「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2019年10月29日 更新

#6

疑われた男。

脇坂肇

「あなたなしでは生きていけないの!」
男性なら(いや女性でも)、
一度は言われてみたい言葉です。
かつて私は、そんなドラマチックな言葉が
飛び交う場面に居合わせたことがあります。
しかも、言われたのは当社の男性従業員。
一体全体どうしてそんなことになったのか。
今回は、大きな意味でのラブストーリーです…。

これまで数え切れないほどの方と
お会いしてきましたが、
初対面のお客さまは、
やはり緊張されているように感じます。
ほぼ100%じゃないでしょうか。
無理もないです。
今まで使ったことのないような大金で、
家や土地という、
未知なる商品を買おうとしているのですから。
対面でお話していると、
「この会社で大丈夫だろうか?」
とか
「この土地でいいのだろうか?」
とか
「社長はラジオであんな感じだけど、
本業でもあんな感じなんだろうか…?」
とか思っているのが、
なんとなく透けて見えてくる気がします。
長年の経験がなせるワザかもしれません。
今どきは皆さんWEBで情報収集してから
いらっしゃいますけど、
(あ、まさに今もそういう方が
読んでいるかもしれませんね)
とにかく誰しも不安がいっぱいなんですよね。

だから、初顔合わせの時、
営業担当の私、脇坂肇のミッションは、
皆さんの緊張を解くこと。
一番効果的なのは、
これまでの経験をお伝えすることだと思います。
「そういうケースで言えば、
こんなお客さまがいらっしゃって…」
とか、
「こういうやり方にすれば、上手くいきますよ」
とか。
頭の中には膨大な事例が詰まっているので、
それらをお披露目していくと、
お客さまの頭の中のイメージが膨らみますし、
わかりやすいようです。
場の空気が変わっていくのを感じます。
ラジオではギャグを連発していますが、
商談の時は慎重に空気を読みます。
失敗すると、より緊張が走りますからね…。
第一印象は大事です。

そして、第一印象と言えば、
いつもある女性を思い出すのです。
あの大女将さんのことを…。

あれは2012年ごろのことでした。
きっかけは、知り合いの不動産屋さんから
「面白い土地があるんです」と紹介された、
札幌市豊平区の土地です。
立地が良く、120坪ほどとちょっと大きめだったので、
2分割にして売ろうと考え、即決で購入しました。
そして、脇坂工務店の看板を土地に立てて
売出し中であることを告知した途端、
すぐに問い合わせの電話が。
「その2つの土地、どっちも買います!
明日にでも手付金払えますから!」
と、ものすごい勢いでした。
声の主は…仮にAさんとしておきましょう。

よくよく事情を聞いてみると、
Aさんは札幌で間もなく創業100年を迎える
老舗料理店の4代目でした。
二世帯住宅を建てるべく、
以前からその土地を買うか否か、
家族でものすごく迷っていたそうです。
そうこうしているうちに、
売り出し中の看板がなくなったので、
「売れてしまったのか…」と
がっかりしていたところ、
ある日脇坂工務店の看板が
新たに立っているのを目にして、
慌てて電話されてきたのだとか。

実は、2分割した土地のうちの片方は、
既に検討中のお客さまがいたんです。
しかし、Aさん一家の怨念、
じゃなかった、願いが通じたのか、
すーっとその方はいなくなり…(比喩です、比喩)、
Aさん家族は土地を取得できることになりました。
ちなみに、私の信念として、
「想いが強いと、その人に土地がいく」
っていうのがあります。
経験上、ほんとにそうなんです!
そんな場面を何度も見てきました。
長い時を経て、土地には
色んなものが染み付いていると思うんですよね…。
色んなものが…。
あ、この話は長くなるのでまたの機会に。

さて、無事に土地はAさんのものになりました。
建築条件付きの土地だったので、
施工は私たちが行う条件だったのですが、
設計についてAさんは、
ある設計士の方に依頼したいと。
特に私たちとしては問題なく、快諾して、
物事が動き始めました。
そして、とうとう登場されたのです。
Aさんのお母さん、大女将さんが…。

大女将さんは、
その料理店の2代目の娘さんであり、
3代目のお嫁さんであり、
4代目のお母さんにあたる方でした。
つまり、バリバリの女将さん、
女将オブ女将なわけです。
ゴッドファーザーの音楽が聴こえましたから。
(いや、どちらかというと、ゴッドマザーですね)

最初の打ち合わせのことを私はよく覚えています。
大女将さんが、
私のことを頭の先から爪先まで舐めるように
見ていらっしゃったことを…。
Aさんのお店は、
創業100年近い老舗だけあって、
経営者など一流の方が訪れるようなお店です。
だから、
「私がちゃんとした人間か見極めているのかな…」
と思いました。
ご本人に聞いていないので真偽はわからないですが、
ものすごく視線を感じたことは覚えています。
単に、その時私のズボンのチャックが
うっかり開いていたからなのかもしれませんが。

