「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2022年01月24日 更新

#33

音楽室、ついてます。

脇坂肇

ある日、出社すると事務スタッフから
声をかけられました。
「社長、お電話ありましたよ。
えっと、幻●舎って言ってましたけど」
「え?」
「ほら、出版社の。
なんか
『御社のホームページに書かれている
内容を拝見して…』
とかなんとか仰っていましたけど…」

ついにこの日がやってきましたか…。
これは間違いなく出版のオファーでしょう。
情熱●陸の前に、書籍か…!
いや、書籍からの映画化もありうるな…。
私役はトムクルーズか、
最低でもトムハンクスあたりか…。
この時、たぶん私は
「へへへ…」と半笑いだったと思います。
情熱●陸が密着取材していなくて良かった。
そうか、現在進行中のあのプロジェクトが
キャッチされたからに違いありません。
さすが幻●舎…!

2021年が間もなく終わりを告げようとしている
12月のこと。
脇坂工務店の本店に
プロミュージシャンが訪ねてきました。
木山裕策さんです。
某テレビ局のオーディション番組がきっかけで、
「home」という曲でメジャーデビューされ、
紅白にも出場されているアーティスト。
そんな彼が、なぜ訪ねて来られたのか。
目的は、本店に設置している音楽室の見学でした。

当社のホームページをご覧になった方は
お気づきかもしれませんが、
これまでも多くのミュージシャンが
この音楽室を訪れています。
ひょんなことから、
レコード会社の方とつながりができて、
こうやって著名な方々が
たびたびやってきてくれるようになりました。
プロの口から、
プライベート音楽室のメリットを語ってもらえると、
やはり説得力が違うんですよね。
ありがたいことに、皆さん口を揃えて、
「わが家にも欲しい!」
と仰ってくれました。
「じゃあ、あのヒット曲の印税で、
建てちゃいますか!
げへへ…」
なんてことは、さすがの私も言えなかったですが…。

音楽室をつくることに関しては、
一日の長がある脇坂工務店だと自負しています。
こんなエピソードもあります)
その経験を活かして、
現在ある新築マンションプロジェクトが進行中なんです。
それは、ただの賃貸マンションではありません。
「音楽室がある賃貸マンション」です。

建設予定地は札幌市東区北15条東8丁目。
地下鉄駅も比較的そばにあり、なかなかの好立地です。
もともとはここに古いアパートがあり、
当社の関連会社が所有していました。
ただ、現在の入居者が徐々に退去されていったので、
跡地の活用として、
音楽室のある賃貸マンションを
建てようと思い至ったのです。

札幌ではあまり聞かないですよね、
そんなマンションなんて。
実際、ほとんどないんです。
じゃあ、なんでまたそんな変わったことを
おっぱじめようとしているのか。
きっかけのひとつは、家族の経験です。

うちの娘はずっとピアノをやっていまして、
成人となった今もピアノを生業としています。
東京の音楽大学へ進学してから現在に至るまで
3回ほど都内で引っ越ししているのですが、
毎回ピアノが弾けるマンションに住んできました。
一緒に物件を探したりもしたのですが、
都内だと楽器を弾けるマンションというのが、
それなりの数あるんですよね。
やはり札幌とは音楽学校の数が違いますから。

それにしても、札幌に
同様の物件が少なすぎると常々思っていました。
かたや、その理由もなんとなくわかります。
札幌でマンションを建てようとする人たち、
つまり、投資目的とか資産運用の一環で
マンション経営に乗り出す人たちは、
効率重視で建てるんですね。
つまり、リスクを極力下げて、
利益を上げられるかどうかに重きを置く。
だから、“変なこと”をしたがらないんですよ。
札幌の新築マンションがどれも金太郎飴のように
同じものばかりなのは、そのせいです。
私は逆です。
他に埋もれてしまうのが怖い。
だから変わったことがしたいんです。
金太郎より、桃太郎になりたいのです。
ん?

で、この建設予定地の住所をよく見てください。
北15条東8丁目
これでピンとくる方は鋭い。
そう、ここは
大谷高校や大谷大学のすぐそば。
両校には音楽学科があるんですよね。
学生専用マンションとかにするつもりはないのですが、
きっと音楽を学ぶ学生さんや親御さんに
支持してもらえるのではないかと思っています。

物件について具体的にご紹介しましょう。
5階建のRC造マンションで計10戸あり、
9戸が53〜54平方メートルほどの2LDK、
残り1室が1LDKという構成。
全戸に音楽室1部屋が付いています。
着工は2022年3月予定で、
同年秋頃の完成予定です。

