ローンを借りる時、
融資可能な額というのは、
担保とする不動産の評価「担保評価額」に
基づいて決定します。
その額を自分なりに査定して、
物件の価値を検証してみたのです。
すると売りに出されている金額は、
ものすごく割高ということが判明。
「うーん、こりゃ、買えないな…」
と私は潔く断念しました。

その金額を出せる、出せない、とか以前に、
市場価値よりも割高なものには
手を出さないのが鉄則なんです。
なぜなら売却する時に困るから。
買う時に、売る時のことを考えるのが
不動産のプロなんです…!
(久しぶりに良いことを言った気がします)

「弊社、こんなに儲かっちゃってますぅ〜」
という見栄とか、
「こんな物件にオフィスを構えている当社、
イケすぎて困るでしょ…?」
とカッコつけるために不動産を買うなら、
無理してでも買うのでしょうが、
その点、私は冷静です。

購入を断念した隣の物件ですが、
所有者の会社さんとは、
ほとんど付き合いはありませんでした。
しかし、売りに出されてから
しばらくたったある日のこと。
突然、その会社の社長が
弊オフィスを訪ねてきました。

「実は当社の社屋を売りに出していまして…。
おかげさまで、
既に何社かから問い合わせあって、
売れそうなんです」
と社長。

もちろん私が土地に興味があったことは
一切顔に出さないようにしていました。
ましてや、検討のために
担保査定したなんて言うはずもありません。
「あ、そうなんですね〜」
と、ただ微笑むだけの私です。
なぜなら、断念したのだから…。

数カ月後、当社に測量会社から連絡が入りました。
「境界石を明示しなければならず、
署名捺印をしてほしい」
とのこと。
境界石とは土地と土地の境目を示すもので、
売却の手続き上、この確認は必須なんです。
だから、私は
「あぁ、本当にもう売れたんだなぁ…」
と思ったことを覚えています。

しかし、それ以来、
ちらちらと横の建物をチェックするものの、
工事が始まる気配は一向にありません。
おかしいなぁ、と思いつつも、
日々の仕事に忙殺されて、深追いをすることもなく、
そのまま月日は流れていきました。

そして、1年後。
別の不動産会社からの電話によって、
事態は再び動き出します。

「脇坂さん、
札幌オフィスの隣の土地のことなんですけど、
安くなったんで、買いませんか?」

やっぱり途中で頓挫して、
売れていなかったのか…と思いつつ、
「いやー、欲しいことは欲しいけど…」
と歯切れの悪い私。

一番の理由は大きさでした。
該当の建物は、延床面積が実に165坪。
非常に大きい。
つまり、改修工事にお金がかかります。
また、すべてを解体して新しいビルを建てる、
という選択肢はちょっと考えにくい。
それこそ、建築資材や人件費が高騰する
このご時世、非常に贅沢なことになりますから。

とはいえ、物件としては魅力的です。
そこで、改めて自分なりに査定して、
「これくらいじゃないと買えないなぁ」
という金額を不動会社に提示しました。

さらに月日が流れて半年後。
すったもんだがあって、
私が購入することになったのです。

「すったもんだ」
この6文字でものすごく端折りましたが、
色々大人の事情が発生したんですよ…。
ちょっと詳細は語れないので、
「昨今話題の
地面師詐欺に合いそうになったのか…?」
とか、ご自由に想像してお楽しみください。
(あ、詐欺にはあってないです)

ともかく、2024年4月に契約は成立。
様々な条件を鑑みて、
脇坂工務店の関連会社(株)ワックで購入しました。

築31年の3F建てRC造の建物は、
絶賛改修工事中です。
そう、2024年の12月末までに、
ここに脇坂工務店の本店を移すことが
決定したのです。
あ、社員の皆さんに発表したかったのは、
このことです!

