「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2021年10月22日 更新

#30

【募集職種】弟子

脇坂肇

最近、毎月お便りをいただきます。
封をあけると、
「あなたの会社を買いたい会社があります。
つきましては一度ぜひお会いして、
お話する時間をいただけないでしょうか…」
みたいな溢れんばかりの熱い思いが、
手書きの文字でびっしりと綴られています。
どうやらいわゆるM&Aを仲介する会社の
ダイレクトメールのようです。
ただ、手紙をよくよく見ていると、
手書きではなく印刷なんですよね…。
こういう手紙を受け取るたび、
私は心の中でつぶやくのです。
「M&Aより、弟子…」と。

2020年、3名が脇坂工務店を退職しました。
2名は転職、1名は定年退職です。
それぞれ次のキャリアに向かっての決断なので、
円満退職だと思っています。
(定年を迎えた彼は、
当社の関連会社で再雇用していますし)

とはいえ、「3名減」というのは、
当社のような中小企業では結構なダメージです。
やはり人を補充しないと仕事がなかなかまわりません。
そこで2021年に入ってから、
ネットの求人広告で募集を始めたのです。

結果、何人採用できたかというと…
3名です!
採用活動に少しでも関わっている方なら、
この数字がなかなかのものだということ、
わかっていただけるのではないでしょうか。
超大手企業でさえ採用に苦労していて、
「人がいない、人がいない」
とみんな口を揃えるこのご時世に
奇跡みたいな話ですよ、ホント。

三人の内訳ですが、
一人は当社社員からの紹介でバリバリのベテラン。
現場監督として入社してくれました。
もう一人は、
元ハウスメーカー勤務。
一級建築士の資格を持っていて、
設計図を書くことができます。
他の工務店もきっと欲しがるような人材ですね。
求人広告経由で応募してくれたのですが、
志望動機を聞いてみると、
建築業界では有名な業界誌「新建築」の住宅特集を、
読んだことがきっかけのひとつだったとか。
その号には当社が施工を担当した
蘭越町の「森の中の家」が掲載されており、
「こんな家を建てられる会社なら
きっと面白いに違いない」
と思ったそうなんです。
建築大好きなんですよ、彼は。

で、最後の一人は前職が設計事務所勤務。
彼の職場ではラジオが常にかかっていて、
私が出演している番組を毎週聞いていたとのこと。
当社に「面白そうな会社」という印象を持って
応募してきてくれました。
私の話を面白いと思ってくれる時点で、
ある程度価値観のすり合わせが
できているのが良かったです。
まったく私のことを知らない人に
あのラジオの調子で話し出したら、
引かれる可能性もあるじゃないですか…。

ちなみに、同時期に子会社のKai建築でも
木工職人を同時募集したんです。
なんと40代の経験者が2名も採用できました。
この職人の募集で経験者が来るってのは
超レアなんですよね。
そもそも人材が全然いない業界ですから。
しかも、一人はこんなことを言ってました。
「前職の職場ではラジオが流れていて、
AIR-G’だったんです。
社長が出ているコーナーをいつも聞いていて、
ああいう感じの会社の子会社ってことなら、
楽しく働けそうだと思って応募しました」
って、もうラジオ局の仕込みなんじゃないか
と思うくらいのエピソードですよね…。
「ラジオ局が
是が非でもスポンサー契約を継続したくて、
送り込んだ刺客?」
と彼らを尋問しそうになりましたから。
やはりラジオのパワーはすごいです。
ラジオ局が調子に乗りそうだから
言いたくないけど…!

かつてはハローワークや求人誌が
メジャーでしたけど、
今や求人といえばネットですよね。
ただ、当社の場合はお話したとおり、
ラジオがかなり機能したってところが特殊でしょう。
これまたラジオ局の人が
「でしょ?」
とドヤ顔しそうなんで言いたくないけど。

体力のある大会社なら、
“間接的”な広告ってできると思うんです。
タレント使って予算をがっつりかけて、
イメージをつくっていくようなTVCMみたいなことです。
それで結果的に商品も売れるし、
知名度がある安心感から採用にもつながる。
かたやほとんどの中小企業は
セール告知のチラシみたいな
“直接的”な広告しかできません。
やはり予算が限られていますから。

でも私は地道にラジオで
“間接的”なことをやってきました。
うちのような中小企業でも知恵をしぼれば、
大企業もびっくりするような成果が出せるなんて、
面白いなぁとつくづく思います。

