「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2021年12月17日 更新

#32

任せるということ。

脇坂肇

いやー、本当にたいしたことない話なんです。
実は当社のラジオCMが
全国規模のコンテストで受賞しまして。
や、本当にたいしたことないCMなんですよ。
NY在住のピアニストを起用して、
コロナ禍にも負けずに、
長時間にわたる大規模ロケ(当社比)を
敢行した程度なんです。
まあまあ、私も悪い出来だとは
思っていなかったんですけどね。
また、自慢しているみたいに見られるかなー
なんて思って、
人から聞かれない限り、
自分から話そうとしていなかったんですが…。

あ、もういいですかね、こういう戯れは。
正直に言います。
すごい気に入っていたCMだから、
すごい嬉しい…!
自慢したくてたまらない!!

C M

あれは2015年のこと。
当時作ったラジオCMが、
「JFN賞」を受賞したことがあります。
その時のエピソードはこちらに詳しいです。

以降も、ちょこちょこCMは作っていました。
2019年は会社が25周年だったので、
それに合わせたCMを作ってOAしたりとか。
そして、2020年。
2019年以前に流していたCMに
戻す選択肢もあったのですが、
ずっと変わらないというのも
自分的には好きじゃない。
そこで、新しいものを作ってもらうべく、
AIR-G’さんに依頼したんです。
ちょうど当社がスポンサードしている番組の
パーソナリティも、
森さんから松尾さんにスイッチしたタイミングだし、
CMを変えるのもいいだろうと。

制作がスタートしたのは、
2020年の2月ごろでした。
いくつか提案をもらって、
その中から、次の企画に決めました。

【ラジオCM40秒 「ピアノ」篇】
BGM ♪〜
(Jazzピアノ。かなりアグレッシブな演奏)

女性:
今日、ピアノの調子が出てきたのは、
午前3時のことでした。
午前3時。
そして、ここは…
(演奏がフィナーレを迎え、静かになり)

女性:木造住宅の我が家です。

BGM ♪〜(再び演奏が始まる)

NA(男性):
音楽室のある木造住宅だって建てられる。
期待を越える家づくりなら、
話のわかる工務店
脇坂工務店

…といったCMです。
2015年に作ったCMと切り口は同じであるものの、
当社の売りのひとつである、
音楽室のある家の特徴を、
うまく表現できていると感じたのが
決め手でした。

企画は決まった。
じゃあ、CM内で流れるピアノ演奏はどうしようか。
すぐに一人の顔が思い浮かびました。
野瀬栄進さん。
小樽出身のピアニストです。
私の知人たちが応援していたこともあって、
昔から何度もライブに足を運んでおり、
勝手知ったる仲です。

ただひとつ問題があって、
彼の活動拠点はニューヨーク。
日本にいないと、どうしようもありません。
制作チームとの打ち合わせの場から、
すぐ彼にTELしてみたんです。
すると、日本にいるじゃありませんか。
なんでも、2019年末に帰国して、
年明けにNYに戻ろうとしていたら、
コロナのせいで帰国できなくなったと。
しようがないから道外にツアーに出ていたら、
私からTELがかかってきたという次第。
なんたる幸運。
ある意味、コロナ禍じゃなければ、
実現しなかったオファーでした。

企画や趣旨を説明したところ、早速
「どんな曲がいいですかねぇ」
なんて話になりました。
既に私の中には一曲思い浮かんでいたんですが、
ここはアーティストを尊重して…
と思って黙っていたところ、
彼がある曲名を口にしました。
「Nostalgia Otaru(ノスタルジア オタル)」
まさに私が思い浮かべていた曲だったのです。
彼のレパートリーの中でも、
私が特に好きな曲のひとつでした。

4月中旬、演奏の収録が、
音楽室のある脇坂工務店本社で行われました。
野瀬さんと録音担当の音声さんが部屋に入り、
何度も何度も演奏。
40秒のCMのBGMを録るのに、
1時間以上かかったと思います。
特にCMの前半部、
ピアノだけが聴こえるところは
何テイクもやってもらいました。
というか、野瀬さん自身が納得いくまで
何度もやり直してくれました。

後日、AIR-G’のスタジオで、
今度はナレーターさんのセリフを収録し、
ピアノ演奏とあわせて編集。
完成した音源を聞いた私は、
「これ、賞取れるんじゃないですか…!」
とつぶやいていました。
それくらい良い仕上がりだと思ったのです。

2021年の秋、
そんなお気に入りのCMが、
JFN賞2021」で見事受賞を果たします。
JFNとはジャパンエフエムネットワークの略称。
TOKYO FMをはじめとしたFMラジオ局が加盟しており、
その系列局からエントリーされた
CMのクオリティを競うのがJFN賞です。
脇坂工務店の「ピアノ篇」は、
エントリー総数125本の中から、
北海道・東北地域ブロックの奨励賞に選出されました。
私の予言が見事的中です。
2015年の1回目の受賞より
良い成績ではなかったものの、
これはこれで嬉しいものです。

