2020年3月24日 更新
#11
「話のわかる」までの話。
その時、私は隣に座った男性に
長年の思いを伝えようかどうしようか、
迷っていました。
そこはススキノの外れにある
すすけた中華料理屋の店内。
宴は盛り上がり、
至るところから笑い声が聞こえます。
幹事の
「じゃあ、そろそろおひらきですかね」
という言葉をきっかけに、
私は意を決して、隣の彼に言葉をかけました。
「あの…、うちの会社の
企業スローガン書いてくれませんか?」
2010年前後あたりに
「デザインブーム」みたいなものが来て、
著名アートディレクターが時代の寵児に
なったようなことがありました。
私の周囲からも
「ロゴを変えたんだよ」とか
「デザイナーにパッケージをお願いしてまして…」
なんて声が聞こえてきたものです。
ただ、デザインに力を入れるところは数あれど、
言葉に力を入れている会社って少ないなと
感じていました。
うちみたいな規模の中小企業において、
お客さまにいかに信頼してもらえるかはとても重要。
大手は安心できるけど…みたいな方は多いでしょう。
なので、特に中小企業は見た目だけでなく、
しっかりと中身がないといけない。
中身ってのは、考え方やスタンスですね。
それはもちろんデザイン的な「外側のもの」で
伝わることもあるけれど、
明確に言葉にできていたほうが
圧倒的に強いし、伝わるわけです。
家に似ていますよね。
いくら見てくれが良くても
土台や柱がしっかりしていないと、
いい家とは言えないですから。
そんなことをつらつら考えながら、
ずっと企業スローガンが欲しいと思っていたのです。
ちなみに、私が言葉にこだわりを持つのは、
かつて営業職を経験していたことが
大きいんだと思います。
たった一言で事態が劇的に良くなることもあれば、
すべて台無しになってしまうこともある。
それを肌身で実感していたからでしょう。
さて、冒頭の中華料理屋から、
さらに時計の針を巻き戻します。
2014年の春ごろ、
当時弊社の営業担当をしてもらっていた
AIR-G’のT中さんから
一本の電話がかかってきました。
「今度、AIR-G‘が
ラジオCMのコンテストに参加するんですが、
脇坂工務店さんのCMを作らせてもらっても
いいですか?」
なんだかよくわからないけど面白そうなので、
二つ返事でOKしたところ、
ほどなくして
「脇坂さんの家で収録したい」と言って、
ぞろぞろと制作スタッフの皆さんがやってきました。
なんでも、脇坂工務店のウリのひとつである
「音楽室のある家」をCMの題材にしたいとのこと。
娘がピアノをひくので、
私の自宅にも音楽室を作っており、
そこで収録したいと。
ちなみに数々の著名なミュージシャンが
そこで演奏して、お墨付きをもらったくらい
防音性能に優れた音楽室なんです。
収録本番では、
いかにもミュージシャンといった長髪の男性が
エレキギターをかき鳴らして、
何か叫んでいます。
どんなCMになるんだろうな…と思いつつも、
それよりもギターの音が外に漏れていないか気になって、
私は家の外で耳をそばだてていたことを覚えています。
や、その部屋でギターを鳴らすことがなかったので、
チェックしたかったんですよ…。
(ちなみに、騒音にならないレベルまで
音は抑えられていました!)
そして、出来上がったCMがこちらです。
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<ラジオCM 40秒 「ギター」篇>
♪〜(激しいギターソロ)
ナレーター(女性)
「このCMは、深夜2時、
木造住宅の一室で収録しています」
男性 「YEAH〜!」(ギターにあわせて激しいシャウト)
ナレーター(女性)
「もう一度言います。
このCMは、深夜2時、
木造住宅の一室で収録しています」
(ギターの音が徐々に小さくなり、ドアの閉まる音)
ナレーター(男性)
「例えば、防音室のある木造住宅だって建てられる。
建てたい家を、建てませんか。
ネオデザインハウスの脇坂工務店です。」
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今でもAIR-G’で時々流れているので、
耳にされたことがある方がいるかもしれませんね。
完成形を聴いた時は、
面白いCMができたなーくらいに思っていました。
さて、そんなCMのことを忘れかけていた頃、
再びAIR-G’の営業T中さんから連絡がありました。
「全国1位になりましたよ、脇坂さん…!!!」
なんでも、このCMをAIR-G’さんが加盟している
JFN(ジャパンFMネットワーク)という団体の
CMコンテストにエントリーしたところ、
21秒以上の部門で最優秀に選ばれたとのこと。
ある意味、日本一です。
AIR-G’開局以来の快挙だったとか。
それを受けての祝宴が、冒頭の中華料理屋だったわけです。
そして、その場に居合わせたのが、
CMを考えたコピーライターのTさんでした。
「そうか…、彼に企業スローガンを頼めばいいのか…」
と、この祝宴に参加する前から考えていた私。
普通、企業スローガンを作りたくなっても、
まず誰に頼んだらいいんだろう…と思いますよね。
そりゃコピーライターというプロに頼めばいいことは
なんとなくわかっていましたが、
そんな知り合いはいなかったわけで。
何より、いくらお金がかかるんだろう…。