そんなふうに採用に恵まれつつも、
人材に関して、私はある挑戦をしようと思っています。

2022年12月に私は還暦を迎えます。
恐ろしいですよね…。
というのも、前回歳男だった48歳の自分から、
たいして成長してないように思うからです。
頭の中身も変わっていないですし…。
「ワッキー、カンレキ!」
この見出しが何よりの証拠でしょう。
「ヒデキ、カンゲキ!」
っていうフレーズが
昔むかし、流行ってですね…。
それと還暦をかけてですね…。

ほら、48歳の頃の私を知らない人でさえも、
「あ、この人、絶対変わってないな…」
って感じたことでしょう。

それはともかく、
還暦という節目でひとつ決めていることがあります。
それはラジオからの引退。
2023年の春以降はもう出演しないつもりです。
よって、弟子を募集しようと思ったわけで。
え、言ってることがわからない?
ラジオに出なくなるから、弟子?
ええ、たしかに意味不明ですよね。
論理的にかなり飛躍しています。
じゃあ、そこに至るまでのお話をしましょう。

中小企業の事業承継が、
ちょっとした社会問題になっていること、
ご存知ですか?
団塊の世代が引退する年齢になってきて、
会社経営を次世代に承継しようにも、
後継がいないところが多々あるのです。
身内が継ぐ気がなかったり、
経営を担える人材が社内にいなかったり、
と問題はさまざま。
廃業理由は承継だけに限らないものの、
2019年時点で年間4万件ほどの
中小企業が廃業しているというデータもあります。
これはなかなか厄介な国の問題です。

ラジオをやってきたこの10年間を振り返って
反省するのは、
自分のあとを任せられる人材を
会社でちゃんと育ててこれなかった、ということ。
正直、自分の後継者のアテがないんですよね…。

そんな状況を見透かしてなのか、
冒頭のとおり、M&Aのダイレクトメールが
毎月会社に届くわけですよ。
私はM&Aって言葉を目にして、
「マーシャルアーツ?」
って思いましたから。
ベニー・ユキーデってご存じないですか。
1977年8月にキックボクシング界に
彗星のように現れた選手を。
M&Aを仲介する会社もまさか
DMを見て、
私がマーシャルアーツを想像しているとは
夢にも思っていないことでしょう。

もし仮に、
他社にマーシャルアーツ、
じゃなかったM&Aされたとしましょう。
全然知らない人たちと仲間になるわけですよ。
万が一ヤ●ザみたいな会社に吸収されたりしたら、
社員たちもイヤだろうなぁ、とか想像してしまいます。
社長室に急に日本刀が置かれるようになった、
みたいな。
逆に買収した企業側も
「なんか、元社長が昼間から海パンで
銭函海岸をうろうろしていて、
やりづらいんですけど…」
となるのではないでしょうか。
とか考えていくと、
うちみたいな独自路線を歩んでいる会社には、
M&Aはあわないはず。

M&A仲介業者の方、
ここまで読んでまた手紙を送ってこないでくださいね。
高度なフリじゃないですから…。
念には念を入れて、
「M&Aすると、ここはヤバそう…」
って、もっと思ってもらったほうが良いのだろうか。
私の銅像が会社に立っているとか、
私の顔写真入りTシャツが
制服になっているとか。
や、これだと
「この会社、社長がヤバいのに業績は好調。
ということはM&Aすれば、
すごい伸びしろがある!」
ってなってしまうのか。
ダメだ。

M&Aは当社には合わない。
そこで、M&AよりD&Sです。
D&SとはDe-Shi、
つまり私の「弟子」です。
落語などの芸事の世界のように、
脇坂工務店という“一門”に入ってもらい、
私のあとをつげるような人材へと育てていく。
そんなやり方が、
当社に一番ふさわしいのではないかと
最近思っています。
私、落語好きですし。

弟子の具体的条件ですが、
それははっきりしています。
建築業界で、営業職の経験がある人ですね。
営業ってことは、
お客さまと楽しく会話ができるということ。
それができさえすれば、
たとえばラジオに出演して
会社の広報担当として
話ができるんじゃないかと思っています。

