「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2021年11月18日 更新

#31

ちがう生き方が、見えてくる。

脇坂肇

目に映るのは立ち並ぶ木々。
海は見えない。
でも、波の音は聴こえる。
潮の香りもする。
風が心地いい。
都市生活の便利さを手放すことなく、
自然とひとつになって時を過ごすこと。
それは、一人ひとりにとって分岐点になる。
見えてくるものがある。
この場所を通って、あなたの暮らしは、
どこへ向かうんだろう。
新しい生き方は、賃貸できる。

…なんか別の会社の
いい感じの記事とかに
迷い込んだと思いましたか?
WEBが乗っ取られたかと思ったでしょうか。
いやいや、ここは「わかる話」です。
いつも通り不真面目な話、満載です。

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以前、「国土を広げた話」をしました。
その“広げた国土”でのプロジェクトの、
その後をお話ししようと思います。
土地を取得した当時は、建てるものは
「賃貸のテラスハウス」くらいに
ぼんやりと考えていたのですが、
徐々に焦点があってきて、
目指す姿が固まってきました。

今、私たちがつくろうとしているのは、
「貸し別荘みたいな住まい」です。
なぜ、そこに至ったのかは
おいおい説明するとして。
まずは、そこがどんな土地だったのか、
おさらいしましょうか。

私が“国土を広げる”ことによって
取得したのが、約6300平方メートル、
つまり約1900坪の広大な土地です。
いわゆる第一種住居地域という区分で、
建ぺい率60%、容積率200%
といった条件の土地。
なので、計算上は12000平方メートルを超える、
とんでもなく巨大な建築物ができると思ったんです。
マハラジャとか石油王の自宅レベル。
「マハラジャ、探さないと!」
と思っていました

しかしですね、
いきなり壁にぶつかったのです。
建築基準法を調べていくと、
色々なルールにひっかかるんですよ…。
1000平方メートルを超える敷地については、
そこに何か建てることは
「開発行為」にあたるんですって、奥さん!
よって、それに見合った計画を立てることが
必要になってきます。

さらに建築基準法では、
1000平方メートル以上の土地開発に関して、
敷地に接する道路の幅、いわゆる「幅員(ふくいん)」が
6.5メートル以上必要なんですが、
購入した土地は、
前面道路幅員が4.8メートルもありません。
おぅ…。
つまり法律上は、
この約6300平方メートルの土地全体を
開発できない、ということです。

そこで脇坂、決断しました。
だったら、6300平方メートルの敷地内で、
建築スペースを
1000平方メートルに収まるように区切ろうと。
これならノープロブレムです。
設計士と相談して、
997平方メートルのスペース内に、
建物を建てますよ、
ということにしました。

当初のマハラジャの家より、ずいぶんコンパクト。
これはこれで仕方ありません。
しかし、転んでもタダでは起きない脇坂肇です。
ならばと、
建物物のコンセプトを振り切ることにしました。
それが「貸し別荘みたいな住まい」というものです。
しかも戸数を6戸と絞って、
思い切って高級路線で行くことにしたのです。

そのアイディアに至ったのは、
以前から
「銭函エリアに借りられる別荘ってないなぁ」
と感じていたことにあります。
所有することの価値が薄れつつある
この時代に、ゴージャスな別荘を販売しても、
売れないでしょう。
それよりも数年間だけ賃貸で借りて、楽しむ。
そんなスタイルがこれからアリなのでは、
と思ったんです。

また、昨今のアウトドアブーム。
建物を建てないスペースとなる、
残りの約5300平方メートルの敷地には、
BBQのスペースやテントサイト、
さらには家庭菜園のための畑まで
整備する計画です。
銭函の環境を存分に楽しめるよう、
住まいだけではなく、
住まいの外にまで力を入れます。
意外とこういう賃貸物件って
全国的に見ても、
ありそうで、ないのではないでしょうか。

ちなみに、土地を買った当初は、
木々がこんもり生い茂っており、
全然海が見えない土地だと思っていました。
が、フタを開けてみたら、
11月〜4月の寒い時期には、
海がまあまあ見えるんですね。
なんのことはない、
葉っぱが落ちるので一気に視界が開けるんです。
土地の中に大きな建物が建てられないと
わかった時には、
「天に見放されたな…」と思ったものですが、
この頃には「神に愛された男」と思っていました…!
半年だけ海が見えるという、
ある意味、レアな場所が手に入ったわけですから。