不動産を無事に取得できた今、
私に課せられた次のミッションは、
新オフィスを作り上げること。

お金をかけて、絢爛豪華にするつもりは
毛頭ありませんが、
当然センスの良いものにはしたいところです。
昨今、東京など本州の設計事務所や、
上場企業のお客さまとの仕事が
増えてきています。
胸を張ってお迎えできる空間にしなければ。
というわけで、懇意にしている設計士に依頼して、
リノベーションプランを練ってもらいました。

この建物、元工場だったため、
どうしてもニオイや汚れが目立ちます。
そのため、まずは一度スケルトンにして、
断熱性能を高める処理をしたり、とか、
汚れやニオイを落としたりとか、
窓を取り替えたりとか、
色々下ごしらえをやっているのが
2024年夏の現状です。

現時点のプランでは、
新しい札幌オフィスには
応接室を3部屋設ける予定です。
これで打ち合わせがバッティングしても大丈夫。
さらには、
小さいながらもセミナールームもあります。
イベントなどにも活用できることでしょう。

駐車場はたっぷりの15台。
これを見て、
「おっ!」と思う方はなかなかの不動産通です。
実は物件取得の決め手は、この駐車場でした。
というのも、
現在、札幌の街なかで、
これだけの車を停められる場所って超貴重なんです。
札幌オフィスが抱えていた、
駐車場が足りない問題もクリアです。

社長室は最上階の一番広いスペースをとって、
金ピカのインテリアにして…
とかは一切しません。
私、自分のことを社長だと思っていないので、
(社員も思っていない節があります…)
社長室はナシ。
そのぶん、社員やお客さまのための
スペースを充実させるよう、
設計士にはお願いしました。

社員たちには、効率を考えて、
銭函でも札幌でも好きなオフィスを選びながら、
臨機応変に働いてほしいと考えています。
フリーアドレスという概念も
広まってきましたからね。

いやー、これでやっと会社らしくなるなぁ…
と思いつつも、
ひとつの不安と言いますか、
予言と言いますか、
私が危惧していることがあります。
それは、この自社ビル、
正確に言うと関連会社の持ち物なので
「ほぼ自社ビル」を私が取得したことについて、
「あらあら、脇坂さん、
儲かっていらっしゃるんですなぁ…」
とニヤニヤしながら言ってくる人が
120%の確率で出てきそう!
ということです。
「自社ビルついでに、
この金融商品も買いませんか」
とか言ってくる人もいそう!

まあ、何を思うかは相手の自由なので、
ぜんぜん良いのですが、
一応実態をお伝えしておきたく…。

まずですね、
こういう不動産を取得しようとしたら、
自己資金がある程度必要になってくるんです。
諸々の手数料がかかってきて、
それを融資ではなく、
手持ちの資金で払わなければなりません。
それをポーン!と払えれば
なんら苦労をしないのですが、
そんなにお金を持っていないので、
工面するために、関連会社の不動産、
アパートや賃貸倉庫などを売却して、
資金の算段をつけていました。
実は、「これは買えそうだな…」
という予感がし始めた2023年12月頃から、
コツコツと準備していたんですよ…。

さらには、
私個人が所有していた不動産も売却して
お金を用意し、
今回物件の買い主になる関連会社へ貸付、
みたいな準備もやっています。
改修工事の費用は100%ではないものの、
極力自己資金でやろうと思ったからです。

肝心の購入資金についても、
お金がジャブジャブ余っているわけではないから、
金融機関から融資を受けます。
経営者の皆さんなら、
激しく同意してくれると思うんですが、
無事に融資通った時の喜びたるや、ですよ。
だから、声をかけてくださるなら、
「儲かっているんですね〜」
じゃなくて、
「融資が通ったんですね〜!おめでとう!」
と言って欲しい!

といった具合に、もうなんとかかんとか、
お金を工面している感じですわ…。

新オフィスを設けようと思ったのは、
儲かっているわけではなく、
会社にとっての身なりを整えているだけ。
スーツをビシッと着ていると思って
よくよく見たら、
裸にスーツとシャツとネクタイの絵を描いていた、
みたいな状態が今までの私たちだったわけで。
(そこまでじゃないか)
ちゃんとした服を着たい、ってことです…。

…といった一連のことを、
社員に伝えたく、今回筆をとった次第で。

2024年内の本店移転を決めたものの、
それまでに、完成するのでしょうか…。
社員の皆さん、頑張りましょう。
万が一間に合わなかったら、
みかん箱をひとまず用意しますので、
安心してください。

いやー、年甲斐もなく、
また攻めたことをしてしまったな…。

脇坂肇