「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2020年10月20日 更新

#18

ドアノブから豪邸まで。

脇坂肇

今、私は悩んでいます。
渾身のすべらない話がすべる…
とかではなく、
ダンスの動きのキレが悪い…
とかでもなく。
最近、ちょこちょこ耳に入ってくる
こんな声に悩んでいるのです。
「脇坂さんの会社って、
豪邸を建てるみたいな、お高い仕事しか、
もうやらないんですよね…?」
「もう遠くに行っちゃったんですね…」
「脇坂さんってあんなにラジオで喋りまくってるけど、
本当に工務店の社長なんですか?」
いやいやいやいやいやいやいやいや。
誤解ですから…。

事の発端は脇坂工務店のWebです。
ご覧頂ければお分かりになる通り、
ちょこちょこ施工実績の写真や動画を
アップしているのですが、
そこに並んでいるのは、手前味噌ながら、
素敵&立派なお宅ばかりです。
先日動画をアップしたこちらなんて、
ものすごいですよね。
その名も「森の中の家」です。
施工した会社の社長が言うのも何ですが、
これどうやって建てたんだろう…
と笑えてくるレベルのすごさです。
(現場監督と職人たちが頑張ってくれました!)

で、今の時代、
家を建てようかと考えている人がいて、
どこに依頼するか検討されていたら、
まず間違いなくインターネットで探すと思います。
そして良さそうな設計事務所なり工務店なりがあれば、
その会社のホームページをくまなく見ますよね。
私が逆の立場でもそうします。
で、見た時に、
こんなお宅あんなお宅があると、
「あ、ここは違うな…」となって、
そっとパソコンを閉じるかもしれません。
「ここまですごい家を建てる余裕はないな…」
と思ってしまう人がどうも多いようなのです。

しかも、こんな施工実績をUPしている工務店の社長は
きっと真っ白なスーツ着て、
極太の金のネックレスをして、
パンチパーマで、チワワを抱いてて、
足元から頭の先までじっとりと眺めてから、
開口一番、
「で、いくらお金もってはるんですか?」
って関西弁で言いそう…
みたいなイメージを持たれているのではないか!
そう考えると夜も眠れません。
(昼寝はしています)

待ってください、私の言い分も聞いてください。

これまでの「わかる話」でも書いている通り、
そもそも脇坂工務店って
リフォーム事業からスタートした会社です。
当初は年間600〜800件ほど
リフォーム工事を手がけており、事業は好調でした。
しかし、徐々に強豪が増えてきたんです。
私たちのような工務店だけではなく、
ホームセンターや家電量販店までもが
リフォーム事業に進出してきたんですね。
この先商売がやりにくくなりそうだなぁ…と考えて、
新築事業を始めることを決断しました。
で、やるからには他とは違うことをしないと。
そうだ、建築家が手がけるデザイン性が高い家を
リーズナブルに提供できれば
お客さまにも喜んでもらえるのでは…。
ということで、
「NEO DESIGN HOUSE」という
ブランドを立ち上げたのです。

「NEO DESIGN HOUSE」は、
当社が窓口となってお客さまの要望をヒアリングし、
理想の住まいを建てるのに
ベストな建築家を推薦してタッグを組み、
一緒に進めていくやり方です。
立ち上げ当初はコンパクトな家を
手がけることが多かったですのですが、
そのうち逆に建築家さんのほうから
「自分のところに設計依頼がきた住宅なんだけど、
脇坂さんのところで施工できます?」
という相談が増えてきました。

なかには建築家が考える家らしく、
デザイン性のかなり高いものもちらほら出てきます。
そういうのって、施工を担当する工務店から見ると、
まあ難易度が高いわけです。
端的に言うと、敬遠する工務店も多いんですよね。
私も図面を見ては、
たまに白目になったり半目になったりしています。
こりゃ手強いぞ、と。
とは言え、私としては
せっかく頼んでくれた建築家さんの期待に応えたい。
なので、技術力の高い現場監督や職人を
増やしていきました。
すると、その仕事をぶりが認められて、
さらに難易度の高い案件が来るようになって、
それをクリアしたら、現場監督や職人も成長して…
みたいなことを繰り返して今に至ります。

さらには、
自社の存在を知ってもらおうとして始めた
ラジオ番組の効果もあって、
「北海道 工務店」といったワードでネット検索すると
上位に上がってくるようになりました。
すると、道外からも問い合わせが
ちらほら舞い込み始めたのです。
たとえば、フロリアンブッシュ建築設計事務所。
冒頭のものすごい家の設計をした事務所です。
東京に拠点を構える彼らが
ニセコの家を建てることになり、
施工を任せられる会社を探していたところ、
うちのWebにたどり着いたとのこと。
難易度は高かったものの、
無事に納めることができた
彼らとの初仕事がこの「樺山の家」です。