そうそう、
今回の建物の施工・設計は当社じゃないんですよ。
RC専門業者が施工を担当し、
RC建築の経験豊富な設計事務所が設計します。
餅は餅屋、RCマンションはRCマンション屋です。
ただ、彼らは音楽室をつくった経験がほぼないので、
当社の現場監督がノウハウを提供し、監修します。
音楽室の施工図も当社で起こしていますよ。
いわば、当社がプロデューサー的な立ち位置。
打ち合わせの際に、
私は肩からニットをかけていたほうがいいだろうか…
といつも迷っています。
脇Pですから。
ええ、脇坂プロデューサー。

2020年夏頃からプロジェクトは始動し、
ラフラフな図面が完成した段階で、
ある人に見てもらいました。
それは、ピアノ運送の専門業者さん、
司ピアノサービス札幌さんです。
ピアノを部屋に搬入することに関して
プロ中のプロ。
マンションの入り口から各部屋にある音楽室まで
グランドピアノを運ぶことを想定して、
彼らにアドバイスをもらいました。

マンションにピアノを運ぶ際には、
当然エレベーターが不可欠になってくるのですが、
「ヤマハC3
(非常にポピュラーなグランドピアノ)
が入るサイズにしましょう」
と司ピアノさんから提案がありました。
グランドピアノは脚を外したりして、
分解して搬入出するものの、
それでもかなりの大きさです。
だから今回の物件の規模と比較すると、
通常ではありえないくらいの
大きなエレベーターをつけることにしました。
また、搬入経路についても、
司ピアノさんに詳細なチェックをしてもらって、
設計図面を調整しています。

こういった工程を踏まないと、
悲劇が起きますから…。
そうです、Aのカラオケボックスの
二の舞は避けなければなりません。
ノーモア荒●注カラオケボックスです。
あれ?
爆笑の声が聞こえてこない…。
ここ笑うところですよ。
え、ひょっとして通じてない、この例え?
なんだバカヤロウ!
あ、ここも往年の荒●注ファンなら
笑うところですよ…。
(詳しくはググってみてください)

それはさておき、音楽室の性能についてです。
なんとなく、集合住宅の音楽室って
防音がすごく大事だと思いますよね?
もちろん防音は大事なんですが、
同じくらい、吸音と反響のバランスを取ることも
重要になってきます。
吸音は文字通り、音を吸収する性質。
ピアノなんかは吸音しすぎると、
弾き手にとっては気持ち悪いんですよね。
うまく自分が弾いている音がつかめないので。
反対に、サックスのような楽器は吸音性が高いほうが、
吹いていて気持ちいいと言われています。
反響に関しても同様で、
演奏する楽器によって
音楽室に求められる性能が異なります。
今回の物件で音楽室に貼っているのは、
50mmの吸音ボード。
入居される方によって弾く楽器は様々でしょうから、
「私の楽器なら、もうちょっと反響させたいな」
みたいな要望があれば、
無料で反響板を追加設置しようと思っています。
グループ会社の木工所で反響板をすぐ用意して、
後付で設置するなんてことは、
お茶の子サイサイですから。

音楽室の広さは7畳あります。
グランドピアノを置いてもまだ少し余裕があるので、
たとえばピアノと他の楽器とのセッションなんかも
できるくらいのゆとりがあるんです。
逆に、孤独に一人でオカリナ弾きたい
という人ももちろんオッケーですよ…。

天井までの高さは2,213mmあります。
普通の部屋よりも低めですが、
他社が出している
後付の音楽室ユニットみたいものに比べると、
格段に開放感がありますね。
これだけの高さを確保した理由のひとつが、
バイオリンなんです。
つまり、立ってバイオリンを弾いても
弓が天井にぶつからないくらいの
サイズ感にしたかったから。
まあ、アンドレザジャイアントくらいの方が
弾くとちょっと厳しいですけど。
あ、また例えがわかりづらいですか。

さらには、グランドピアノの貸し出しも行います。
実は、現在3台のグランドピアノが
我が家にあるんですよね…。
そのうち2台をこのマンションの貸し出し用に
しようと思っています。
1台は娘が学生時代使っていたもの。
もう1台はお客様から譲り受けたものです。
ちなみに後者はオーバーホールで、
●00万円かかったんですよ…。
え?
そのメンテナンス費用を回収するために
レンタルにしようとしているんじゃないかって?
いやいや、借りやすいように
月1万円台を予定していますから!
ただ、毎月利用者の方には恩着せがましく、
「●00万円のメンテナンス費用がかかった
ピアノをご利用いただき、ありがとうございます。
いえいえ、全然気にしなくて大丈夫ですから!」
と伝えるかもしれませんし、
伝えないかもしれません。