冗談はさておき、
それこそ冒頭に申し上げた通り、
今思えば大女将さんも多少なりとも
不安だったんだろうなと思います。
ノドから手が出るほど欲しい土地を買ったら、
こんな脇坂肇という男まで付いてきたわけで。
もし今、大女将さんに聞けば、
「あら、やだ!疑ってたなんて人聞きの悪い!」
なんて笑われるかもしれませんが、
当時の私は大女将さんとの間に、
マリアナ海溝より深い溝をひしひしと感じていました。

今ではすっかり仲良くさせて頂いていますが、
当時は何回目かの打ち合わせの時に
「家が完成した時には
『脇坂工務店に頼んで良かった!』と言わせますから!」
なんて冗談半分で彼女に伝えたくらい、
私は気合が入っていました。

さて、疑いの目を感じつつも、
見積もりとプランが固まり、地鎮祭も終わって着工へ。
しかし、ここから事態は予想外の展開を見せます。
着工後、色々な事情により
Aさんご指名の設計士の方が窓口にはならず、
当社の現場監督今野さんが対応に当たることになりました。
営業の私は工事が始まってしまうと、
現場監督にバトンタッチして、
基本的に出番がなくなるんですよね。

ちなみに営業の辛いところだなぁ…と思うのは、
数字が決まるまではお客さまに目の敵にされること…。
見積もりを出すと、キッと睨まれることも…。
内心
「いや、あの、アレとコレを追加したいと言ったのは
私ではなく、奥さまなわけで…。
追加したら金額が上がるわけで…」
みたいなこともあります。
だから、そんな場面を乗り越えて
見積もりが確定した後、
お客さまと設計士と、当社の現場監督の3者が
楽しそうに話しているのを柱の陰から見ると、
「いいな、みんな楽しそうで…」
と寂しい気持ちになります。
営業は孤独なんですよ…。

とにかく今野さん主導で工事は進んでいき、
特にトラブルもなく、非常にスムーズに終了。
無事にAさんたち念願の二世帯住宅は完成しました。

家の引き渡しの時、大女将さんが仰った言葉を
私は一生忘れることはないでしょう。

「私、今野さんがいないと生きていけないのっ!」

数ヶ月前まで
私に疑いの眼差しを向けていた(気がする)彼女が、
恋する乙女のような言葉を口にするなんて!
一瞬、うちの今野さんと大女将が
メロドラマみたいに恋に落ちたのかなと思いました。
が、よくよく話を伺うと、
新居の設備、ボイラーや暖房の機器の操作、
大女将さんが苦手だったんですね。
今野さんがいないと扱い方が全然分からないと。
もちろん、単にそれだけじゃなく、
きっと彼の現場の仕切り方や対応をみて、
大きな信頼を寄せて頂いた結果としての、
一言だったと思います。
さすが、マダムキラー今野さん。
罪作りな男です。
当然、今野さんは引き渡し後も、
Aさん宅のアフターケアを担当させて頂いております。

実は、
「私、今野さんがいないと生きていけないのっ!」
という言葉には一つの伏線がありました。
タケノコです。
そう、あのタケノコ。
私、山菜採りが趣味でして。
毎年5月半ばから6月半ばくらいにかけて、
毎週のように新鮮なタケノコを採っては、
お世話になったお客さまや知り合いに配っていたんです。
なので、当時家の話が進め始めたAさんにも
「良ければお店で使ってください」
ってことで、届けていました。
海産物の料理を出していることもあって、
山のものをメニューに組み込むと、
アクセントになって、お客さまに喜ばれるんですよね。
ましてや、タケノコは旬が短いし、
鮮度の良いものは手に入りにくい。
私はこれを「タケノコ接待」と呼んでいます。
まあ接待と言いつつも、
「お互い、商売頑張りましょう!」
という気持ちでタケノコを届けているだけ。
微力ながらもタケノコが
お店のお客さまを喜ばせれば、
お店の繁盛につながるわけで。
結果、それは私たちの商売にもつながっていきますし。
つまり何が言いたいかと言うと、
Aさんのお店でタケノコ出てきたら、
まず間違いなく脇坂のタケノコということです。

そんなタケノコが功を奏したこともあって、
大女将さんの脇坂工務店に対する印象も変わり、
「私、今野さんがいないと生きていけないの!」
という、あの一言が出たのだと思っています。
今野さんとタケノコのおかげで、
ひと家族の幸せをお手伝いできた。
そんなお話でした。

あ、Aさんが何屋さんなのか、気になりますよね。
数年前に東京の超売れっ子落語家さんをご案内したら、
すっかり気に入ってくださって。
以来、彼は札幌に来ると足を運んでくれています。
どこか気になる方は、
脇坂までお問い合わせください。

脇坂肇