プロジェクトの方向性が定まり、
建物の設計が進行していきます。
ほどなくして、コピーライターとデザイナーにも
プロジェクトに加わってもらいました。
コンセプトの言語化や建物の名称、
ロゴなどのデザインを作ってもらいたかったんです。
どうせやるなら徹底的にセンス良く、です。
この記事のタイトル
「ちがう生き方が、見えてくる。」
から続く、冒頭のいい感じの文章は、
まさにこの建物のコンセプトを表現するために
開発されたコピーです。
もし私が書いていたら、
この「わかる話」のノリになっていたことでしょう。
危なかった。

こういったコンセプトの言語化や建物の名前、
ロゴマークなどはどんどん決定。
図面やパースも、
先行してこちらで公開しています。

そうです、建物の名前は決まっているんです。
が、どうしようかなー、
お披露目しようかなー。
期待を高めるためにもったいぶって、
ここでは仮称にしておきましょうか。
そうですね…、仮に
ポンポコリンハウス(仮)
とでもしておきましょう。
仮に。

さて、そうこうしている内に、
次なるハードルが眼前に迫ってきました。
お金です。マニーです。
この時点でポンポコリンハウス(仮)の、
銀行の融資の承認がおりてなかったんですね。
ここが通らないことには、
ポンポコリンハウス(仮)の着工ができません。
ポンポコリンハウス(仮)のために、
脇坂工務店の関連会社から、
とある信用金庫に融資の申込みをしました。
ポンポコリンハウス(仮)の図面がほぼ完成した、
2021年7月ごろのことです。
あ、ポンポコリンハウス(仮)、
鬱陶しいですか。

正直、結構不安だったんです。
普通に申請したら、
融資はおりないとさえ思っていました。
だって、銭函が最近人気とは言え、まだまだ片田舎。
そこにこんなバカでかい土地を使って
6戸しかない賃貸アパート建てます!
って計画、
「大丈夫ですか?
融資ではなく、医者とか必要じゃないですか?」
とか言われそうです。
収益性も一見低そうですし。
さらには銭函って、
固定資産税評価が低いので、
融資がおりづらいんですよね。
それすなわち、
担保としての価値が低いってことなので、
広い土地のわりには、
借りられるお金が少なくなる傾向にあるわけです。

しかも、こういう審査って、
透明性とか信頼性とかを保つために、
金融機関内で自分とは接点のない人が
審査するものです。
「ひとつ、よろしくお願いしますよ…。
あ、これはつまらないものですが…」
「おぬしもワルのよう…」
みたいな越後屋戦法も取れません。
取ったことないですけど。

そこで私は、
銭函で手掛けていた2つの賃貸物件の実績を
まとめた資料を作りました。
もちろん今回の図面やパースもセットです。
さらには、
2020年に朝日新聞や北海道新聞で
銭函の活況が取り上げられた際の記事を添えて
申請したのです。
銭函で賃貸物件のニーズが高いことを
客観的に示してくれる資料ですからね。

2週間後。
晴れて承認がおりました。
「ついに自分も、
越後屋戦法を繰り出すことになるのか…」
と思っていたので、一安心しました。

さて、お金の工面がついたところで、
プロジェクトはさらに前進します。
続いて、物件の管理を任せる管理会社と、
家賃を決めなくてはなりません。
ベーシックな間取りのタイプは、
2SLDK(約72平方メートル)のメゾネットで
駐車場2台つき。
山奥とかではなく、
JR銭函駅まで徒歩16分程度の立地。
それで、月額11.5万円〜という家賃ですよ、奥さん!
銭函という土地にしては
一見強気の価格設定に思えるかもしれませんが、
設備は充実しています。
札幌の新築マンションの設備と
同水準くらいと思ってください。
なので、賃料はむしろリーズナブルなんじゃないかな。

セコムのホームセキュリティも導入予定です。
各自のスマホアプリで警備解除ができたりするので、
たとえば、法人契約をしてもらい、
従業員の家族が入れ代わり立ち代わり、
保養所的な感じで使ってもらうことも
やりやすいです。