どうも周囲に聞くところによると、
彼はかなりの売れっ子らしく、
「1文字1万円らしい」
「ちなみに句読点は5000円らしい」
という噂がまことしやかに囁かれていました。
それだと100文字超えるとちょっとさすがに…、
「100文字以内で収めてください。
あ、句読点多めでお願いします」
とか失礼だよな…。
そもそも、うちのような企業のスローガンを
書いてくれるものだろうか…。
ということをグルグル頭の中で考えた挙げ句、
お酒の勢いを借りて、
「あの、う、うちの企業スローガン、
書いてくれませんか…!」
と声をかけたのです。
若かりし頃、意中の女の子に告白した時のことを
思い出しましたね…。
すると、メガネに手をかけながら
「あ、いいですよ」
と淡々と返答するTさん。
肩透かしをくらいつつ、
最初に私にインタビューしたいというので、
日取りを決めて、その日は別れました。
後日、銭函のオフィスを訪れたTさんから、
2、3時間ほどじっくりインタビューを受けました。
会社を始めたきっかけとか、個人的な話も含めて、
問われるがまま、あれやこれやと話をしました。
で、「わかりました」と淡々と言って
Tさんは帰っていきました。
1,2週間ほどして、
Tさんから提案の準備ができたと連絡があり、
今度は彼の事務所にお邪魔しました。
(いろんな人の事務所を見るのは私の趣味なんです)
提案を受ける前にイメージしていたのは、
「これがいいと思うんすよぉ〜、
ボクのセンス的には。
社長に、このセンスわかるかな〜」
アーティストぽい感じなのかなと
思い込んでいました。
が、実際は真逆だったのです。
企業スローガンをつくるのであれば、
どう機能するコピーを目指すべきか、
競合他社との違いをいかに生み出すか、
みたいなロジックがまず語られました。
感覚的どころか、非常に理系的な印象でした。
そのロジックや考え方を踏まえて
提案された言葉が数案あったのですが、
彼のおすすめしてきた案で即決です。
それが
「話のわかる工務店」
というスローガンだったのです。
趣旨をTさんに尋ねると
「脇坂さんたちは言われたことをただこなす、
ってことはしないですよね。
かといって、頑固一徹の職人のように、
お客さまからの要望を頭ごなしに否定して
自分たちの主張を押し付けることもないのかなと。
コミュニケーション力と技術力によって、
理想の家づくりを叶えていく強みが
御社にはあるのではないでしょうか。
それを端的に言葉にしました」
と淡々と説明してくれました。
それまで上手く言葉にできていなかったけど、
そういうことを言いたかったのです。
やはり私の目に狂いはなかった…!
というか、あまりに即決だったから、
「え、いいんですか…?」
と淡々としたTさんが逆に驚いていました。
あ、そうそう、
「1文字1万円」と噂になっていた
Tさんのギャランティですが、
見積もりを見る時はドキドキしましたね。
「その噂、風評被害ですよ…」
とTさんが遠い目をしながら言っていたので、
否定しておきます。
むしろコストパフォーマンスが高い!
(って言わないと、
Tさんからの追加請求がきそうなので、
言っておきます)
企業スローガンが決まったことによって、
色んなことが動き出しました。
ロゴを作ったこともそのひとつです。
Tさんがチームを組んでくれた、
これまた売れっ子の
Nさんというデザイナーが手掛けてくれました
。
「話のわかる工務店」だから、
会話を積み重ねた末に家が立つということで、
吹き出しの上に屋根があるマークに。
新しい感じがありつつ、
伝統も醸し出すような、
いい意味で不思議なロゴができました。
他にも社屋外壁に広告を出してみたり、
銭函の街中に看板を設置してみたり、
2019年の25周年の際には周年の言葉も
考えてもらいました。
ぜんぶ言葉を起点にしてやっています。
余裕のある大手なら、
大量のイメージ広告を打ったりすれば、
存在感を高められますけど、
中小企業に同じことはできません。
じゃあ、どう戦うのか。
その戦術のひとつが、
脇坂工務店にとっては言葉だったのです。
「経営者である私とコピーライターが
直接話ができる関係が築けたのは、
ラッキーでしたね。
これが良いんです。
言葉の話であれば、
間に人が入ると伝言ゲームになってしまい、
ロスが生まれます。
私とTさんとの間柄なら、
自分の伝えたいことが直接伝えられるし、
それに対する客観的意見を直接言ってもらえる。
経営者って、つまりは言葉で人を動かすのが
仕事ってところがありますから、
コピーライターの力を借りるのは
非常に有効だと思っています。
ただ、言葉にしていくことは
自分をさらけ出すことに近いわけです。
さらけ出すと、好き嫌いも生まれるでしょう。
そこは仕方ないですね。
私たちの考えや姿勢を理解してくれる人、
共感してもらえる人にだけ
響けばいいなと思っています。
そう、今まさに
この文章を読んでくださっている方に
届けていきたいのです。
「話のわかる工務店」の名に恥じぬよう、
これからも言葉を重ねて、
いい家を作っていきたいものです。
そうそう、
コピーライターTさんへのご用命は、
脇坂までどうぞ。
脇坂工務店価格で、
1文字1万円のところ、
今なら1文字5000円
さらに句読点をサービスします。
あ、冗談ですよ…。
(Tさんはご紹介します)
脇坂肇