話すことを重視するのは、
誤解を恐れずに言うと、
私の仕事って「しゃべり職人」だと思っているから。
その、しゃべりの技術を継承したいんです。
同じことを口にしても、
丁寧な印象を与えることもあれば、
すごい上から目線に思われることもある。
これって技術だと思っていて。
継承できるはずなんです。
営業活動において、
関係するすべての人たちの気持ちを
いかに心地よく動かして、
ひとつの目的に向かっていけるか。
そのための話術です。
変に人を操るってことじゃないですよ。
当然、絶対的なマニュアルがあるものじゃないので、
私との会話を通して伝えていきたいですね。

もともと営業をやってきたから、
私はある程度の素地があったとは思うのですが、
やはりラジオで話術が鍛えられたのは間違いないです。
今となっては信じられないとよく言われますが、
出演を始めた頃は、
ぜんぜん思うように喋れなかったですからねぇ…。
それが、この10年ほどで話術の向上とともに、
経営者としての技量も上がったのでは…
と僭越ながら感じています。
少なくとも私の場合は、
“話芸”と経営は相関関係にあるんです。

じゃあ、
弟子に引き継いでいきたい具体的な仕事内容は何か?
って話です。
「え、脇坂さんの仕事って
ラジオで話しているだけでしょ?」
と思った、そこのあなた!
正解!

いやいや、
それも正解だけど他にも色々あるんですよ…。
ざっとあげると
・新築住宅の間取りの打ち合わせ
・土地の活用についての企画・プロデュース
・住宅用地の仕入れ
・金融機関との打ち合わせ
・収益不動産の査定・売却・所有
・広報活動
・数字の管理、社員のマネジメント
・中長期の営業方針立案
といった具合にものすごく幅広いんです。
ラジオに出ている、
ただの愉快なおじさんではないのです。

これだけ幅広い仕事内容ですから、
一朝一夕で身につけてもらうことは無理でしょう。
正直、M&Aなのか、
ヘッドハンティングでプロ経営者を雇ったほうが、
こちらとしてもラクです。
もしくは会社を畳むとかね。

じゃあなんで、
弟子をとって、育てることまでして
会社を存続させたいのか。
それはお客様がいるからですね。
現在お客さまの数は5000軒ほどあります。
お客さまの暮らしを支えるのが自分たちの使命。
「脇坂工務店、やーめた!解散!」
って軽々しく言えない職業です。
その方々が住まいに何か問題が発生した時に、
どうするのか。
や、もちろん世の中にたくさん同業者はいます。
代わりはいるから実際問題、
お客さまは困らないかもしれない。
でも、
自分たちの仕事に責任を持ちたいじゃないですか。
お客さまの人生を預かる住まいを
建てているわけですから。
工務店の矜持ってやつです。

と言いつつ、
「1000億円くらいでM&Aしましょう」
というオファーがあったら、
「よろこんで!」
と某居酒屋ばりの
威勢のいい返事をするかもしれません。
そうなったら、生暖かい目で私を見てください。

冗談はさておき、
やはり脇坂工務店という会社に思い入れがあります。
ちゃんとやりたい。
仮に私が70歳で仕事から引退するとしたら、
60歳から10年ほど時間をかけて
弟子を育てていく覚悟です。
いきなり弟子から
次期経営者という“真打ち”にはなれないですからね。

まずは“鞄持ち”からスタートしてもらいます。
四六時中、私と行動をともにして、
仕事を肌で感じてもらいながら、
教えていくスタイルをとりたいです。

え、待遇はどうかって?
奴隷のように働かされそう?
焼きそばパン買ってこい!って言われそう?
いやいや、ないです、ないです。
もちろんちゃんとした待遇を整えます。
家族を持っていたりすると、
昔の丁稚奉公みたいなお駄賃システムだと
厳しいでしょうから、
他の社員と同じ給与形態を考えています。

もちろん、弟子からスタートして、
私の跡継ぎまで成長したら、
次期社長ですから、
相応の報酬になる可能性は十分にあります。
年収5000万とか1億とか…。
まあ、通貨単位が円かUSドルか、
はたまたベトナム・ドンかはわかりませんが…。
ちなみに1億ベトナム・ドンは
本日時点で49万1123円でした。

幹部候補とか募集する会社は数多あるでしょうけど、
こんな弟子を募集しているところなんて、
なかなかレアじゃないでしょうか。
冗談みたいな話ですが、本気ですよ。
ご興味のある方、
お問い合わせお待ちしています。

「あれ、横にいるのは新入社員の方?」
と聞かれて、
「いやいや、私の弟子なんですよ」
と答えられる日が来るのが楽しみです。

脇坂肇