「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2021年9月17日 更新

#29

私が地主です。

脇坂肇

「大きくなったら、何になりたい?」
あなたが子どもの頃、
夢見た職業って何でしたか?
私の世代だと、
パイロット、野球選手、警察官とか。
今の子どもたちなら
YouTuberや公務員が
上位にランクインしているって
話題になったりしていましたね。
では、
「大きくなったら、地主になりたい」
って思っていた方、
どのくらいいるでしょうか。
子どもがそう言い出したら、
色んな意味で心配になるかもしれません。
そもそも、
「実家が地主じゃない限り、
そんなのなれないんだよ…」
と諭したくなるかもしれません。
や、それこそが固定観念かも。
なぜなら、
私、脇坂肇はなったのです。
夢の地主に…!

1

いきなり身も蓋もない話をすると、
家を建てる時に土地を買えば、あなたも地主です。
でも、そんなふうに普通は思わないし、
公言しないですよね。
じゃあ、私の場合、
何が私を地主たらしめているのか。
何を根拠に「地主」だと言い張るのか。
地主へのサクセスストーリー、
ROAD TO JINUSHIについて語る前に、
まず今回も、
不動産投資の話を少々したいと思います。
密接に関係ありますので。

よく不動産投資の相談を受けることもあって、
市場の動向ってやつを注視しているんですが、
最近の市場価格って、
「まともなものは高くて、かつ利回りが低い」
ケースが多いんですよね。
なんというか、
あまり面白くない物件と言いますか…。

一つ例をあげましょう。
たとえば、1億円で新築マンションを
丸ごと買ったとしましょうか。
(わかりやすいように単純化して話しています)
土地+建物で1億円の物件です。
で、利回りは7%。
利回りとは…超ざっくりいうと
「物件価格の何%儲かるんですか」
ってことです。
詳細はググってください。
私も今、ググったのをコピペしようとしましたから…。

1億円の物件で利回り7%ということは、
年間700万円の家賃収入、
つまり、毎月58万3,333円(700÷12ですね)が
入ってくる物件となります。

この物件をあなたが購入すると決断して、
自己資金を2,000万円用意しました。
よって、1億円−2,000万円=8,000万円は
金融機関から借りなければなりません。
「いや、IT長者の友人から8,000万円もらえる」
とか反論しないでくださいよ。
話がややこしくなるので…。
ちなみに本当は他に諸費用として
約600〜700万円ほどかかります。
仲介手数料、登記費用、固定資産税、
不動産取得税などなどです。
あれ、逆に私、話をややこしくしてます…?

金利2%の25年返済ローンとすれば、
毎月33万9,083円返済する計画になります。
ということは、
58万3,333円−33万9,083円=24万4,250円
の利益が毎月生まれますよね。

ここまで読んで
「毎月25万円入ってくるなんて、
夢の大家生活じゃないか…!」
と思った人、手をあげなさい!
先生、怒らないから。

私の冷酷で感じの悪いツッコミを入れましょう。
まず、2,000万円の自己資金を用意できる人、
どのくらいいるでしょうか。
現金で2,000万円って、
うまい棒200万本分ですよ。
うまい棒を1日1本食べたら、約5,480年分ですよ。
なんで、うまい棒と比べたのか
自分でもよくわかりませんが。

仮に親切なアラブの石油王と仲良くなって、
「2,000万円クライ、アゲルヨ!」
と幸運にも言われたのか、何なのか、
自己資金が2,000万円あったとしても、
他にも色んなリスクが考えられます。
空室が出るリスク、家賃が下落するリスク、
10年を超えた頃には修繕費がかさんでくるリスクも。
さらにはお国に
固定資産税を納める必要だってあります。

ってことを全てひっくるめて考えると、
毎月その約24万円からプールしておく必要があります。
となると、
月5万とか、10万とかしか手元に残らない計算に。
アラブの石油王からしたら、
「5万円ッテ、ナニ?ミタコトナイヨ!タベラレル?」
と言われそうなくらいスズメの涙ですよ。
(当然、脇坂にとって5万円は大金ですけどね…)

なんだ、不動産投資って夢ないな…。
と思った方、お待ちなさい。
この悲観的な話は、
「毎月」という短期的な視点で見た場合の話です。
もう少し長期的に考えてみましょう。