さらに、表彰されただけにとどまらず、
実際販促にもつながりました。
例えば、札幌にUターンされてきたご夫婦のケース。
奥さんがピアノをやっており、
演奏ができる家にリフォームをしたくて、
会社を探していたそうなんです。
その時、たまたまカーラジオから流れてきたのが
当社のCM。
「これだ!」と思って、
わざわざ社名をすぐスマホにメモされたとか。
現在、商談が進行中です。

もう一人はサックスをやっているお客さま。
同じくリフォームのご相談を受けて、
1部屋を防音室にチェンジ。
思い切り演奏できる環境が整ったと
お喜びいただいています。

もともと、このCMは
売り上げにつながるような販促ではなく、
当社の考えやユニークさを伝える
企業CMと位置づけて作っていました。
でも、結果的に営業活動につながったのは、
嬉しい誤算でしたね。

ちなみに野瀬さんいわく
夜中の3時に調子出てくるのは、
「ミュージシャンあるある」
らしいです。
そういうリアリティがあったから、
実際に音楽されている方に
響いたのかもしれません。

ところで、音楽室の工事を手掛けるたび、
関連会社に 木工所 があるのは大きい!
とつくづく思います。
防音に重要な役割を果たす、
専用ドアなんかもグループ内でつくれますから。
何かと融通がききやすいということは、
お客さまに対して、
細やかな対応ができるわけです。
これが噂のシナジー効果ってやつですかね…!

この音楽室を題材にしたCMは
今後もシリーズみたいな感じで
続けていきたいですね。
次はどの楽器がいいかな…。
尺八とか和太鼓とか…。
あ、歌っていう手もありますね。
ヨーデルとか。
辛いことがあった時、
夜中の3時に突然、
「ヨォーロレイヒー!!!」
と歌いたくなること、
誰しもあると思いますから。
私はあります。
ええ、疲れているのかもしれません。

他に当社が獲得した賞といえば、
日本サインデザイン賞です。
こちらは、
「サインデザインの普及、啓発を目的に設けられた
日本唯一のサインデザイン顕彰事業」
だそうです。
当社が銭函で手掛けた賃貸アパート、
Seaside Village ZENIBAKO
のデザインで、
2020年に北海道地区賞を受賞しました。
白老町のウポポイ(民族共生象徴空間)と
並んでの受賞です。
ウポポイを手掛けたのって
世界の竹中工務店ですからね。
これも、けっこうすごくないですか!(ドヤァ)

この仕事の成り立ちを少しお話ししますと、
「Seaside Village ZENIBAKO」
を建てるにあたって、
やはり他と違うことがしたいと考えて、
建物壁面に何かしらのデザインを
大胆に施そうというアイディアが出てきました。
そこで、この建物を手掛けた設計士さんが
紹介してくれたのは、
若い女性のデザイナーです。

提案をいただいた案は、
直線的なデザインと、曲線的なデザインの2方向。
好みを聞かれた私と設計士は、
直線的な案を指差しましたが、
彼女のおすすめは曲線的なものでした。
そこで私は
「キミキミ、わかってないね…。
や、若いから仕方ないかもしれないけど、
建築物におけるデザインっていうのはね…」
とは一切言わず、
デザイナーさんを尊重して、
彼女のおすすめである曲線案を採択しました。

というのも、私と設計士は50代のおじさん。
対して、彼女はふたまわりくらい若い方。
私は、
「おじさんの意見を言うのは、やめよう!」
と仕事がスタートする時に決めていたんです。
案の定、仕上がった建物を見て、
うちの奥さんをはじめとした
周りの女性たちは
「このデザインかわいい〜!」
と褒めてくれました。
もちろん、
「そうそう、最初に見た瞬間に
このデザインだ!と思っていたんだよね…」
と私が遠くを見つめながら、
アピールしたのは言うまでもありません。
(デザイナーさん、ありがとうございます。
私たちの目がやはり節穴でした!)

いやー、今回は自慢続きで、すいません。
工務店の社長をやっていても、
普段は誰も褒めてくれないから、
こうやって褒めてもらえると
嬉しくて、つい…。
実はですね、
当社はミシュランでも3つ星をとっているんですよ。
どういうことかって言うと、
我々が内装を手がけた札幌市内の某お寿司屋さんが
ミシュランを獲得したんです。
(もう移転しちゃったので、
内装は残っていないのですが)。
ただ、あれはお店が表彰されることであって、
うちらはあくまで裏方。
陽の目が当たりません。
だから、こうやってCMとかサインとか、
自社の取り組みが褒められることは
すごくうれしいんです。

あ、今回伝えたい本題ってのは、
私の自慢じゃなくてですね、
どうすれば表彰されるような仕事が生まれるのか、
ということです。
その秘密は…。

その秘密は、
「任せる」ってことです。
自分でやらずに、誰かに任せる。
非常にシンプルな話ですよね。
CMや壁面のデザインとか、
当然その道のプロに頼むわけです。
その際、私は基本的なことだけは伝えて、
つくる内容については任せてしまいます。
そりゃあ、
こちらはお金を出しているクライアントという立場。
それを利用すれば、自分の意見は通るとは思います。
出てきた案に対して