すると、
あのフロリアンブッシュが手がけたということで、
どうも海外の専門サイトに掲載されたようなんですね。
で、それを見た九州の著名設計事務所から、
仕事の依頼が。
最近でも東京や佐賀から仕事の
問い合わせが入っています。

という具合に、いわゆる芋づる式とでも言いますか、
仕事を頑張ってきた結果、
非常に凝った作りの贅沢な家を
施工する機会が多くなってきました。
私たちとしても当然誇るべき仕事なので、
実績としてホームページでは紹介したい。
しかし、それによって
「脇坂工務店って、豪邸しかやらないんだな…」
というイメージが生まれているんだと思います。
こういうのなんて言うんでしたっけ。
二兎追う者は一兎も得ず?
猫に小判?
焼肉定食?
いや違うな。

そういった豪邸を手掛ける一方で、
今でも年間200〜300件くらいは
リフォームの仕事もやらせてもらっています。
それこそ、雨漏りの修理やドアノブの交換とか。
1万円とか2万円のお仕事も喜んでやっています。

私が常に意識しているのは、
「工務店の立ち位置」みたいなものです。
技術的に優れたものを提供するのは、
もちろん仕事の醍醐味。
だから、著名建築事務所が手がける
立派な住まいの建設に携われることは、
当然やりがいがあります。
ただ、もう一方で
工務店として非常に大事だと思っているのは、
古くなってきた家を丁寧に修理しながら
長く使っていただく、ということ。
昔は数多くいた「近所の大工さん」のイメージです。
家の困ったことがあったら気軽に相談できて、
なんとかしてくれる身近で頼もしい存在。
工務店として目指すべき、
ひとつの理想だと私は考えています。
だから、リフォームといったことも
喜んでお手伝いしているわけです。

難しいですよね。
技術力の証明の一つとして、
「すごい家」を施工実績としてあげたいものの、
それしかやらないと思われるのは不本意。
工務店の技術の使い道だったり、
お客さまとの接し方だったりは、
新築の豪邸だろうと築数十年の家だろうと変わりません。
そこは声を大にして言いたいです。
いきなり
「で、いくらお金もってはるんですか?」
とは言わないです。
最終的には「あの…ご予算は…?」と
揉み手をしながらお尋ねしますが。

また、仕事の幅が広いのは、
お客さまへのご提供できる価値にもつながります。
お話した通り、
設計事務所が考えたアイディアを
次々と形にしていったら、職人の経験値があがります。
こういう仕様はこういう風に形にすればいいんだな、
とかが分かってくる。
現場を通して学んだ内容は、
次の現場に取り込み、活かせるのです。
だから、豪邸ではない、
いわゆる一般的な「ふつうのお家」を建てる際にも、
そのノウハウは活きてきます。
あと、変わった仕様には鍛えられているので、
ちょっとやそっとの要望なら、
笑顔で応えられると思います。
(本当に無理なら笑顔で断ります…!)

で、ここからが大事な話なのですが、
尖った部分と丸い部分、どっちもやってますよ、
お高くとまっていないですよ、
というイメージを
どうしたら醸し出せるのだろうかと考えて、
苦肉の策として編み出したのが…

くだらない話やダジャレです…!
ラジオで連発しているのは
別に言いたいから言っているのではなく、
緻密な計算のもとで言葉を選んで言っているわけで。
先日のラジオでは、
冒頭の「森の中の家」が浮かんでいるように見えるのは
どうやって建てているからなのかと
DJの森さんに質問された時
「ハンドパワーで浮かんでいるです…!」
と口にしましたが、それも計算です。
ええ、絶妙に古さのあるフレーズと、
「嘘でしょ!」とツッコめるように残した余白。
その絶妙なバランスを計算し尽くしたギャグ…。
ただ、よくよく考えたら最近はradikoで
道外でもAIR-G’を聴けるので、
フロリアンブッシュや
道外の建築家の耳に入る可能性があることを
すっかり忘れていました。
聴かれていませんように…。

ちなみに、本州の設計事務所に依頼をして
北海道で家を建てようという方は、
海外の方が多いんです。
で、ご想像のとおり皆さまお金持ち。
スケールがちがいます。
それに引き換え、私は庶民派。
びっくりド●キーも好きだし、
歯磨き粉は最後の最後まで絞って使うタイプ。
もともとお金がないところから会社を始めていますし、
月々いくらのローンを組んで、家を建てようか、
みたいな一般的なお客さまの経済観念も
理解できると思っています。
そうです、長々と書きましたが、つまりは、
いつまでも「みんなの脇坂肇」だということを
言いたかったのです…!

脇坂肇