10年間ローンを払っていくと、
10年後には、
ローン残額が約5,200万円になっています。
前述の通り、
毎月5万円から10万円ほど手元に残しながら、です。

で、その10年後もマンションの価値が1億円から
変わっていないとして。
その時点で売却すれば、
1億円−5,200万円=4,800万円が手元に残る計算。
(もちろん利益の20%とかは
税金で持っていかれますけどね…)

つまり、所有している時は旨味がないけど、
10年後の楽しみがあるよ、
投資した10年後にリターンがあるよ、と。

「ちょっと待って!
買った時と同額で売れるという話になっているけど、
下落することってあるんじゃない?」

いい質問ですね。
確かに下落する可能性はあります。当然。
ただ、大幅に不動産が下落するのって、
これまでの歴史を振り返ると、
バブル崩壊、リーマンショック、
スルガ銀行ショックくらいでした。

「それでも、そういうことになる可能性は
あるってことでしょ…」
まあ、そりゃリスクは0じゃないです。
じゃあ万が一、買った時と比べて
価格が激しく落ち込んでいたら
どうすればいいかって?
簡単です。
その時に売らなければいいんです。
売り時を見極めるのは不動産投資において大事です。

ここまでで、何が言いたいかのかというと。
一般の人が抱く不動産投資のイメージは
「毎月働かなくても●●円お金が入ってくる!」
みたいなものになりがちですが、
そこは甘くないってことです。

さあ、ここから話は本題。
地主へのビクトリーロードについて語りましょう…。

「こんな物件があるんだけど、どうです?」
2020年12月に、
ある不動産の仲介業者さんから連絡がありました。
2020年夏に仕事を通して面識ができた方です。
それはかなりの変わりダネでした。

内容は、豊平区のとある場所にある
「地役権設定」がされていた土地を買わないか、
というもの。
どういうことかというと、
敷地内に送電線の鉄塔が建っていて、
住宅は建てちゃダメよ、っていう土地だったのです。
それを「地役権設定」と呼ぶんですね。
推測ですが、かつて北電が
土地の持ち主の方にお金をいくばくか払って、
「地役権」を設定したってことだと思います。
送電線があるから、
電磁波の影響も考えられるし、
その鉄塔のメンテナンスの邪魔になるから、
住宅をNGにしたかったのでしょう。

ただ、駐車場としての利用はOKなんです。
家を建てるわけじゃないから。
実際、とある法人が駐車場として借りていました。
その賃料は毎月11万円。
つまり、もし土地を買えば、
その駐車場の賃料が毎月もらえるということです。

「…ていう土地なんですけど、脇坂さん買いません?
広さは366坪ですよ」
と仲介業者さん。
私も初めてのケースです。
これは興味深い。
で、調べました。
ノリで土地を買っていそうと思われがちな私ですが、
普通に慎重なんです。
まずは基本中の基本、
固定資産税の評価額を調べてみます。
すると約900万円という数字。
このエリアであれば、
2〜3倍してもおかしくないです。
やはり「地役権設定」という特殊性から
低めなのでしょうか。

リスクはどうでしょう。
ひとつは、駐車場として借りてくれている法人が
いなくなってしまうこと。
ただ、ちょっと特殊な法人なので、
この先数年でいなくなることは考えにくい状況でした。

さらには、
北電にお勤めのお客様を知っていたので、
質問してみました。
「北電の地役権がついてる土地って、
何も建てれないの?
たとえばレンタルガレージとか…」
すると、
「基礎工事をしないような仮設物だったら、
北電に申請した上だったら大丈夫のようですよ」
という回答が。
ならば、駐車場の借り手がいなくなっても、
最悪ガレージを建てる土地としては活用できるな…。
昨今、ガレージの需要が高いんですよ。
キャンプ道具や除雪機とか、
何かと荷物の収納に困っている人って多いですから。
家の車庫に車を停めると、
それでもう一杯いっぱいな家庭って
けっこう多いんですよね。

これはお買い得な気がする…!
ただ。
ただですよ。
うちは建築屋です。
確か社名にも工務店とついていたはず。
うち建築屋なのに、
家を建てられない土地を買うって
どうなんだろう…。
工務店のアイデンティティが…。

…待てよ。
私は工務店の社長だけど、
ラジオでDJのように喋り倒している…。
道新ホールのステージで、
落語の口上を述べたり、踊ったりもしている。
もはや“建築屋”という枠を超えているのでは…。

