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ラーメン 道・店主 金沢道人さん夫妻
親しくなっても、お互い妥協はしない。だから、つきあっていける。そう脇坂さんのことを語る金沢さん。隣で奥さんが「二人は似た者同士」と笑う。
●丸太の木組みもダイナミックな店舗
戦後つくられた札幌軟石の倉庫を、新本店に改造。温かみのある木を使った内装と、石の素朴な風合いがマッチしている。設計は、脇坂工務店の「ネオ・デザイン住宅」プロジェクトに加わっている、若手建築家の奥村晃司さん。
妥協せずにこだわり、
仕事を楽しむという似た者同士が出会って
さわやかな初夏の風が薫る5月下旬、札幌の有名店「ラーメン道」が石蔵の新本店をオープンさせた。店主の金沢道人さんは化学調味料を一切使わない、おいしいラーメン作りにこだわり、多くの人を魅了し続けている。ラーメンの作り手として常に真剣で、一見怖い頑固親父風にも見て取れるが、堅物ではない。「こう作ったら、もっと味が良くなるかな」と研究心に遊び心を添え、ラーメン作りを楽しんでいる。
そんな金沢さんの周りには、妥協することなくポリシーを貫き、それを大変と感じることなく仕事を楽しむ人が自然と集まってくる。その一人が脇坂工務店の社長、脇坂肇さんだ。「主人も脇坂社長も似た者同士。今ごろ気がついただなんて、言わせないワ」と、金沢さんの奥さんが二人を前にしてころころ笑う。男同士「そうかなぁ」と目を見合わせ、バツの悪そうな表情を見せる。
「今から7~8年前、出会いは自宅のリフォームでした。モルタル壁にヒビが入り、木の外壁にしてみたいとは思っていたけど、建築会社なんてどこも知らなくてね。当時、脇坂工務店が丘珠にあって、店舗の前のツリーにはきらきらとイルミネーションが光っていて、やけに派手だった。“きっと、面白い会社なんだろうな”と訪ね、会ってみたらやっぱり社長も社員も面白い(笑)」と金沢さん。
脇坂さんについても「いろんなことを知っていて人脈も広い。得にならないことでも、骨身を削って何かする。肩書きがどうあれ、一人の人間として魅力を感じましたね。その後、店や親の実家の工事もお願いしているんですが、しっかりした仕事をするので安心して任せられました。ウチは脇坂工務店だけ。競合する会社はありません。あっ、少しほめ過ぎか(笑)」と、目を細め笑顔で話します。
店が順調で、新たな店舗展開を考えていた金沢さんに石蔵の話が持ちかけられたのは昨年末。見た瞬間に気に入り、奥さんに「決めたから」と電話。そしてすぐ脇坂さんに「工事、やってもらうから」と連絡した。あそこならこの古い石蔵を、多くを語らなくても間違いなくいい店にしてくれる。金沢さんには確信があった。
確かに、打ち合わせで多くを語る必要はなかった。金沢さんが作りたい店を、長年の付き合いから十分承知していた。設計は「ネオ・デザイン住宅」というプロジェクトを一緒に推進している、若手建築家の奥村晃司さん。金沢さんが追求する素材の旨みと、丸太などの「自然」な風合いが一つの共通点となって、心地よい空間づくりにつながった。
メニューに餃子を入れようという話が出ると、脇坂さんは「新作の素材に使えないかな」と、嬉しそうにエビやカニ、シャケ、人気店の餃子まで持ってくるほどの熱の入れようだったという。果たして、これも工務店の仕事なのか?
「だってね、僕らが手掛けた店はやっぱり繁盛してほしいでしょ。道のファンだし」。飾り気のないその言葉に、温かな人柄が感じられる。目立ってほしい、お客さんがどんどん来てほしいと、看板は木を使って大きな「どんぶり」の形にした。
これまでも「ラーメン道」は、数々のメディアに取り上げられ、金沢さんは局のディレクターなども知っている。この夏、脇坂工務店では家を建てた後もお施主さんたちと楽しくおつきあいできるスペースとして、海を見ながらバーベキューが楽しめるゲストルーム「浜辺の家」を完成させた。ステージもある大規模なもので、脇坂ファンの集いの場。金沢さんはこの「浜辺の家」の話を局に持ちかけている。人に頼み事をするのはあまり得意ではないが、脇坂さんの裏表のない一生懸命な姿勢に、「この人のためだったら」と労をいとわず動いている。気がつけばいつの間にやら、脇坂工務店のメディア担当重役? そんな感じだ。
人を思い、人のために建築をする。そこから建築というジャンルを超えた、人と人のつながりが生まれ、また新たに人を思いやる建築の場が生まれる。脇坂さんが仕事を楽しむ理由が見えてきた。