建物のこだわりをあげるときりがないのですが、
例えば玄関ドア。
輸入の木材ドアを採用予定です。
普通の賃貸物件だったら、
絶対使わないようなグレードのもの。
具体的な建物のスペックを見ていただくと、
むしろオトクって感じてもらえる自信があります。
すごいぞ、ポンポコリンハウス(仮)!
と自画自賛しておきましょう。

そうは言っても、
「いやー、別荘とか持つなんて、無理無理!」
と思っている人も多いことでしょう。
ただ、コロナとかテレワークの普及って、
数年前、誰が想像しました?
常識と思っていたことは
意外とあっけなく変わってしまうものです。

私、この物件で固定観念を壊したいと思っています。
別荘はお金持ちだけのもの、っていう考え方です。
月額家賃が11.5万円なら、年間の費用は140万円弱。
それを何十年と借りるなら、
けっこうな金額になりますが、
数年だけ借りて、楽しんだっていいわけです。
結果的に、銭函エリアが気に入ったら、
銭函で家を建てたりすればいい。

利用シーンは、
たとえばこんなふうにイメージしています。

…週末、札幌の自宅を朝出て、
銭函のもう一つの住まいへ。
ランチは、敷地内のBBQ場で手作りピザに舌鼓。
あわせるのは、
銭函のワインショップで買っておいた
とっておきのワイン。
遊びに来た友だち家族がアウトドア好きなら、
敷地内のテントサイトにテントをはってあげて、
波の音を耳にしながら、そこで休んでもらう。
冬であれば、スキー道具一式を置いておいて、
ここを拠点に、良い雪を求めて
ニセコまで足を伸ばしてみる…

…なんて感じです。
ほら、なんかだか夢が膨らみませんか。

ちなみに、
テントをはる場所があるということは、
奥さんに怒られて、
「あんた、出ていきなさいよ!」
とか言われても、大丈夫です…。
ほら、なんだか悪夢が膨らみませんか。

もちろん、別荘じゃなくて、
メインの住居として借りるのもぜんぜんOKです。
テレワークができて、
出勤が少なくて済む職業の方、
また自営業の方にとっては、
オフィス兼住居にするのも良いでしょう。
また、アクセサリーとか作家活動をする人の
アトリエとしても良い環境ですよ。

賃貸アパート経営って、
やれ収益性がどうだ、とか、
建築コストをおさえて建てよう、とか。
非常につまらん!のです。
脇坂工務店としては、
とにかく銭函の生活を楽しんでもらいたい。
長い目で見て、
結果的に銭函で家を建てたいな
と思ってくれる人が増えることを
期待しています。

なので、この建物単体で儲けようとかは
ぜんぜん考えていないんです。
これが話題になって、
当社を「おもしろいことやっている会社だな」
と知ってもらえること。
それができさえすればOK。
だからハイグレードな設備の物件を
あの賃料で貸し出すわけなんです。

そういう意味では、
「これは脇坂工務店のモデルハウスかも」
なんて冗談半分で私は口にしていますが、
住む方にとっても、銭函エリアにとっても、
当社にとっても、
三方良しという物件にしたいですね。
商人って、ソロバンばかり弾いている
イメージがあると思いますけど、
想像力が何より大事だと思います。
こんなことできたらいいな、
あんなことできたらいいな、と。
しかも、それを頭の中で終わらせるのではなく
形にしていく力が必要。
みんなみんなみんな叶えてくれる人であるべきです。
なんだか聴いたことあるフレーズですが。

建築屋の仕事って、つきつめると、
家をつくることじゃなくって、
暮らしをつくること、ではないでしょうか。
魅力的な暮らしをつくる。
家を建てることはあくまで手段。
家を建てて売ることを
第一に考えちゃいけないんですよ…!
なんちゃって。

というわけで、
銭函のプロジェクト絶賛進行中です。
え、建物の名前?
危ない、ポンポコリンハウスで
覚えられてしまうところでした。
「Zenibako Ki-Q(ゼニバコ キキュウ)」と言います。
日常生活とは異なる視点で
生き方を見つめられる、という意味合いで
気球というモチーフから名前を考えました。
空高く舞い上がると、
ぜんぜん別の風景が見えますからね。

Zenibako Ki-Q、どうぞご期待ください。

脇坂肇