と勝手に正当化して、決断しました。
買おう(あっさり)。

せっかくなので、
リアルな売買の様子も公開してしまいましょう。
(関係各位に怒られたらすぐに消しますね…)
最初に仲介業者から提示された金額が450万円。
対して、私は「300万円なら買います」と回答。
すると、仲介業者を通して、地主さんから
「もうちょい色つけてくれないかなぁ…」。
と相談が。
というわけで330万円にて無事に契約成立。
2021年春に手続きを進めて、6月に決済が完了し、
晴れて私の土地になりました。

不動産投資を少しかじったことがある人なら、
既にすごいことに気づいているかもしれません。
利回りです。
計算すると年間なんと約40%にもなります。
ものすごい物件だったのです。

お金の工面についても、こっそり教えましょう。
土地を買った2021年の春は
たくさん税金を収める必要があり、
キャッシュが手元にとぼしかったんです。
そこで330万円を借りるのに適した融資方法がないか
金融機関に相談しました。
そこで提案されたのは、
土地に抵当権をつけて、
金利を通常よりちょい高めで借りるというもの。
4年支払いで計350万円の借り入れ。
毎月7万6,852円を返済していきます。
月11万円の収入なので、
毎月3万4,000円程度の利益が出る計算です。

さあ、ここで思い出してください。
冒頭に例として出した1億円の物件。
なんだかんだで
毎月の利益が5万円くらいにしかならないかも、
というお話をしました。
それと比べると、この変わりダネの土地は、
3万4,000円程度利益が出る。
購入金額は1億円の3%ほどにも関わらず、です。

不動産投資って、
こういうズレといいますか、
このあたりがおもしろいですよね。
単にお金を積めばいいってもんじゃないというか。

「いやいや、それって単なるお宝物件でしょ。
そういうのに運良く巡り合ったら
自分だってすぐに買うよ!」
と思う人もいそうですね。
ただ、こうやって情報をまとめてお話すると
価値があることがわかってきますが、
一見すると、
「こんな土地買ってもしようがないだろう」
とみんな思うんですよね…。
事実、この土地は数年間売れておらずに
地主さんが困っていたわけですから。
家が建てられない土地って聞いた時点で、
誰もが要らないってなっちゃうんでしょうね。

うちの社内の人間だって
「こういう土地を買おうと思うんだけど、
どう思う?」
って私が聞いたら、
「へー、プロ向きの土地っすね。社長プロっすね」
と「社長がまた変なことをしている」感じで
冷たく言われましたからね。
身内ですら、これですよ…。

まあ、それはともかく。
こうやってリサーチしたり、
買った後の戦略を考えたりすること含めて、
不動産投資の奥深さを
改めて感じさせてくれる物件だったなぁと思います。

さて、売買当日、売り主である地主さんと初対面。
北電の鉄塔の下にこんな看板がありました。

「関係者以外立入禁止 地主」

よく見かける感じのアレです。
地主さんは
「これ、どうします?
私は一応こういう看板建てたけど、
まあ入る人もいないと思いますし、
撤去しときましょうか?」
と言うので、
私はすかさず言いました。
「残してください!」

だって、地主って書いてある!
それ、私のことですよね。
なかなか自分のことを地主と名乗れる機会って
普通に生きていたらないでしょう。
「サラリーマン大家さん」
なんて言葉がちょっと流行っているように、
大家さんになろうと思えばなれるけど、
地主にはなかなかなれないのでは!

これで念願の地主になりました。
そうこの看板があるおかげで堂々と主張できる!
今日から「脇坂地主」と呼んでもらっても
何ら構いません。
名刺にも肩書追加しないと。
「代表取締役社長 / 地主」って。

あ。
この敷地に追加で看板を立てるのもいいな…。
「私が地主です」っていう看板。
ア●ホテルの社長みたいな感じで。
ならば地主カレーも作るか…。
そうか!
ここに基礎工事の要らない仮設倉庫を建てて
カレーを保管すればいいのか!
カレーのセールストークは
「地主が持っている土地で
3ヶ月間寝かした地主カレー」
ってことにすればいいのでは!
ビッグビジネスになる予感しかないな…。

というように、
地主って夢ある職業ですよね。
近い将来、
子どもがなりたい職業ランキングに
地主が入る日も近いことでしょう…。

え?
最後の看板からのカレーのくだりを言いたいがために、
その土地を買ったんじゃないかって?
ギクッ。

脇坂肇