「うーん、なんかグッとこないというか、
ハッとしないというか…。
もっとこうドカーンと反響ありそうな
やつにしたいんだけど…。
あ、ひらめいた!
この曲線を、いい感じに
波線にすればいいんじゃない?
どう?どう?」

みたいなことを私が言ったとしましょう。
でも、それだと裸の王様になってしまいます。
きっと作り手のほうは、
「このおじさん、全くわかってないな…。
そうすると変なものになるのに…」
と思いつつ、
私の要求通りのことをやるでしょう。
そうすると、ほら、
「裸の脇坂」の一丁あがりです。
子どもが完成したデザインを見て、
「ママ〜、変なデザインがある〜!」
と大声で叫ぶはずです。

デザインのケースであれば、
私と依頼したデザイナーさん、
どっちがデザインの技術があるのかっていうと、
当たり前ですけどデザイナーさんですよね。
自分は素人ですから。
オファーするということは、
その人に“ステージ”を預けているわけで。
だから、変な口出しをしないで任せるのが大事です。

先ほどのCMだって、
万が一私がピアノ経験者で、
「お、じゃあ僕が弾いちゃおうかなぁ」
と周囲をチラ見しながら言い始めたら、
「それ最高じゃないっすか!よっ!さすが社長!」
とみんな言い始めたことでしょう。
そして、CMはグダグダに仕上がるものの、
満足そうな私がいたら、
誰も何も言わないはず。
そういう危ない立場に自分が置かれていることを
自覚しています。

逆に、依頼をされた方も任せられると、
良いプレッシャーになると思うんです。
すると、お金以上のパフォーマンスを
してくれるものですよ。
そんなケースを何度も私は経験してきました。
あと、仕事を頼む際に、
上とか下とか一切ないと思っています。
みんな、お金を払う人が上だと思うから、
おかしなことになるんですね。

私の経営者仲間も同じように
任せるスタイルを取り入れ始めていると聞きます。
誰が呼んだか知らないですが、通称「脇坂方式」。
私は、すごくいいことだと思っています。
こういう経営者が増えれば、
世の中にもっと面白いものが
たくさん生まれるんじゃないでしょうか。

じゃあ、任せる相手はどう見極めるのか。
私の場合は人からの紹介が多いです。
これも自分は素人だと自覚しているから、
人の薦めに耳を傾けるほうだと思います。
で、まずは頼んでみる。
相性があうようなら、
継続してお任せしていく感じです。
家の建築においても、
設計士を誰にするか決めたら、
あとはその人に任せてしまいます。
営業である私の役目は、
彼ら彼女らの仕事が
うまくいくようにサポートすること。
決して前面に出ません。
え?信じられないって?
オンステージになりそうだって?
まあ、気持ちは裏方です、気持ちは。

任せるとは言いつつも、
最低限自分の中に判断材料を持っておく必要はあります。
だから、
「いま、マーケット起きていること」
は常に知りたいと思っています。
いわゆる「世の中の空気」ってやつです。
商人としてはすごく大事にしているところですね。

じゃあ、どうやってそれをつかむのか。
それも至極単純で、
「人と会う」ってことです。
メールの文字だけじゃ伝わらないこと、
表情とか雰囲気とか、ノリとか、たくさんあります。
テクノロジーの進化で、
人と会うのが億劫になりがちな昨今ですが、
人の目を見て話すことから、
たくさんの情報が得られます。
(実際、科学的にも人の表情には、
ものすごい情報量があるらしいですね)
心の奥底まで覗くなら、
リアルに会わないといけません。

私はいまだに現場に出て、
お客さまや取引先とたくさん会い、
そこで感じたことから、
マーケットをキャッチしようとしています。
ほとんど同業者は見ていないですね。
異業種、たとえば飲食店とかの動向は見ています。
ザンギ屋が流行っているな、とか。

かたや、
ちょっと矛盾しているようですが。
そうやってマーケットのことを気にしながらも、
自分は既にズレているとも思っています。
というのも、
バリバリ昭和世代の上司に育てられた私は、
ものすごく昭和が体の中に
残っていることを自覚しています。
早く令和な、
いや、せめて平成な体になりたい!
と思ってはいますが、もう無理でしょう…。
だから、「今」をキャッチして、
さらにそれを形にできる人たちに頼んで、
任せたほうがいい、ということです。

というわけで、
受賞したCMの話をきっかけに、
私の仕事論めいたものをご紹介しました。
今後、当社の取り組み、
たとえばCMとかから
そこはかとないバブル臭とか、昭和臭がし始めたら、
私にそっと教えてください。
それはきっと
「任せる」という基本を私がないがしろにして、
口出しし始めた証拠ですので…。

「チョベリグな工務店を探しているなら、
脇坂工務店。
話のわかる感じ、
マジヤバイ〜ゲロゲロ〜♪」
みたいなCMになっていたら、
危険信号です。

や、それだともう手遅れか。

脇坂肇