この音楽室を楽器の演奏に限定せず、
「周囲を気にせず、気持ちよく音が楽しめる場所」
って考えると、用途が次々と思い浮かびますね。
たとえば、動画配信をやりたい人、
いわゆるYouTuber。
動画収録って大きな声を出したり、
音を出したりするものなので、
近所迷惑にならないように
気をつけてやるって聞いたことがあります。
この部屋なら思う存分できるでしょう。
あとは音楽家の方。
最近のアレンジャー(編曲家)って、
ノートPC一台で作業をやっちゃうらしいですね。
となると、この物件は仕事場として、
ちょうど良いのではないでしょうか。

たまたま音楽科のある学校の近くですが、
社会人の方ももちろんウェルカムです。
自慢のオーディオで大きな音を出したいとか、
シアタールームが欲しいとか、
ダンスを踊りたいとか、
芝居の練習がしたいとか、
カラオケ大好きな人とか、
ただただ静かな部屋が欲しいとか。
みんなウェルカムですよ!

てな具合に、
この物件のことを語り出したら、
止まらないんですよねぇ。
つくっている私たちが
一番楽しんでいるのかもしれません。

音楽室のある賃貸マンション。
こんな風変わりなことを企画して形にできるのは、
娘がピアノをやっていたり、
ピアノ専門の運送屋さんと仲が良かったり、
調律師さんの友達がいたりするからだと
思っています。
何より私自身が音楽好き。
個人的にある程度の知識や肌感覚があるから、
アイディアを出して、イメージを膨らましていける。
そう思っています。
ただ、正直言って、
この物件が成功するかはわからないですね。
私としてはマーケットを知れればいいんです。
音楽室というものが
どれくらい札幌で必要とされるのか、を。
それがわかれば、
また次の展開を考えていけますから。

「でも、そういう物件が札幌に少ないのって、
コストがすごいかかるからで、
みんなが手を出さないんじゃないの?」
お、どこからか良い質問が飛んできました。
ええ。
莫大なコストがかかりそう、って思いますよね。
でもね、意外とそこまでじゃないんです。
これも数多くの物件を手掛けてきた私たちだから、
計算ができるという強みがあります。

「でも、脇坂さんのことだから、
希少価値のある物件ってことで、
家賃を高くして、
ガッポガッポ儲けようとしているんじゃないの?」
誰だ、本当のことを言うのは!
いやいや、それはないです。
前述の通り儲けるだけなら、
他社のように“効率良い”物件をつくったほうが
よほどいいですよ。
皆さんの想像よりも、
こういうのって儲からないですから…。
じゃあここで気になる家賃を発表…
…しようと思ったのですが、
先日周囲に予定している家賃を伝えたところ、
「それ、安すぎじゃない?」
「電卓持ってる?」
「それなら自分が借りて、転貸する!」
とか散々言われたんで、再度検討中です。
でも、リーズナブルなものにはしたいと思っています。
音楽をやっている子を持つ親の一人として、
経済的な負担が
なかなか痺れるレベルってことは、
よく知っていますからね…。
音楽を志した若者達の負担を減らして、
応援したいっていう気持ちは当然あります。

先日お話しした、
札幌の若い音楽家さんの言葉が
今でも頭に残っています。
「札幌は本当に音楽を練習する上で、
環境が悪い。
練習場所が全然ないんですよ…」
音楽は練習してナンボですよね。
素人の私でもわかります。
つまり環境が非常に大事。
その一助にこのマンションがなれるといいですよね。
私には見えるのです。
10年後くらいに、レコード大賞の、
いやグラミー賞の授賞式で
「私の歌を磨いてくれたのは、
脇坂工務店の賃貸マンションでした。
この賞を脇坂さんに捧げます…!」
とステージで語っているアーティストの姿が…!
このマンションが、
札幌の音楽シーンの盛り上がりに
1mmでも貢献できることが、私のささやかな夢。
どんな音がここから生まれるのか、
楽しみで仕方ありません。

というわけで、
こんな情報がどこから幻●舎に漏れたのか…。
タレコミは困るなぁ…
なんて半笑いで思っていたら、
幻●舎の女性担当者から
一度ぜひお話ししたい旨、手紙が届きました。
そこで待ちきれない私は直接TELしてみたんです。
すると彼女からは
「ぜひ、脇坂さんのユニークな取り組みを、
当社の書籍で紹介したく…」

ほら、きた!

「脇坂工務店さんを特集する形になります」

仕方ないな、グラビアもつけちゃいますか。
文字通り一肌脱ぐってことで…。

「つきましては、
5〜600万円ほど支援金ということで
いただければと…」

うんうん、5〜600万円ね。
そうね、本を作るのにお金かかりそうだものね。
わかるわかる。

…って、お金取るんか!

経営者を相手にした
いわゆる出版ビジネスの営業だったようです…。
夢の印税生活が…。
私もまだまだのようですね。
その時が来るまで、
いつ脱いでもいいようにカラダ絞っておきます。

脇坂肇